高等学校 教育課程による分類

高等学校

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/18 14:27 UTC 版)

教育課程による分類

授業を行う時間帯、季節、方法などの違いにより、「全日制」、「定時制」、「通信制」の3種類の課程がある[4]

全日制

全日制(ぜんにちせい、英語: full time school)およびその課程である全日制課程(ぜんにちせいかてい、英語: full time course)とは、おおよそ平日(月曜日~金曜日、場合によっては土曜日も含む)の朝8時過ぎから午後4時半程度までの日中に学習する課程。全日制の課程(全日制課程)とは、通常の課程とされているものである。一般的に高等学校といえばこの課程を指す。1日に5時間から8時間程度の授業をする。学校教育法により、修業年限は3年と定められている。学年制が多いが、近年単位制に変更された学校も多く、2017年度(平成27年度)は全4907校のうち単位制が965校 (19%) ある[7]。在学中に高等学校卒業程度認定試験を受験することも可能である。卒業率は95%前後。2017年度(平成29年度)の高等学校の中退者数は46,802人[8]。中退理由は「学校生活・学業不適応」が34.9%で最も多く、次いで「進路変更」34.7%、「学業不振」7.6%の順となっている。中退者全体のうち、1年生が33.6%を占め、2年生22.9%、3年生は8.0%。一般的な傾向としては、現役入学者が多く過年度生が少ない(要するにほとんどの生徒が15歳~18歳である)などの特徴がある。

「昼間定時制」や「昼夜間定時制の昼間部」、「通信制の週5日通学コース」はこれに類する。

定時制

定時制(ていじせい、英語: part time school)およびその課程である定時制課程(ていじせいかてい、英語: part time course)とは、特定の時間帯や、季節において授業を行う課程のことである。1948年(昭和23年)に発足した。
一般的に「定時制」というと夜間定時制を指すことが多い。

夜間に授業を行う夜間定時制、全日制と同様に昼間に授業を行う昼間定時制がある。
また、同じ定時制課程の学科に複数の時間帯の教育課程()を併設する多部制と呼ばれる制度があり、 昼間定時制だと、昼間の午前・午後それぞれを中心とする昼間部2部を併設する昼間二部制がある。
また、昼間部夜間部を併設する昼夜間定時制がある。
昼夜間定時制だと、昼間部と夜間部それぞれを併設する昼夜間二部制、昼間部2部と夜間部の計3部を併設する三部制などがある。

一方、愛知県の公立定時制のように、昼間部と夜間部で全く別々の教育課程で、昼夜授業でも三部制の形態をとっていない定時制高校もある。

夜間定時制・夜間部

夜間定時制英語: night school)および昼夜間定時制の夜間部は、主に昼間に仕事に就き、終業後に夜間に学校に来て学習する社会人の生徒のために作られた課程である。一般的に全日制課程や昼間部に併設されている。多くの学校では法律に応じて学校給食があるが、昨今、喫食を希望しない生徒や食物アレルギーに対応できないことを理由に給食を廃止する学校がある。
経済的な理由やいじめなど、さまざまな事情で高校を中退したが再び高卒の資格を取りたい社会人、無職の者、若いときに経済的な理由やさまざまな事情で高校に進学できなかった高齢者発達障がい知的障がいを抱えた生徒、特別支援学校で受け入れてもらえなかった生徒などが進学している。
授業形態および修業年限は、1日に4時間程度の授業を行う4年制が多いが、3年制で卒業可能な夜間定時制もある。

現状

修業年限も1988年の法改正以前は4年に統一されていたため、2003年度は4年制の課程が756校と比較的多く見られるが、3年制の課程も135校ある。夜間定時制で3年制の場合、希望者のみのゼロ時限授業や5時限授業を開講して、1日の授業時数を5校時程度にまで増やしたり、通信制課程を併習したり、高等学校卒業程度認定試験の合格科目を卒業単位の一部として認定する場合も少なくない。通信制併修の場合、スクーリングについては所属する学校で行われることが多い(大阪府立など)。

21世紀に入った現在、入学試験では志願倍率が0.1を切るような低倍率の学校も少なくない。夜間定時制課程は、中学校卒業時に就職する人が大幅に減少したため生徒数も同様に減少しており、学校の統廃合が進んでいる。
しかし、都市部で近隣の夜間定時制の閉課や統合になどによって多数の生徒が集中して、都立高校では立川高校町田高校農業高校のように生徒数300人から400人程度の比較的大規模となった学校が生じた。
また、都市部以外の地方でも、島根県鹿児島県で定時制課程を持つ高校が2〜3校まで減少したり、福井県で夜間定時制が嶺北道守高校に集約されて、嶺南で自宅通学が容易な県内の夜間定時制が消滅するなど、統廃合で近隣校が減少することで、志願者にとって遠距離通学を迫られたり、勤労者が通学困難になるなどの問題も生じている。

昨今、低所得者ひとり親家庭といった生活困窮者の増加で家計支援するために夜間定時制の生徒が、日中にコンビニファミレスハンバーガーショップドラッグストアなどでアルバイトをする生徒もいる。

昼間定時制・昼間部

昼間定時制および昼夜間定時制の昼間部は、全日制と同様に昼間に授業を行い、ほとんどの生徒が15歳~18歳である。
また、同じ昼間でも全日制と多少授業時間が異なる場合がある。3年制や三修制が多い。
授業形態および修業年限は、昼間定時制では1日に6時間程度の授業を行う3年制がほとんどである。
また、昼夜間定時制の多くは3年制と4年制の両方から選択することができる三修制を導入している。そのため昼間部の場合、4年次への進学は留年に近い。
東京都立砂川高等学校定時制課程Ⅰ・Ⅱ部(昼間部)のように3年制のみの高等学校もある。

現状

入学試験での志願倍率は1.0倍前後で安定しているほか、人気校では3倍以上の倍率がつくこともあるなど常に一定以上の志願者が存在する。

その他

他に、農閑期に通学する形の農業関係の学科(農業科など)を設置する季節定時制と呼ばれるものや交代勤務の工場労働者(主に女子)等を対象に、昼間に授業を行うもの(昼間隔週二部制)も設置された。昼間隔週二部制は、対応する企業が少なくなったこと、志願者が少ないことから廃止された。
また、山間部の農業科・家庭科を設置している高校は昼間定時制を設置している。春と秋の農繁期に休業がある。現在は農業に携わるもの以外は、その期間に補習や職業体験などを行っている。4年次は登校する曜日を少なくして各自の進路に対応する学習を行う。

現在では通院、就業、専修学校高等課程とのダブルスクールに配慮した形の開講形態になっている高校もあり、多部制を中心に大学との単位互換など、全日制では対応できないような取り組みがなされている。

通信制

通信制(つうしんせい、英語: correspondence school)およびその課程である通信制課程(つうしんせいかてい、英語: correspondence course)とは、通信による教育を行う課程のことである。学校教育法により、修業年限は3年以上と定められており、2020年度は3年制は222校、4年制は68校である[9]
複数の都道府県の生徒が在学する広域通信制高校の一部では、学習環境など基準に満たない劣悪な学校が存在したため、文部科学省はそのような広域通信制高校の調査・監査・改善命令を行った。

学習方法

基本的に教科書をベースにした自主学習により、添削指導と呼ばれる課題レポートの添削を教員から受けることで学習を進めるが、同時に面接指導(スクーリング)が、一般的には月に数回程度(全日制の課程の約8単位時間分の授業に相当するといわれる)行われ、添削指導、面接指導、試験などを通じて単位が得られる。
自主学習を支援するために、通信制の課程の多くは学校で独自の教材を作成して配布したり、副教材で「学習書」と呼ばれる、放送出版協会が発行する副教材を利用しているところが多い。特に学習書は広く使われているものであるが、国語科目ではその学習書の中に教科書の内容をそのまま含んでいるという場合もあり、教科書に比べて高価であるが、教科書と同義のものとして扱われ、一部で一定条件を満たせば補助が出るところもある。

スクーリング等

公立通信制高校のスクーリング(面接指導)は多くの学校が日曜日に行われ、1つの科目に対して他曜日に同じ内容で行われる。同じ内容なら、生徒はいずれかの日にスクーリングに出席すればよいところが多いが、広域通信制をとる学校では、夏季などにまとめて合宿スクーリングを行う学校もある。

加えて、ラジオ放送、テレビ放送による学習や、インターネットやDVDなど多様なメディアを利用して行う映像学習が各教科・各科目または特別活動について取り入れられ、計画的かつ継続的に行われる。生徒がこれら放送による学習で、その成果が満足できると認められる時は、その各教科・科目の面接指導の時間数又は特別活動の時間数のうち、各メディアごとにそれぞれ10分の6以内、最大10分の8以内の時間数を免除する制度を持つ学校もある。ラジオ放送テレビ放送は、NHK高校講座の利用が多く、ネットを通じて教師との双方向のやりとりが可能な学校もある。

なお、公立通信制には、面接指導の一部時間を学校以外の公認の学習会によって賄うことができる制度を持っている学校があり、広域通信制には、在学生対象の学習支援を行なう教育施設としてサポート校があって、高等学校と正式に提携を行っているところもある。

入学・進級

入学に際して、学力検査による入学者選抜が行われることは少ない。学ぶ意思があれば不合格にしない場合がほとんどで、中学校を卒業している、もしくは義務教育課程を修了していれば、原則として入学に際して学力などを求められることはない。

他の高等学校や中等教育学校の中途退学者を対象とした編入学試験を実施しているところや広域通信制高校には転学制度もあり、編入生や転入生の場合、以前の高等学校や中等教育学校の単位や在籍年数が認められる制度をもっている学校が多い。

単位制による課程も多く、2017年度は、修業年限を3年とする学校のうち196校、修業年限を4年とする学校のうち55校が単位制による教育を行っている[10]。単位制による教育の場合は、ほとんど学年という概念は薄く、原級留置(留年)という概念は無く、最短3年で卒業する人(修業年限が3年の場合)もいる。

大学のように在籍年数を区切った除籍制度がないため、最大限に学籍を利用し、学校によっては20年以上の長い時間をかけて卒業する人もいるなど、自分の進度で学習できる。従って、在籍する生徒の年齢も幅が広く、創立された当初の「職業人のための高等学校の課程」という機能があるため、16歳以上から80歳代を越える高齢の生徒が在籍する。

実態

1990年代からは私立高校において、自分の進度で学習できるという長所を生かした個性的な通信制課程が出てきており、スポーツ教育などを行っている学校もある。加えて、広域通信制(複数の都道府県を学区とする通信制の課程)が増えている。

生徒も多様化し、不登校の人や全日制の課程になじめなかった生徒の占める割合が増加し、中学校を卒業したばかりの15歳の生徒が進路として選択することも増えている。

一方、自学自習を基本とする自主学習のため、どうしても時間がとれず管理が難しい、学習が進まない、時間が決まっているわけではないので他に優先順位があると後回しにしてしまう、常に教員に質問などができないという声もある。


注釈

  1. ^ 2007年(平成19年)改正前の法第41条では、「高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とする。」となっていた[2]
  2. ^ ブルーカラー(特に製造業や建設業など)や一部のサービス業(特に飲食業)での単純労働者、若年者の起用が優遇される職人伝統工芸鳶職調理人など)や一部のプロスポーツ選手(力士や競馬騎手)などに限られる。平成初期までは美容師・理容師も中学卒業後になることはできたが、1998年(平成10年)の法改正で中卒で美容院や理髪店に就業することはできなくなり、理美容師になるには高等専修学校に入学するか高卒以上で美容学校に入学する方法に変更されている。
  3. ^ 年少者を証明する書類を事業所に備え付けることが義務付けられており、他にも時間外労働や18歳未満の女子と16歳未満の男子の深夜労働ができなかったり危険有害作業が制限されたりすることなどが挙げられる。
  4. ^ 例として日本の運転免許は学歴による制限はないが、年齢の下限が定められており、原付自転車および普通自動二輪車小型限定を含む)の運転免許は16歳以上、普通自動車運転免許と大型自動二輪車は18歳以上でないと取得できない。特に地方では自家用車以外に交通手段がないため、通勤ですら運転免許の取得を必須とする企業もある。他にも国家資格業務独占資格の中には年齢を問わず高校非卒業者は取得できないものもある。
  5. ^ 1970年代半ばまでは地方において所得があまり高くなく、学力が高くても中卒後に就職すること自体が珍しくなかった(詳細は「集団就職」を参照)。
  6. ^ 高校以外の進学先には高等専門学校(高専)のほか、専修学校の高等課程(高等専修学校)や中卒者を受け入れる職業訓練施設海上技術学校陸上自衛隊高等工科学校といった文科省以外の省庁管轄の教育機関もある。
  7. ^ 高等部のみ設置の高等特別支援学校を含む。但し、障害のある生徒でも高等学校進学を希望する生徒はいる[3]
  8. ^ 2010年(平成22年)に成立した「平成二十二年度等における子ども手当の支給に関する法律」の条文を参照すると、「12歳に達する日以後の最初の3月31日を経過した18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者」を「小学校修了後高等学校修了前の児童」と法律内の文章で呼称していることにより、高等学校の修了年齢が定められていない。ただし、学校教育法による制度および実際の運用として、12歳で小学校を修了する保証もなければ18歳で高等学校を修了する保証・義務もないため、法律の文章表現として必ずしも適切とは言い難い。
  9. ^ : general course
  10. ^ : specialised course
  11. ^ : integrated course
  12. ^ なお国立大学のうち、短期大学国立短期大学)については全て廃止されている。
  13. ^ 全日制課程が県立でも施設を共用する定時制課程が市町村立の学校もある。
  14. ^ 他県でも広島県で1968年まで県立高校で「立」が入らなかった。
  15. ^ 下関商業高等学校は公立だが、設置者の「下関市立」が入らない。
  16. ^ 一条校でない専修学校各種学校は学校法人を設立しなくても設置できる。また幼稚園は、学校教育法附則第6条の規定により「当分の間、学校法人によつて設置されることを要しない。」とされているため、個人経営や宗教法人により設置されているものがある。
  17. ^ 現在の高等学校(後期中等教育)は、旧制の学制においては5年制の旧制中等教育学校(その代表格が旧制中学校)の後半がそれに相当する。学齢は現在の高校3年生が旧制高校の1年生相当だが、旧制中学4年修了後に旧制高校に飛び入学することが可能だった。
  18. ^ 専修学校の専門課程に併設され、「専門学校高等課程」と称する場合もある。
  19. ^ かつては、海上自衛隊第一術科学校 生徒部も該当した。
  20. ^ 連邦制のアメリカ合衆国では初等・中等の教育制度は州の自治に任されている。
  21. ^ 大工、鍛冶、電工、保健、農業、園芸、林業 - Carpenter, blacksmith, electrian upper secondary, health service assistent, agriculture, horticulture, foresty, vocational education

出典

  1. ^ a b c d Upper Secondary Education in Japan 国立教育政策研究所 2018年月14日閲覧
  2. ^ 学校教育法第50条。
  3. ^ 脳性まひの男性、県立高に合格 定員割れの市立高、2年連続不合格 神戸新聞、2019年3月29日、2020年5月7日閲覧
  4. ^ a b c d e f g h UNESCO (2008年). “Japan ISCED mapping”. 2015年10月31日閲覧。
  5. ^ 令和2年度学校基本調査(確定値)の公表について”. 文部科学省. 2021年9月13日閲覧。
  6. ^ 学年別生徒数”. 文部科学省. 2021年9月13日閲覧。
  7. ^ 学校基本調査平成29年度(速報)初等中等教育機関、専修学校・各種学校学校調査・学校通信教育調査幼稚園,幼保連携型認定こども園,小学校,中学校,高等学校 高等学校高等学校(全日制の単位制による課程及び定時制)の修業年限別学校数,生徒数
  8. ^ 平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果2 (PDF:3,002KB)”. 文部科学省. 2019年8月24日閲覧。
  9. ^ 修業年限別通信制を置く学校数,入学状況及び生徒数(本科)”. 文部科学省. 2021年9月13日閲覧。
  10. ^ 高等学校(通信制)の学校数・生徒数及び教職員数
  11. ^ 小学科数(本科)”. 統計局. 2021年9月13日閲覧。
  12. ^ 佐藤学『教育改革をデザインする』(第5版)岩波書店〈教育の挑戦〉(原著2000年10月25日)、pp. 20-22,74頁。ISBN 4000264419 
  13. ^ 高等学校専攻科に関する 実態調査 平成24年度 (PDF)
  14. ^ 文部科学省 2013, p. 68.
  15. ^ 文部科学省 2013, pp. 68–69.
  16. ^ ISCED mapping - Denmark”. UNESCO. 2015年11月13日閲覧。
  17. ^ ISCED 2011 mapping - Portugal”. UNESCO. 2015年11月13日閲覧。
  18. ^ Portugal - European inventory on NQF 2014 (Report). CEDEFOP. 2014.






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