コネクショニズムとは? わかりやすく解説

コネクショニズム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/31 17:53 UTC 版)

コネクショニズム(connectionism)とは、人工知能研究においてニューラルネットワークモデルに基づいた知能体を実現・実装する立場のこと。あるいは認知科学心理学において、同モデルでのシミュレーションなどの研究手法によって人間の認知や行動をモデル化しようとする立場のことである。コネクショニズムモデルに基づいた研究アプローチを取る研究者をコネクショニスト(connectionist)という。

例えば1980年代のデビッド・ラメルハートジェームズ・マクレランドによるPDPモデル(並列分散処理)の研究はその代表的なものの1つである。

概説

コネクショニズムの知能体の特徴は、学習の方式である。コネクショニズムの知能体へは、前もってカテゴリの分類基準を与えたり、前もって作業手順を与えておく必要はない。いわゆる人間の成人が持っている"概念体系"や"常識作法"に相当するものを事前に与えておく必要はない。コネクショニズムの知能体は、最初は"白紙"の状態であり、多数の事例を与えられ、"経験"することで、自らゆっくりと「学習」してゆく。

コネクショニズムは、人間の中枢神経系(なかでもニューロン)での情報処理を抽象化して、擬似ニューロンを構築し、それを層状に多数集めることで知能体を構築する。それはソフトウェアで擬似的に実現する場合もあれば、ハードウェアで実現する場合もある。そのようにして制作した知能体に"経験"を繰り返し与えると、多数の擬似ニューロンが、互いに結合したり、その結合度の値(パラメータ)を次第に変化させてゆく。コネクショニズムの知能体は、最初はあまり正しい反応を示すわけではなく、間違いも犯すが、ある程度の回数の経験を経た後に、次第に知能的な反応が現れる率が増えてゆく。

このシステムにおいては、いわゆる“知識”や“経験知”は、知能体全体の挙動として現れるのであり、多数の擬似ニューロンのパラメータ全部がそれを支えている。逐次実行型のPCのプログラムのように「記号」や「文字列」として物理的にどこかの局所一箇所にだけ存在しているわけではない。コネクショニズムの知能体が学習した状態を説明しようとしても、もはやそれは人間が日常的に用いている言葉や文章で離散的に簡潔に表現できるようなものではない。例えば1000個の擬似ニューロンで作動している知能体があったとして、あえてそれの学習状態を記述しようとしたならば、1000個分の擬似ニューロンのパラメータ(数字)を全て列挙する必要があろう。仮にそのような多数の数字の羅列を目前に提示されたとしても、人間にとってはどのような状態なのか直感的に理解できるものではない。

コネクショニズム出現以前の、離散的な記号論理の上に人工知能を構築する手法が真似ようとしているのが、言うなれば人間が通常時意識レベルで感じている心像(シンボル、文字、数字など)のレベルであるとするならば、このコネクショニズムの手法が真似ようとしているのは、人間の「」のレベルの物理的な挙動である、と言えよう。

歴史

1957年フランク・ローゼンブラットパーセプトロンを考案。

1969年マービン・ミンスキーシーモア・パパート、『パーセプトロン』を発表[1]。この著作の中で彼らは、単純パーセプトロンが線形分離不可能なパターンを識別できない事を指摘。第1次のニューラルネット・ブームの火消し役となった。

1982年ジョン・ホップフィールド (J.J. Hopfield) によってホップフィールド・ネットワーク (Hopfield network) が発表され[2]、第2次ニューラル・ネットワーク・ブームの火付け役となった。

1986年デビッド・ラメルハートジェームズ・マクレランドらによりまとめられた並列分散処理(PDP)モデル[3]バックプロパゲーションという方法を取り入れ、かつてミンスキーらに指摘された単層パーセプトロンが線形分離不可能なパターンを識別できないという難点を克服する方法を示すことで、その後のブームに大きな役割を果たした。

こうして1980年代、人工知能研究の分野でコネクショニズムの手法を採る研究者の割合が急速に増え、いわばブームとも言えるような状況も起きた。

その後、ニューラルネットワークの技術も進歩し、普及してきている。もはや研究室の中だけのものではない。

なお、「コネクショニズム(結合主義)」という呼称については、刺激反応の結合によって学習を説明した心理学者エドワード・ソーンダイクの理論的立場を指して用いられたのが、その先駆けである。

参考文献

  1. ^ Minsky, M. and S. Papert., Perceptrons; an introduction to computational geometry, MIT Press, 1969(=中野馨, 阪口豊訳『パーセプトロン』改訂版, パーソナルメディア, 1993)
  2. ^ “Neural network and physical systems with emergent collective computational abilities”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 79 (8): 2554-8. (1982). PMID 6953413. http://www.pnas.org/cgi/content/abstract/79/8/2554?maxtoshow=&HITS=10&hits=10&RESULTFORMAT=1&author1=hopfield&andorexacttitle=and&andorexacttitleabs=and&andorexactfulltext=and&searchid=1&FIRSTINDEX=0&sortspec=relevance&resourcetype=HWCIT. 
  3. ^ James L. McClelland, David E. Rumelhart, the PDP Research Group., Parallel Distributed Processing. MIT Press, 1986. (甘利俊一 他訳『PDPモデル』産業図書, 1988. )

関連書籍

  • エルマン他 Rethinking Innateness: A connectionist perspective on development. MIT Press, 1996. (乾 他訳『認知発達と生得性―心はどこから来るのか』共立出版, 1998. )

関連項目

外部リンク


コネクショニズム (Connectionism)

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第二言語習得の理論」の記事における「コネクショニズム (Connectionism)」の解説

「コネクショニズム」も参照 これらの発見は、コネクショニズムにも関連している。コネクショニズムは、コンピュータニューラルネットモデル使って言語インプットの中で同時発生頻度ベースに、言語要素連想付けを行う方法で、人間の脳の中での言語認知処理のモデル化試みている。 発生頻度は、言語習得複数言語学的研究において重要な要素である事がわかっている。 コネクショニズムは、学習者が、言語インプットの中の手本をもとに、同時発生する要素間に心理的な結合作ってゆくとモデル提案する学習者は、インプットから、認知過程通して、その言語法則抽出していく。それは、言語学習以外の分野認知によるスキルの習得と同様である。コネクショニズムは、生得言語法則や、生得言語学習能力存在否定するため、UGベースとした生得仮説よりも、さらにL2インプット重要さ強調する。何故なら、コネクショニズムでは、単語などの言語要素のみならず文法など言語法則インプットから取り入れるとするからである。

※この「コネクショニズム (Connectionism)」の解説は、「第二言語習得の理論」の解説の一部です。
「コネクショニズム (Connectionism)」を含む「第二言語習得の理論」の記事については、「第二言語習得の理論」の概要を参照ください。

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