使者の心得
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初出:『yom yom』vol.16〈2010年6月〉 これまでの4話とその前後のエピソードが、歩美の視点で語られる。歩美が高校2年生の11月から3月までの期間の話。 歩美の祖母アイ子は、心臓病で入院したのを機に使者の仕事を歩美に継いでもらいたいと言い出し、歩美はそれを了承する。その際、アイ子は歩美に会いたい人はいるかと尋ねる。歩美は、両親のことを思い浮かべるが、しばらく考えさせて欲しいと答える。歩美の両親は、彼が小学1年生の時に謎の死を遂げ、浮気を疑われた父が母を絞め殺し、舌を噛んで自殺したのだろうということになっていた。 こうして使者の仕事を継ぐことになった歩美は、しばらくは見習いとして経験を積むため、依頼人と会って詳しい依頼を聞き出すことと、死者と依頼人との面会の日にホテルで立ち会うことから始めることになる。そして、平瀬愛美と畠田靖彦の依頼について、仲介の手伝いを果たす。続く、嵐美砂の依頼では、歩美が彼女に御園奈津からの伝言を伝えたとたん、美砂が半狂乱になる姿を見て、面会が必ずしも生者と死者の双方にとって幸せな結末になるわけではないことを知る。 次に、アイ子が自分で声をかけた土谷功一が、失踪した婚約者の日向キラリに会いたいと依頼してくる。歩美はアイ子がキラリを呼び出す場面を見学する。キラリは、しばらく迷った末に面会を了承する。その際、歩美は、死者の魂をあの世から呼び出すというより、この世に残っているその人の欠片や記憶をかき集めているような印象を持つ。だとしたら、死者は面会の記憶をどこかに持ち越すことができず、ただ依頼人の記憶にしか残らない。面会は単に死者を利用して生者が先に進もうとする行為であり、生者の側のエゴ、死者に対する冒涜ではないのかという疑問を抱くようになる。 先輩たちの卒業式の日、歩美は美砂が主役を演じる奈津の追悼公演を観に行く。そして、その演技に圧倒される。公演後に舞台に向かった歩美は、他の生徒たちのように感極まった様子ではなく、1人で唇をかみしめて衣装をつかんでいる美砂を見つけ、声をかけるのをやめる。 功一とキラリの面会の日、功一は約束の時間を過ぎても現れず、電話にも出ない。雨の中探しに出た歩美は、途中で愛美に会う。彼女は、以前会ったときよりも声が落ち着き、おどおどした敬語は消えている。歩美が自分に依頼して良かったかと尋ねると、愛美は良かったと答える。歩美は今の愛美が何に支えられ、美砂がなぜ演劇を続けるのかも分からないが、きっと再会したサヲリや奈津の視線を自分の中に持っているのだろうと思い、死者との面会にも意味があることを悟る。そして、かつて両親と暮らした家や両親のことを思い出す。愛美から傘をもらって再び功一を探し始めた歩美は、喫茶店にその姿を発見し、彼を叱咤し、キラリに会うよう懇願する。 正式に使者の力を引き継ぐ日、歩美はアイ子が一度父に使者の力を譲ったのではないかと言う。そして、母が鏡を覗いてしまったため、両親は死んでしまったのではないかと。アイ子はそれを認め、使者のことは母にも言ってはならないと自分が父に命じたため、母が父の浮気を疑うようになり、鏡を見つけてしまったのだと泣く。しかし、歩美は、きっと父は母に使者のことを話しており、鏡を覗くなと強く警告しなかったため、母は、父と仲違いをしたまま亡くなった祖父を父に会わせたくて、鏡を自分で使おうとしたのではないかと語る。それを聞いたアイ子は、それこそ真実だと悟って嗚咽を漏らす。 歩美は、将来別の人に使者の力を譲ったら、アイ子に会いたいと言う。そしてアイ子は、歩美に使者の力を引き渡す儀式を始める。
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