サイバー軍と文民部門の協力・協働体制について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 02:28 UTC 版)
「アメリカサイバー軍」の記事における「サイバー軍と文民部門の協力・協働体制について」の解説
サイバー軍の活動について、文民部門におけるサイバー防衛の努力・取り組みへの悪影響を懸念する声がある一方で、同種の疑問・懸念として、そもそも「サイバー軍の活動は文民部門によるサイバー防衛の努力・取り組みを助けることになるのか。」という疑問・懸念も指摘されている。 これは、民間セクターとの関係で言えば、「万が一文民部門の重要インフラに対するサイバー攻撃が行われた場合、サイバー軍はどのような状況において、どういう風に民間と協力・協働していくのか。」という問題である。 また、対民間のみならず、アメリカ連邦政府内でサイバー防衛を所管する機関、特に国土安全保障省との権限関係について問題・懸念を指摘する声もある。特に一部の専門家からは、サイバー軍の新設によって国防総省とNSAが、これまで国土安全保障省と分担する形で行ってきた全国のコンピュータ・ネットワークを保護する取り組み・活動を独占しようとしているのではないかという疑念が示されている。実際、政策シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)に所属するサイバーセキュリティの専門家、ジェイムズ・A・ルイスは『ワシントン・ポスト』紙のインタビューに対し、「(ライバルとなるはずの)国土安全保障省の力が弱いうえに、新設されるサイバー軍の能力・権限が強化されることにより、国防総省は戦わずしてコンピュータネットワーク保護活動において独占的な地位を得ることになるのだろうか。」と疑問を呈している。そのうえでルイスは、「私は、国防総省はそのような事態になることを避けようとするだろうと思うが、権限の所在の問題は依然不明確なまま存在している。(トップレベルドメインで言うところの)“.mil”のドメインを持つネットワーク空間の外で活動することについて、国防総省に一体どういう権限があるのか。」と述べ、国防総省がいわゆる“.mil”のドメインを持つネットワーク空間以外でも活動することに否定的な見解を示している。実際には、オバマ政権では文民部門のコンピュータネットワークの監視・保護について、サイバー軍ではなくサイバーセキュリティ・コーディネーターという職務・ポストを創設する計画が示されているが、過去に連邦政府が同種の問題が生じた際にとってきた対応を理由に、依然として国防総省とNSAによる全国のコンピュータネットワーク保護活動独占を警戒する専門家もいる。 この点について、国防総省側ではウィリアム・リン国防副長官が2009年11月12日に行ったスピーチの中で、「この部隊(新設されるサイバー軍)は、国防総省の全ネットワークの日々の防御と保護を指揮することになるだろう。彼らは国防総省のネットワーク、(すなわちトップレベルドメインで言うところの)“.mil”のドメインを持つネットワーク空間に関して責任を負うことになる。(一方で、)連邦政府のうち(軍を除く)文民部門のネットワーク、(すなわちトップレベルドメインで言うところの)“.gov”のドメインを持つネットワーク空間についての責任は国土安全保障省にあり、それが本来あるべき状態である。」と述べ、文民部門への国防総省・サイバー軍の活動範囲拡大を否定している。また、サイバー軍の設立が公表された経緯について一部の専門家からは、本来であれば前週にスピーチの中で公表されるはずだったサイバー軍新設の公表が、予定より1週間遅れで、しかもスピーチではなく覚書という形で公表されたことについて、前述の国防総省とNSAによる全国のコンピュータネットワーク保護活動独占への懸念に対して、国防総省がその懸念を沈静化させる意図で行ったものでないかとする見立てもなされている。
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