C*-環
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/12 07:34 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動C*-環はその内在的な構造のみにもとづいて公理的に定義されるが、実はどんな C*-環もヒルベルト空間上の線形作用素のなす環で、随伴操作とノルムに関する位相で閉じたものとして実現されることが知られている。また、可換な C*-環を考えることは局所コンパクト空間上の複素数値連続関数環を考えることになり、その連続関数環からはもとの位相空間を復元できるので、可換 C*-環の理論は局所コンパクト空間の理論と等価だといえる。一般の C*-環は、群(あるいは亜群)など、幾何学的な文脈に現れながら普通の空間とは見なされないようなものを包摂しうる変形(「量子化」)された空間を表していると考えることもできる。
定義
集合 A は以下のような構造を持つとき C*-環と呼ばれる。
一般的には上の条件 1, 2 を満たすものを *-環あるいは対合(付き)環、条件 1, 3 を満たすものをバナッハ環あるいは省略して B-環、条件 1, 2, 3 を満たすものをバナッハ *-環あるいは省略して B*-環[注釈 1]という。すなわち C*-環とはバナッハ *-環でノルムの C*-性を満たすものである。一般の C*-環は乗法の単位元 1 を持つことを仮定されないが、乗法の単位元を持つような C*-環は単位的 (unital) であると言われる。
C*-環 A と B について、A から B への環の準同型写像 f で対合作用 "∗" を保つものは C*-環の準同型、または *-準同型とよばれる。実は f に対する代数的な仮定から f がノルム 1 以下の(特に、連続な)線形写像であることが従う。とくに、与えられた C*-環に対してその *-構造と両立するノルムは1つしか存在しない。
例
- C(Ω)
- コンパクトハウスドルフ空間 Ω 上の複素数値連続関数のなす関数空間 C(Ω) (例えば実閉区間 [0,1] 上の連続関数たち)を考える。このとき、積を点ごとの積: f⋅g(s) = f(s)g(s), 対合を複素共役: f*(s) = f(s), ノルムを一様ノルム: ‖ f ‖ = sup{|f(s)| | s ∈ Ω} で定めると、C(Ω) は定数関数 1 を単位元としてもつ可換な C*-環となる。逆に、単位元をもち可換な C*-環はあるコンパクトハウスドルフ空間 Ω についての C(Ω) と同型になる。このコンパクト空間は環の極大イデアルの空間として実現でき、この同一視の方法はゲルファント表現と呼ばれる。
- C0(Ω)
- 同様にして局所コンパクトハウスドルフ空間 Ω 上の無限遠で消える複素数値連続関数のなす関数空間 C0(Ω) = {f ∈ C(Ω); 任意の ε > 0 に対して |f(s)| ≥ ε となる s ∈ Ω のなす集合はコンパクト} (例えば実直線 ℝ 上の f(t) = 0 であるような関数たち)を考えると、上の例と同様のノルムと対合によって C0(Ω) は(Ω がコンパクトでないときには単位元をもたない)可換な C*-環となる。
- B(H)
- ヒルベルト空間 H 上の有界線形作用素のなす代数 B(H) はノルムを作用素ノルム: ‖ A ‖ = ‖ Ax ‖⁄‖ x ‖, 対合を (A*x, y) = (x, Ay) で特徴付けられる随伴として、H 上の恒等作用素 I を単位元にもつ C*-環になる。特に、任意の自然数 n について n-次複素行列環 Mn(C) は複素転置共役を対合として C*-環になっている。
- 具体的な C*-環 M
- 同様にして B(H) の部分 *-代数 M が作用素ノルムで閉じているとき、M は C*-環である。これを具体的な C*-環 (concrete C*-algebra) という。コンパクト作用素のなす環 K(H) が例として挙げられる。Gelfand-Naimark の定理によって任意の C*-環はある具体的な C*-環と同型になる。また、可分な C*-環は可分ヒルベルト空間上の具体的な C*-環に同型になる。
- 被約群環
- 離散群 G が与えられたとき、ヒルベルト空間 l2G とその上の作用素たち λg: δh ↦ δgh が得られる。l2G 上の C*-環で λg (g ∈ G) 全てを含む最小のものは G の被約群環 C*λG とよばれる。離散とは限らない局所コンパクト群についてもこの定義は一般化される。
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- ^ I. M. Gelfand; M. A. Naimark (1943). “On the imbedding of normed rings into the ring of operators on a Hilbert space”. Math. Sbornik 12.
- ^ C.E. Rickart (1946). Banach algebras with an adjoint operation. 47.
- ^ I.E. Segal (1947). “Irreducible representation of operator algebras”. Bull. Amer. Math. Soc. 53.
- 1 C*-環とは
- 2 C*-環の概要
- 3 構造
- 4 他の分野への応用
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