ケッテイの生産と不妊性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 00:58 UTC 版)
ウマとロバは染色体の数が異なっており(ロバ 62本、ウマ 64本)、ケッテイは生まれにくい。両者の雑種として生まれるケッテイの染色体数は63本となり、不妊である。染色体数が偶数でない場合、生殖機能不全となるのである。ADMSによれば、「ウマ科の雑種は、遺伝子の数が少ない側(ロバ)をオスの親に持つときに生産しやすい。したがってラバに比べてケッテイを生産するのは難しい」という。 オスのケッテイとラバは通常、繁殖行動を抑えて管理しやすくするために去勢される。オスのケッテイやラバもメスとつがいをなすが、不妊である。オスのケッテイやラバが生殖能を有していたという報告はない。 メスのケッテイとラバは必ずしも去勢されるわけではなく、発情するか否かはまちまちである。メスのラバは、純血種のウマやロバとつがいになると子を産むことが知られているが、これは極めてまれである。1527年以降記録に残っているもので、メスのラバから子が生まれた事例は世界中で60件強しかない。一方ADMSによれば、メスのケッテイが子を産んだ事例は1件のみである。 ラバのメスは母側の遺伝子を100%子孫に伝える。ラバの母親はウマであるので、一般的にラバのメスは子孫に100%のウマの遺伝子を伝える。このため、オスのウマと掛け合わされたメスのラバは、100%のウマを生み、ロバの遺伝子を全く伝えない。 1981年に中国で、オスのロバに対して妊娠可能と判明したケッテイのメスが発見された。メスのラバと同様に、メスのケッテイが母側の遺伝子を100%伝えるならば、100%のロバを生むだろうと科学者は予想した。しかし、この中国のケッテイをオスのロバと掛け合わせたところ、"Dragon Foal"(龍の子)と名づけられた、ラバに似た特徴を備えてロバと似たメスの子を産んだ。生まれた子の染色体およびDNAを調べた結果によれば、これまでに文献で知られていない組み合わせであることが分かった。事前に予想されていた、オスのロバから受け継いだロバ-ロバの遺伝子と、メスのケッテイから受け継いだ(母側のロバの遺伝子を100%受け渡すとするならば)ロバ-ロバの遺伝子の組み合わせではないことが分かった。実際の遺伝子はロバ-ロバ/ロバ-ウマであった。つまり、メスのケッテイは父側の遺伝子と母側の遺伝子の混合を子に受け渡した。 2003年にモロッコで、オスのロバと掛け合わされたメスのラバが、75%ロバで25%ウマのメスの子を産んだ。DNA検査によれば、中国のケッテイの子と同様に混合した核型であることが分かった。通常のケッテイが63本の染色体を持ち、31対のウマ-ロバの組み合わせと1本のあまりで構成されているのに対して、このモロッコのラバは23対のロバ-ロバ染色体と8対のウマ-ロバ染色体と1本のあまりを持っていることを意味する。 モロッコでの混合した遺伝子の組み合わせの事例があることから、中国の事例での子の遺伝子が通常のものではないのは、ラバではなくケッテイが母親であるためなのか、あるいはモロッコでの事例のように何か他の要素が働いているのかは分からない。 他にもケッテイが希少である理由がある。メスのロバとオスのウマは、メスのウマとオスのロバの組み合わせに比べて相性が合いにくい。このため、2頭が引き合わされてもつがいとならない場合がある。また、つがいとなった場合であっても、メスのウマがオスのロバと掛け合わされた場合に比べて、メスのロバはオスのウマの種を宿しづらい。さらに、大きなケッテイを生ませるためには、大きなメスのロバを必要とするので、難しい問題が生まれる。大きなロバは次第に貴重なものになってきており、危機に瀕している家畜種であると宣言されているのである。ロバの所有者は、純粋な大きなロバの生産に高い需要があるので、不妊であるケッテイの生産に貴重な生殖期間を費やしてしまうのを嫌がる。
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