アメリカにおけるV型8気筒エンジンへの移行
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/06 01:08 UTC 版)
「V型8気筒」の記事における「アメリカにおけるV型8気筒エンジンへの移行」の解説
1933年にクライスラーは流線型車「エアフロー」を開発したが、このモデルでは重量配分に新しい考え方が導入されていた。それまでの自動車では、駆動輪である後輪にある程度大きな重量を掛ける考え方が主流であったが、エアフローは全重量の50%以上を前輪に掛ける「アンダーステア型重量配分」を用いることで、結果として操縦性、直進安定性を改善させることに成功したのである。また、この重量配分を用いるにあたってエンジン搭載位置を前進させ、客室部分をホイールベース内に収めることで、車室スペースの拡大・座席位置の低下も実現され、乗客の居住性が改善された。この手法は1930年代中期以降、競合他社も続々と追随した。 第二次世界大戦後もしばらく、アメリカでは中級車以下は直列6気筒が主流であった。また高級車については複雑すぎるV型12気筒が廃れ、V型8気筒か直列8気筒かに収斂された。そしてこの時期から中級車エンジンのV型8気筒移行が本格化する。 エンジンから従来以上の高出力を得るために必要な策の一つが高回転化である。クランクシャフトが長すぎる直列8気筒で高回転を得るには、細かなバランスまでも考慮した極めて高度な精密加工を要する。これに対し、V型8気筒のクランクシャフトは短く、元々高回転向けで、一定水準以上の加工精度があれば必要十分な性能が得られる(フォードV型8気筒が鋳造クランクシャフトを実現していたことを想起)。 そしてエンジンのフローティング・マウントが進歩したことで、出来の良いV型8気筒なら従来のV型12気筒に比して実用上振動面での遜色は小さくなっていた。またエアフロー式のレイアウトを使う場合、エンジン長は極力コンパクトな方が好ましく、この点でも直列8気筒よりV型8気筒が有利だった。 このように、重く嵩張る直列8気筒やV型12気筒より、コンパクトで高性能を確保しやすいV型8気筒は、総合的に見て有利なシリンダーレイアウトであった。またトランスファーマシンを用いた大規模な量産手法を前提とすれば、大排気量エンジンとしては生産性がよく、むしろ低コストで生産することができたのである。
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