侵徹の物理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/27 05:46 UTC 版)
APFSDSは、従来の徹甲弾よりもより高い衝突速度で侵徹が生じる徹甲弾である。APFSDSの初速は概して1,500m/s以上であり、第二次世界大戦以前に使用されていた徹甲弾と比較して高速で侵徹が生じる。このような高速度での衝突では、侵徹体先端は塑性変形を生じながら侵徹が生じ、これがAPFSDSの侵徹を特徴づける現象となっている。このような侵徹様式では、侵徹体の先端はマッシュルーム状に広がりながら装甲にめり込み侵入する。侵徹体は塑性変形によって先端から失われてゆくため急速にその長さを失って行き、装甲厚に対して十分な長さが無ければ穴だけが残され、長さがあれば残端が装甲内部に飛び込んで加害する。 このようなAPFSDSの侵徹を表現するモデルは1967年、1966年にTateおよびAlekseevskiiによって独立に提案された。侵徹体が消耗する侵徹は、成形炸薬弾の侵徹様式を表現するモデルとして、Mott、Birkhoff、PackおよびEvansによって提案され、TateおよびAlekseevskiiによって装甲の強度および侵徹体の強度を考慮したモデルが提案された。これらのモデルは、侵徹体と装甲の振る舞いを流体力学的に取り扱うことで侵徹先端速度を求めることで、侵徹体の侵徹性能を簡潔に導出している。これらのモデルに基づけば、APFSDSの侵徹性能の上限はAPFSDSの侵徹性能は装甲の強度に強く依存する一方で侵徹体の強度にあまり依存しない。また、侵徹体長さあたりの侵徹深さは衝突速度に対して上に凸の依存性を示し、上限が存在する。その上限は侵徹体の密度 ρ p {\displaystyle \rho _{p}} と装甲の密度 ρ t {\displaystyle \rho _{t}} の比の平方根 ρ p / ρ t {\textstyle {\sqrt {\rho _{p}/\rho _{t}}}} によって定まる。 1995年、AndersonおよびWalkerは連続体力学的な取り扱いから同じくAPFSDSの侵徹モデルを提案し、従来の徹甲弾とAPFSDSを統一的に取り扱うモデルを提案している。タングステン合金弾が鋼製装甲板に穿孔する場合では850m/sec以上、鋼製の侵徹体が鋼製装甲板に穿孔する場合では1,100m/sec以上の速度が無いと侵徹体の消耗を伴う侵徹は停止し、侵徹体が消耗しない侵徹様式に移行する。 侵徹は装甲に対してほぼ平行に着弾した場合を除き跳弾を起こすことは無く、滑らすという意味での避弾経始は殆ど機能しない。APFSDSが装甲を貫通するためには、着弾時の速度、侵徹体の長さ、座屈しないための靱性、展性の高さの4つが必要である。着弾時の速度が低速であれば従来の徹甲弾より貫徹力が劣る。
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