シスチジア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/01 00:23 UTC 版)
シスチジア(cystidia)は、キノコの組織中に認められる不稔性の異型細胞を総称する用語である。シスチジアのない種や、縁シスチジアと側シスチジアの形質が違う種などがありキノコの同定では重要である。日本語では、一般に嚢状体(のうじょうたい)の語が当てられる。見出される部位により、ひだの先(あるいは管孔の開口部)に存在するものを縁シスチジア(えんシスチジア:cheilocystidia)、ひだの側面(もしくは管孔の内壁面)にあるものを側シスチジア(そくシスチジア:pleurocystidia)、柄にあるものを柄シスチジア(caulocystidia)、傘の表面に見出されるものを傘シスチジア(pilocystidia)などと称する。縁・側の両者をまとめて子実層シスチジア(しじつそうシスチジア:hymenophoral cystidia)、柄・傘の両者を総称して表皮シスチジア(ひょうひシスチジア:dermatocystidia)とする。さらに、組織内の導管や乳管などに連結するものを偽シスチジア(ぎシスチジア:pseudocystidia)と呼び、そうでないものをレプトシスチジア(leptocystidia)とする区分もある。 顕微化学的視点からは、アンモニア水や水酸化カリウムなどのアルカリで黄変する不定形の内容物を含むものを黄金シスチジア(Crysocystidia)と称する。ただし、細胞質がアルカリで均一に黄変するものは、この用語の範疇には含まれない(ジンガサタケ属Anellaria など)。また、メチルブルーで青く染まる顆粒状の内容物を含むものをグレオシスチジア(粘嚢状体:gloeocystidia)、著しく光を屈折して輝いてみえる油状の内容物を有するものを油管シスチジア(ゆかんシスチジア:oleocystidia)という。前者はサンゴハリタケ属Hericium 、後者はイタチナミハタケ属Lentinellus その他に、その典型的な例がある。さらに、アセタケ属Inocybe やアナタケ属Schizopora などに見出される、厚い壁を備え、表面に不定形の結晶をこうむるシスチジアは、特にランプロシスチジア(油冠シスチジア:lamprocystidia)と称されることがある。不定形の結晶を欠き、単に厚い細胞壁を有するならば、厚壁シスチジア(こうへきシスチジア)あるいはメチュロイド(metuloid)の呼称が適用される。 シスチジアの定義には多少あいまいな部分もあるが、見出される位置・形態・化学的性質などによって、上記の呼称が適宜に併用されて記載に用いられている。その存在意義としては、担子器同士の間隔の調整・重力の検知(傘を水平に保ち、効率的に胞子を飛散させるため)・二次代謝産物の貯蔵や排泄などの役割を担っているとも考えられているが、まだ推測の域を出ない部分が多い。 通常、シスチジアの有無を肉眼で確認するのは困難であるが、ヒナノヒガサ(Rickenella fibula)、ミヤマオチバタケ(Marasmius cohaerens)など、一部の種では肉眼でも見出すことができる大きなシスチジアを持つものがある。また、ひだの縁にシスチジアが密生するものでは、ルーペでその存在を知ることが出来る場合も多い。特にひだ(もしくは管孔壁)そのものが有色でシスチジアが無色であるもの(ナヨタケ属・モエギタケ属・チャヒラタケ属など)、あるいは逆に、ひだや管孔が無色であるのにシスチジアが特有の色調を帯びるもの(クヌギタケ属・ウラベニガサ属やイッポンシメジ属など)においては、ルーペを用いなくても注意深い観察によってシスチジアの有無が判断できる場合がしばしばある。
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