プリンス・オブ・ウェールズ (空母)
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プリンス・オブ・ウェールズ | |
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HMS プリンス・オブ・ウェールズ(2023年10月)
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基本情報 | |
建造所 | ロサイス造船所 |
運用者 | ![]() |
艦種 | 航空母艦 |
級名 | クイーン・エリザベス級 |
モットー | Ich dien (我は仕える) |
母港 | ポーツマス海軍基地 |
艦歴 | |
発注 | 2008年5月20日 |
起工 | 2011年5月26日 |
進水 | 2017年12月21日 |
就役 | 2019年12月10日 |
要目 | |
満載排水量 | 65,000トン[1] |
全長 | 932フィート (284 m) |
最大幅 | 240フィート (73 m) |
水線幅 | 128フィート (39 m) |
吃水 | 32フィート (9.8 m) |
機関 | 統合電気推進機関 |
主機 | コンバーチーム製電動機×4基 |
電源 | |
出力 | 108,000 shp (81,000 kW) |
推進器 | 固定ピッチ・プロペラ×2軸 |
速力 | 25ノット (46 km/h) |
最大速力 | 32ノット (59 km/h)(試験時)[2] |
航続距離 | 10,000海里 (19,000 km) |
乗員 | 1,600名(うち操艦要員:679名[3]) |
兵装 | |
搭載艇 | シー級作業艇×3隻[4][5] パシフィック 24複合艇×2隻 |
搭載機 | F-35B V/STOL機 ・ヘリコプター (合計して平時約40機、戦時には最大48機) |
レーダー | S1850M長距離レーダー 997型中距離レーダー |
探索装置・ その他装置 |
ウルトラ・エレクトロニクス製 シリーズ2500電子光学システム |
その他 | 艦載機用エレベータ×2基 スキージャンプ×1 |
プリンス・オブ・ウェールズ(英: HMS Prince of Wales, R09)は、イギリス海軍の航空母艦。クイーン・エリザベス級航空母艦の2番艦であり[6]、同名の艦としては戦列艦「プリンス・オブ・ウェールズ」から数えて8代目になる。
艦歴
建造
2007年7月25日、デズ・ブラウン国防大臣は、38億ポンドで新型空母2隻を発注すると発表した。このニュースは政治家、労働組合に歓迎された[7]。この時点では新型空母はスキージャンプ式飛行甲板を備え、艦載ヘリコプターのほかF-35のV/STOL型であるF-35Bを搭載する計画であった。
2008年12月11日、ジョン・ハットン国防相は、新型空母の就役が当初予定の2014年と2016年よりも1年か2年遅れると発表した[6]。
2010年10月25日、同年の戦略防衛・安全保障見直しに伴い、イギリス海軍はクイーン・エリザベス級航空母艦2隻の同時現役運用を断念すると発表した。運用される空母を1隻にすることで、高騰するF-35のコスト76億ポンドを削減でき、「プリンス・オブ・ウェールズ」を、2018年に退役する揚陸ヘリ空母「オーシャン」の代替艦ともすることで、さらに6億ポンドの削減になると見積もられている。同時に艦載機がSTOVL機のF-35BからCTOL型のF-35Cに変更された。これに合わせて発艦方法がスキージャンプ方式から電磁式航空機発艦システム(EMALS,電磁式カタパルト)に変更され、対応する改修が行われた後、2019年にCTOL空母として就役することになった[8]。11月25日には、『ガーディアン』紙電子版が、「プリンス・オブ・ウェールズ」がインド海軍に売却される可能性があると報じた[要出典]。


2011年5月26日、「プリンス・オブ・ウェールズ」は起工した。建造は52のブロックに分割され英国内の6つの造船所で組み立てられた船体をロサイスで一つの船体に組み合わせる方式で行われた。
2012年5月10日、F-35Cの実戦配備もまた2023年まで遅れる見込みのため、イギリス政府は艦載機を再度F-35Bへ変更すると発表した。またフィリップ・ハモンド国防相は、STOVL型のF-35Bに変更されることにより、CTOL機向けの電磁式カタパルトやアレスティング・ワイヤーを装備しないことを示唆している[9]。
2014年にウェールズで開催されたNATO首脳会議でデーヴィッド・キャメロン首相は完成した「プリンス・オブ・ウェールズ」を売却や予備役ではなく英国海軍で就役させると発表した[10]。後に「2015年戦略防衛・安全保障見直し」で2隻ともが人員を充足してイギリス海軍で就役し、常時最低1隻を運用可能とする方針が示された[11]。
進水、海上試験
2017年9月8日、ロサイス造船所でロスシー公夫人カミラによって進水し、正式に「プリンス・オブ・ウェールズ」と命名された。12月21日、建造ドッグより出渠し、艤装を受けるため近くの桟橋に移された[12]。
「プリンス・オブ・ウェールズ」は2019年に海上試験を開始し、同年後半にも就役する予定だった[13][14]。9月22日、フォース湾で海上試験が開始された[15]。11月16日、拠点となるポーツマス海軍基地に初めて入港した[16]。12月10日、ポーツマスで就役を祝う式典が行われ、式典にはチャールズ王太子夫妻が臨席した[17]。
2020年5月に「軽微な」浸水事故を起こし、10月には消火装置から大量の水漏れを起こして電気配線が損傷し、修理のため8か月間のドック入りとなったため、F-35Bの訓練を目的としたアメリカ派遣がキャンセルとなった[18]。
修理完了後、海上試験を再開するため2021年4月30日にポーツマスを出港した[19]。10月、英国海軍は「プリンス・オブ・ウェールズ」が就役状態に完全移行したことを発表した[20]。
海上任務
2021年10月、スコットランド沖で行われた国際演習に参加[20]。同演習では姉妹艦「クイーン・エリザベス」との共同作戦を行った[21]。
2022年1月1日よりNATO海上即応部隊の旗艦に就任[22]。12か月間に任務にあたる予定だった。
損傷
2022年8月22日、「プリンス・オブ・ウェールズ」はアメリカ海軍および海兵隊、カナダ海軍とのアメリカ東海岸での演習航海「ウエストラント22(Westlant 22)」への参加、およびニューヨークで開催される国際会議「大西洋未来フォーラム」に参加するためポーツマスを出航した[23][24]。8月29日、英国のサウスコースト演習海域で機器の異常が検知されたため[23]、ワイト島沖のソレント海峡に停泊して調査を行った[25]。調査の結果、右舷推進部の結合部や舵に損傷が見つかった[26]。
演習航海は中止され、代わって「クイーン・エリザベス」が9月8日に出航した。なお、「ウエストラント22」で予定された、「プリンス・オブ・ウェールズ」のF-35Bの運用能力認定も延期された[27]。この損傷を英国放送協会(BBC)は「アメリカへ演習に出発した直後に故障し、足を引きずりながら岸に戻ってきた」と揶揄した[28]。「プリンス・オブ・ウェールズ」は10月12日からロサイス造船所に入渠し[29]、当初は修理完了後の2023年春にはポーツマスに戻る予定だった[30][31]。「クイーン・エリザベス」の部品取りにされているとの情報もあり、ベン・ウォーレス国防大臣が一時的な応急処置と釈明する事態となった[要出典]。
運用再開
約9か月の修理と能力強化を経て、「プリンス・オブ・ウェールズ」は2023年7月21日に出渠し、7月28日には公式TwitterにCH-47が飛行甲板に着艦する画像を投稿。7月31日には映画『トップガン マーヴェリック』に登場する台詞をパロディした文書を投稿して、飛行甲板の運用を再開したことをアピールした[32]。
2023年9月、英国海軍はWオートノミー・システムズ社と共同で、英仏海峡において「プリンス・オブ・ウェールズ」を舞台に様々な無人機を使用した補給活動の実証実験を行った。11月15日、ジェネラル・アトミックスASI社の無人機モハーヴェが「プリンス・オブ・ウェールズ」で離着艦訓練を行った。
2023年10月24日、大西洋上で演習航海「ウエストラント23(Westlant 23)」に関連してアメリカ海軍の第23試験飛行隊のF-35Bによる発着艦試験が行われた[33]。
2024年2月12日、「プリンス・オブ・ウェールズ」は推進器の故障で参加できなくなった「クイーン・エリザベス」に代わってNATOのステッドファスト・ディフェンダー演習に英国空軍第617中隊のF-35Bsと第847海軍航空隊のAW159ヘリコプターを搭載して参加し[34]、3月26日にポーツマスへ帰還した[35]。
オペレーション・ハイマスト
2025年4月から本艦を中心とした英空母打撃群(CSG 25)がインド太平洋地域に展開することが発表された[36][37]。この遠征作戦は「オペレーション・ハイマスト」と名付けられ、本艦を中心に複数の駆逐艦やフリゲート、補給艦などで編成された艦隊で、ノルウェーやカナダ、スペイン海軍の艦艇も含まれる[36]。参加規模はイギリス海軍から約2,500人、同空軍から約600人の要員が参加し、約8か月間にわたって、インド太平洋エリアを巡航する計画で、その間、日本やアメリカ、インド、シンガポール、マレーシアなど計12か国と演習を行うほか、各地に寄港し、日本にも寄港する予定である[36]。その間の演習に参加するため、空母打撃群にはイギリス陸軍の将兵約900人も随行する[36]。艦載機はF-35B戦闘機24機、ヘリコプター16機のほか、空母打撃群内の簡易的な物資移動に使用する、マルチコプタータイプのドローン「T-150」を今回の航海で初めて複数機搭載する。なお、F-35Bを運用する部隊については空軍の第617飛行隊「ダムバスターズ」と海軍の第809海軍航空隊「ザ・イモータルズ」になる予定[36]。
同年4月22日、母港であるポーツマス港を出航した。今後は各種艦船と合流し、艦載機を収容したのち地中海を経由してインド洋に向かう予定[38]。
同年5月5日から11日にかけて、イオニア海においてイタリア海軍の空母「カヴール」を中核としたイタリア空母打撃群と合同訓練を実施した。参加規模は艦艇21隻、潜水艦3隻、戦闘機41機、ヘリコプター19機、哨戒機10機が参加し、約8,000人の人員が関わる訓練で、主に両国の艦載機であるF-35B「ライトニングⅡ」が、昼夜を問わない飛行訓練を実施したほか、空母打撃群の対ドローン防空能力なども訓練した。また、艦船および潜水艦に関してはターラントとシチリア島の間の海域で対潜戦訓練も実施した[39][40]。
「Carrier Strike Group 2025」(CSG25)の編成は以下のとおり[41]。
- イギリス海軍
- ノルウェー海軍
- ミサイルフリゲート「ロアルド・アムンゼン」(KNM Roald Amundsen:F311)
- 補給艦「マウド」(HNoMS Maud:A530)
- スペイン海軍
- ミサイルフリゲート「メンデス・ヌーニェス」(Méndez Núñez:F-104)
- ポルトガル海軍
- フリゲート「バルトロメウ・ディアス」(NRP Bartolomeu Dias:F333)※ジブラルタル海峡通過前に合流
- カナダ海軍
- フリゲート「ヴィル・ド・ケベック」(HMCS Ville de Québec:FFH332)
ギャラリー
脚注
出典
- ^ Ministry of Defence (2018年2月13日). “Release of Information”. 2024年10月24日閲覧。
- ^ Allison, George (2017年7月24日). “HMS Queen Elizabeth exceeds stated maximum speed on trials”. UK Defence Journal. 2025年3月24日閲覧。
- ^ “Built by the Nation for the Nation – Aircraft Carrier Alliance”. 2017年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月24日閲覧。
- ^ “ATLAS ELEKTRONIK UK SEA Class – Delivering an Innovative, Flexible, Cost-effective Solution to the UK MOD” 2023年3月11日閲覧。
- ^ “In focus: the versatile new workboats being built for the Royal Navy”. (2018年8月6日) 2023年3月11日閲覧。
- ^ a b “Carriers to enter service late” (英語). BBC News. BBC (2008年12月11日). 2023年9月18日閲覧。
- ^ “MoD confirms £3.8bn carrier order” (英語). BBC News. BBC (2008年7月25日). 2023年9月18日閲覧。
- ^ 「海外艦艇ニュース 英海軍がクイーン・エリザベス級空母を1隻断念」『世界の艦船』第719集(2010年2月号)海人社
- ^ “英国:F-35戦闘機の機種変更 開発3年遅れで”. 毎日jp. 毎日新聞社 (2012年5月12日). 2012年7月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年7月12日閲覧。
- ^ 「UK aircraft carrier Prince of Wales to go into service」『BBC News』2014年9月5日。オリジナルの2014年9月15日時点におけるアーカイブ。2014年9月23日閲覧。
- ^ “National Security Strategy and Strategic Defence and Security Review 2015”. 2015年11月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年4月20日閲覧。
- ^ “イギリスの空母プリンス・オブ・ウェールズ、出渠して岸壁へ”. おたくま経済新聞 (2017年12月25日). 2023年9月18日閲覧。
- ^ Maddox, David (2013年3月23日). “600 Royal Navy personnel may be stationed at Rosyth”. The Scotsman. オリジナルの2013年3月25日時点におけるアーカイブ。 2014年6月7日閲覧。
- ^ “Britain's second carrier sets sail for sea trials”. (2019年9月19日) 2019年9月20日閲覧。
- ^ Clark, Leeza (2019年9月22日). “Naval flagship heads under the Forth bridges to start sea trials”. The Courier
- ^ “HMS Prince of Wales: Navy ship arrives in Portsmouth”. BBC News (2019年11月16日). 2019年12月11日閲覧。
- ^ “Commissioning day for HMS Prince of Wales”. Royal Navy (2019年12月10日). 2019年12月10日閲覧。
- ^ Cotterill, Tom (2020年12月7日). “Royal Navy's new aircraft carrier HMS Prince of Wales stranded in Portsmouth for six months after second flood”. The News (Portsmouth) 2020年12月9日閲覧。
- ^ Hope, Christopher (2021年1月2日). “Exclusive: Leaky HMS Prince of Wales spends fewer than 90 days at sea in two years”. The Daily Telegraph 2021年1月3日閲覧。
- ^ a b “The HMS Prince of Wales is NATO's Newest Aircraft Carrier”. The National Interest (2022年1月13日). 2022年7月27日閲覧。
- ^ “HMS Prince of Wales ready for global missions as international exercise ends off Scotland”. Royal Navy. 2022年7月27日閲覧。
- ^ Allison, George (2022年1月12日). “British carrier sails from Portsmouth to undertake role as NATO flagship” (英語). 2022年1月17日閲覧。
- ^ a b “UK's defective Nato flagship could miss 'landmark' flight trials” (英語). (2022年8月29日) 2022年8月30日閲覧。
- ^ Nicholls, Dominic (2022年8月29日). “HMS Prince of Wales 'faces long spell in dry dock' after breaking down” (英語). The Telegraph 2022年8月30日閲覧。
- ^ “HMS Prince of Wales to be dry-docked while HMS Queen Elizabeth takes on some of her tasking” (英語). www.navylookout.com (2022年9月1日). 2022年9月15日閲覧。
- ^ 「海外艦艇ニュース 英空母プリンス・オブ・ウェールズが故障」『世界の艦船』第985集(2022年12月号) 海人社 P.165
- ^ 乗りものニュース編集部 (2023年7月27日). “英国海軍の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」9か月の修理を終え復活! 今度こそ大丈夫!?”. 乗りものニュース 2023年7月30日閲覧。
- ^ “Royal Navy's HMS Prince of Wales finally departs for repairs” (英語). BBC News. (2022年10月8日) 2022年10月10日閲覧。
- ^ “Repairs to HMS Prince of Wales will not prevent return to operations this summer” (英語). Navy Lookout (2023年4月24日). 2023年4月24日閲覧。
- ^ “Royal Navy's HMS Prince of Wales repairs due to end by spring 2023” (英語). BBC News. (2023年1月2日) 2023年1月2日閲覧。
- ^ 乗りものニュース編集部 (2023年8月3日). “空母「プリンス・オブ・ウェールズ」“飛行士の皆さん”と『トップガン』パロディで飛行甲板の復活をアピール”. 乗りものニュース 2023年9月16日閲覧。
- ^ 青木謙知「F-35 LIGHTNINGII UPDATE」 『航空ファン』第853号(2024年1月号) 文林堂 P.64
- ^ “HMS Prince of Wales sails for key NATO exercise in Norway”. Naval News. (2024年2月13日) 2024年9月16日閲覧。
- ^ “HMS Prince of Wales welcomed home in Portsmouth after huge Nato exercises”. Forces News. (2024年3月26日) 2024年9月16日閲覧。
- ^ a b c d e “海自が認めた! イギリス空母艦隊間もなく来日へ F-35B戦闘機てんこ盛りの大型艦の名は?”. 乗りものニュース (2025年4月9日). 2025年4月23日閲覧。
- ^ 防衛省 海上自衛隊 [@JMSDF_PAO] (2025年4月9日). "≪情報解禁≫". X(旧Twitter)より2025年4月23日閲覧。
- ^ “日本に来る…! イギリス空母艦隊が母港を出港へ 今回F-35Bを乗せてやって来る艦は?”. 乗りものニュース (2025年4月23日). 2025年4月23日閲覧。
- ^ “欧州の2大海軍が集結 空母2隻を含む20隻を超える艦艇がズラリ そのうち1隻は日本にもやってくる!?”. 乗りものニュース (2025年5月15日). 2025年5月17日閲覧。
- ^ Marina Militare [@ItalianNavy] (2025年5月13日). "A bordo di NaveCavour, le battute conclusive della MedStrike25: incontro tra il Comandante in Capo della Squadra Navale e il Fleet Commander della RoyalNavy (イタリア語)". X(旧Twitter)より2025年5月17日閲覧。
- ^ “来日まもなく「イギリス空母艦隊」圧巻の陣容を公開!「原潜もいるぞ」4年前いなかった軍艦ズラリ”. 乗りものニュース (2025年4月30日). 2025年5月17日閲覧。
外部リンク
- HMS Prince of Wales - イギリス海軍
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