乳歯幹細胞培養上清(SHEDCM)の発見
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/28 09:16 UTC 版)
「上田実 (医学研究者)」の記事における「乳歯幹細胞培養上清(SHEDCM)の発見」の解説
それまでの幹細胞への理解は、あらゆる組織のもとになる細胞で、幹細胞自身が組織・臓器を構築すると考えられていた。 骨でいえば移植した幹細胞は骨芽細胞に分化し、みずから石灰化して骨組織をつくる。 しかし上田らの実験結果や臨床データには、この考え方では説明のつかない現象がいくつも発見された。移植した幹細胞の数と再生する骨の量は必ずしも正比例しないこと、移植した幹細胞はたった数週間で消えてしまうこと、拒絶されるはずの他家細胞(別の個体の細胞)を移植しても自家細胞(自分の体の細胞)と同様に骨は再生すること、などであった。これらは従来の幹細胞を主役とする再生理論では説明がつかない。かわりに「幹細胞は何らかの信号物質を産生するにすぎず、それらが生体内にある幹細胞を刺激して組織を再生する。」という仮説は成り立つ。この信号物質こそが「培養上清」であり、そのうち最も活性の高い培養上清が乳歯幹細胞培養上清であった。 2006年教室の総力をあげてこの仮説の実証実験がはじまる。2010年頃には対象疾患は脳梗塞、アルツハイマー病、脊髄損傷、多発性脳硬化症、低酸素脳症、糖尿病、肝炎、腎不全、心筋梗塞、肺線維腫症、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎。いずれも有効な治療法が見つかっていない難病に特化。名古屋大学医学部では多くの研究室が、難病に幹細胞による治療を試みていた。脳梗塞は脳神経外科で、関節リュウマチは整形外科で、というようにそれぞれの研究グループが疾患モデル動物に幹細胞の移植実験をおこなっていた。当時こうした難病に対して世界の研究グループが幹細胞の移植実験をおこなっていた。そうした状況下で上田らは幹細胞の代わりに培養上清の投与を行い、幹細胞と同等の再生効果を示すことを実証したのである。 2012年から培養上清の臨床応用をスタート。骨皮膚の再生に加えてアレルギー疾患、中枢神経疾患に顕著な治療効果を示した。2016年時点で症例数は100例を超え、その結果の一部は同年上海で開催されたThe 7th World Gene Conventionで発表され大きな反響を読んだ。ここで幹細胞療法にかわる培養上清療法が提唱された。2017年これらの功績に対して The Johnson & Johnson Innovation Awardが授与された。
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