ウイルスの吸着
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/07 09:53 UTC 版)
「インフルエンザウイルス」の記事における「ウイルスの吸着」の解説
体内に侵入したウイルスは、まず標的になる宿主細胞の表面に吸着する。ウイルスは、宿主細胞に吸着するまでは、表面がタンパク質でできた単なる粒子であり、自分から宿主細胞に近づくことはできない。そのため、表面吸着の機構は非常に重要である。この過程において重要な役割をするのがヘマグルチニン (HA)およびノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれる表面タンパク質である。HAとNAはウイルスのエンベロープ(殻)に刺さった釘のような形をしているため、スパイクタンパク質と呼ばれる。HAはウイルスを構成するタンパク質の割合として最も高い40%を占め、ヘマグルチニンが破壊したり変質したりすれば、そのウイルスは感染力を失う。 ウイルスが細胞に侵入できるかどうかと、ウイルスが細胞内で増殖できるかどうかは、別の問題である。そのため、ウイルスのスパイクタンパク質は、自分が増殖できる細胞にのみ吸着するようにできている。インフルエンザウイルスのヘマグルチニン (HA) はシアル酸に吸着する性質を持つが、間違った細胞に吸着した場合、ノイラミニダーゼ(NA)が吸着を断ち切って再び遊離する。細胞表面の粘液にシアル酸が含まれる場合もあるので、NAの働きは、ウイルスが細胞に接触する前に粘液に吸着してしまわないようにするためにも重要である。 一方、宿主細胞の表面には糖タンパク質があり、この分子の末端がシアル酸(N-アセチルノイラミン酸)になっている箇所がある。末端部分に付いているシアル酸なので、シアル酸残基と呼ばれる。これがウイルスのレセプター(受容体)の役割を果たす。シアル酸残基の隣にはガラクトースが繋がっている。このシアル酸残基とガラクトースの結合パターンはα2→6結合とα2→3結合の2種類があることが知られている。ヒトの気道上皮細胞(つまり人の喉表面)ではα2→6結合になっており、トリの大腸上皮細胞(トリの大腸表面)ではα2→3型になっている場合が多い。このように、トリとヒトとでは細胞表面の構造が異なるため、トリインフルエンザが直接ヒトの細胞に吸着する可能性は低い。ただし、その可能性が皆無ではないため、養鶏場の作業員がトリインフルエンザに感染することもあり、一度感染すればその人の体内で増殖することも可能である。その場合でも、ヒトから別のヒトに感染する可能性はヒトインフルエンザに比べれば低いと考えられている。ブタの気道上皮細胞には、α2→3型とα2→6型の両方の糖鎖が発現しているため、ブタにはヒトとトリ両方のウイルスが同時に感染しうる。このことによって、ブタの体内ではヒトとトリ由来ウイルスの「合いの子」が生まれ、これが新型インフルエンザウイルス出現の一因になると言われる。また、ヒトの一部には遺伝的にα2→3型の糖鎖を持った人も存在することも報告されており、これが1997年以降、香港や東南アジアで発生しているトリインフルエンザのヒトへの感染の原因ではないかと考えられている。これらのヒトには直接トリ由来ウイルスが感染しうるが、大部分の(α2→6型糖鎖を持つ)ヒトの間での大流行には繋がらない。
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