関門トンネル (山陽本線)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/25 07:07 UTC 版)
地理
関門海峡は、本州西端の山口県下関市と九州北端の福岡県北九州市の間にあり、西の日本海・響灘と東の瀬戸内海・周防灘を結んでいる海峡である[8]。東側の下関市壇ノ浦と北九州市門司区和布刈間が早鞆の瀬戸と呼ばれる幅約600メートル程度の海峡最狭部であり、また西側には彦島があって、彦島と九州の間は大瀬戸、彦島と本州の間は小瀬戸と呼ばれる[9]。小瀬戸は昭和初期に埋立工事が行われ、閘門で締め切られて、彦島と本州はほとんど地続きとなっている[10]。
関門海峡を横断する橋やトンネルは、山陽本線(在来線)の関門トンネルのほかに、国道2号の関門トンネル、山陽新幹線の新関門トンネル、高速道路の関門橋(関門自動車道)があるが、在来線の関門トンネルのみ大瀬戸を通過しており、ほかの3経路はいずれも海峡がもっとも狭くなる早鞆の瀬戸を通過している[11]。
在来線の関門トンネルは、高架上の下関駅を出て本州から彦島へ渡ってトンネルに入り、弟子待(でしまつ)から大瀬戸の海底下をくぐって九州側の小森江に渡り、門司駅構内で地上に出る[12]。在来線の関門トンネルが早鞆の瀬戸ではなく大瀬戸を通過することを選んだのは、早鞆の瀬戸の方が水深が深く、急勾配が許されない鉄道のトンネルでは全長が長くなってしまうことや、既存の鉄道との接続の関係からである[13]。
周辺の鉄道路線網は、本州側を山陽本線が通り、下関駅から関門トンネルをくぐって九州側の門司駅へとつながる[14]。一方、九州側は鹿児島本線が門司港駅を起点とし、門司駅で山陽本線と合流して小倉駅へと通っている[14]。門司港駅は当初門司駅という名前で、門司駅は当初大里駅(だいりえき)という名前であったが、当時、国際貿易港でもあった「門司」が全国的にも著名であったため、1942年4月に改称された[15]。また、関門トンネルの九州側の接続部が大里駅構内となったため、その支障移転により大里駅は600メートルほど小倉方の現在地に移転している。大里駅構内にあった機関庫もこれに合わせて現在の北九州貨物ターミナル駅付近に機関区、客貨車区、操車場とともに整備され、移転した。
注釈
- ^ 「土かぶり」(どかぶり)ともいい、トンネルや管路の上の土の深さを示す。これが深いと工事費が増大し、浅ければトンネルや管路の構造が不安定になる恐れがある[6][7]。
- ^ トンネル工事において坑道の先端部のこと[51]。
- ^ 含水軟弱層のように湧水のある地盤にトンネルを掘削する場合、切羽[注 2]の近くに隔壁を設け圧縮空気を送入して、湧水圧と等しくなるまで空気圧を上げ掘削する「圧気工法」という方法がある[52]。
- ^ 内閣の各省の会議。またはその議決事項[54]。
- ^ 地震探査、弾性波探査ともいう。非破壊検査方法のひとつで、地下で伝わる弾性波が、物性が異なる境界面で屈折や反射が起こる現象を利用している。具体的には、地表付近や海面付近の水中で人工的な衝撃波を起こして、反射波の到達時間を各所で計測して地下の地層構造を調査する[68]。
- ^ 輝緑凝灰岩(きろくぎょうがいがん)は玄武岩質(苦鉄質)の火山噴出物(古い時代の玄武岩、塩基性火成岩あるいは凝灰岩)が多少変質したもの。 古い時代の地層でよく見られ、シャールスタインともよばれる[69]。
- ^ 黒雲母と石英を主成分とする結晶片岩。泥質の岩石が地中深くで変成作用を受けて生成したもので、雲母片が一定方向に配列しているため、はがれやすい[71]。
- ^ 貫入(かんにゅう)とは、地下深所のマグマが、岩石の割目や、地層中に押し入って冷え固まること[72]。
- ^ 第三紀層は、日本列島のかなりの部分が海の底だった新生代の第三紀に堆積した地層のこと。川が運んだ泥や砂、火山灰などが海底に堆積して、積礫岩、砂岩、泥岩の互層でできている。半固結堆積岩に分類され、もろくて粘土化しやすい性質がある[76]。
- ^ トンネル工事における被覆とは、掘削後の坑道内の土砂や岩石面の崩落や出水を防ぐために、コンクリートなどの材料で覆い被せて固めることで、その工事を覆工という。坑道の外殻構造を兼ねる場合もある。
- ^ 普通工法は、火薬で爆破し、あるいは掘削してトンネルを掘って、天井や壁面を仮の支柱で支えて、その後恒久的なコンクリートの覆工を行う工法である[78]。
- ^ 圧気工法は、トンネルや立坑に圧縮空気を送り込んで、その圧力で湧水を排除しながら掘削を進める工法である[79]。
- ^ 電気運転は、路線を電化して外部から電力を供給して列車を運転すること、煤煙や排気ガスを出さないという利点がある[81]。
- ^ 地表とトンネル(坑道)を結ぶために垂直に設けた坑道[85]。
- ^ 開削工法は、地上から地面を掘削して、その中にトンネルを構築してから上部を埋め戻す工法である[86]。
- ^ 隅田川河口の霊岩島に設けた量水標で観測した平均潮位のこと[90]。
- ^ 馬蹄形断面は、トンネルの断面形状が内面高さと有効幅が同じ逆U形の断面よりも下部が狭まっている、馬の蹄鉄形の断面形状で、側面もアーチ状構造のため外圧を受ける構造強度効率が高い。「普通工法区間の断面図」を参照のこと。
- ^ 起拱線(ききょうせん)はスプリングラインとも呼び、トンネル断面の上半部のアーチの始まる線を指す[92]。
- ^ 雇い入れた技術者は、工事誌『関門隧道』p.25ではノルウェー人であるとしているが、『関門とんねる物語』p.32ではスウェーデン人としている。『海底死闘六年 関門トンネル』pp.24 - 25では、スウェーデン人にボーリング技術を習ったのは丹那トンネルの工事の時であるとしている。
- ^ 掘削の際に使用した仮設構造物や機材を回収せずにそのまま埋めてしまうこと[134]。
- ^ ここでいう尾部とは、岩盤を削る切削面とは反対側の筒の部分のこと。
- ^ 盛り土や堆積土に対する対義語。もとからある自然の地盤のこと[146]。
- ^ 特別高圧とは、7000ボルトを超える高電圧のことで、送電線は発電所から変電所へ電力を送る電線路のことである。電気設備技術基準で定義されている。
- ^ 工事誌『関門隧道』p.181では、1937年(昭和12年)10月に竣功としているが、p.622では1938年(昭和13年)6月5日に竣功としている。p.184では、立坑底部まで1937年9月30日に掘削完了とする一方、立坑底部のポンプ室の工事などは1938年7月までかかったと記載されている。
- ^ 「個」は流水量の単位で、1秒間に1立方尺(約27.83リットル)に当たる[205]。
- ^ 下り線下関方立坑の深さについて、工事誌『関門隧道』p.207では52メートルとしているが、p.178では試掘立坑との位置関係を示す図を掲載した上で深さ39.5メートルとしている。「関門トンネルの立坑を見る(1)」でも深さ約40メートルとしている。
- ^ トンネル全体に先立って掘削する導坑のうち、トンネル断面の下部中央付近に設けるもの[214]。
- ^ 鋼矢板、シートパイルともいう。土木建築材料のひとつで、長い板状の折り曲げ鋼板を、地面対して連続して垂直に深く打ち込んで、土留め壁あるいは止水壁とし、掘削工事を行ったときの土砂崩壊を防ぐ目的で使用する[232]。
- ^ 下り線門司方立坑は、その中心が511K870Mにあり[229]、立坑外形の長さ方向は11メートルあるので[242]、立坑の終点方のキロ程が511K875M50となる[243]。「関門トンネル区間別採用工法」に記したように立坑中心で区間を区切るなら、圧気工法の区間の延長は5メートル50が加算されて146メートル50となる。
- ^ 水の勢いを弱めるために水中に投入される石[252]。
- ^ 線形管理上、シールドマシンによる掘進腺が設計計画腺から外れてしまうことを蛇行といい、掘削計画の見直しをかけてシールドマシンを蛇行修正することで許容できる垂直・水平偏差の限界値が蛇行限界となる[270]。
- ^ 粘土などの軟弱な地層ではなく、岩石や土砂が堅く締まって掘削時に抵抗があるような密度の高い地層ということ。
- ^ 圧気工法でトンネルを建設する際に、坑内の圧縮空気が地山を破壊せずに漏れること[277]。
- ^ 捨て粘土は、地ならしのために粘土を充てる工事のこと言い表すいわゆる業界用語で、コンクリートを用いた類似用語に捨てコンがある。ここでの場合は、掘削推進先の土被り高さを確保する目的で、船体が引きずられて出来てしまった海底の溝に向かって大量の粘土を播いて被覆する工事のこと。
- ^ 粘土などが混ざらず、貝類の死骸が堆積してほぼ貝殻のみで出来上がった地層で、純貝層ともいう。「貝層」を参照。
- ^ 貫通発破は、トンネルの坑道を貫通させるために行う発破のこと。発破とは、坑道掘進の切羽面に数本のダイナマイトを特殊な配置で仕掛けて爆薬を点火し、岩盤を吹き飛ばして破壊すること[290]。
- ^ 現在の北九州貨物ターミナル駅の位置にかつて所在した、九州の貨物輸送の玄関口を担う、日本国有鉄道時代の貨物列車の操車場。
- ^ 停車場間の単線区間を複数の閉塞区間として区分し、各閉塞区間の入り口に列車の進入を許可する閉塞信号機を設けて、列車が通過することによって自動的に線路の閉塞と信号の制御を行う方式。「閉塞 (鉄道)#自動閉塞式」を参照。
- ^ 戦時の海上輸送力の減少に対応して、鉄道輸送力の増強を図るための体制、1942年(昭和17年)10月6日閣議決定[316]。
- ^ アジア諸国の勢いを盛んにすること[317]。
- ^ この額は、下り線トンネルと試掘坑道の工費の合計である[323]
- ^ コンクリート混和場は、建設現場内で砂利・砂・セメント・水・混和剤を混合攪拌(混和)して生コンクリートを製造する現場練りコンクリート製造所のこと。
- ^ 頂設導坑式(ちょうせつどうこうしき)は、施工断面分割方式による導坑(どうこう)先進工法の1種で、本坑の全断面積を一度に掘削するのではなく、本抗掘削前に先行する導坑として、本抗頂部を小断面で掘り進めた後、側面や底面へ掘り広げるトンネルの掘削工法である。日本で発達した掘削工法であることから、別名で日本式ともよばれる[368][369]。
- ^ 1か所に多くの作業員が入って同時進行で様々な作業が行われており、作業場内が大変混み合っているようす。
- ^ 便利な交通手段が提供されることによって、需要そのものが増大すること。交通経済学を参照。
- ^ 輸送しきれずに溜まっている貨物のこと[400]。
- ^ 重量を軽減するために、内面をくりぬいた形状としたセグメント[410]。
- ^ 東山線の池下駅 - 覚王山駅間にある1963年完成のトンネル[412]。
- ^ アルミニウムの耐食性を損なうことなく、マグネシウム、ケイ素などの合金元素を添加して、強度を改善した合金[423]。
- ^ 平面操車場は、平面で入換え機関車による突き放し作業によって貨車の仕分けを行う操車場。貨車を連結器を切って分解した分解回数だけ、繰り返し機関車で推進運転により引上線に貨車を据え付けて仕分けをする。分解に長時間を要するが、建設費が安い[425]。
- ^ ハンプ式操車場は、押上線と仕分け線との間に設けたハンプとよばれる高さ2 - 5メートルの小山から、自然転走によって仕分けを行う操車場。押上線に据え付けた貨車列を入換え機関車によってハンプに押し上げ、貨車の連結器を切って、貨車をハンプ上から仕分け線へ自然転走させる。平面式よりも仕分け作業の所要時分が短く能率的であることから、大規模な操車場で採用されている[425]。
- ^ 架空送電線は、発電所から変電所へ電力を送るため、送電鉄塔のアームに高電圧の電線(導体)を碍子で吊り下げて、空中に架線する方式の電線路のこと[433]。
- ^ ヒュー・ケイシーは、『関門とんねる物語』p.205では中将とされているが、バーチャル国際典拠ファイルによると最終階級はMajor General(少将)である[437]。
- ^ 列車走行によってレールに流れる電流
- ^ 第327列車の下関発時刻は、当時の新聞では定刻から3分遅れの10時57分としている一方、1972年に国鉄九州総局が発行したリーフレットでは11時24分としている。しかし11時24分発では、トンネル通過中に濁流に遭遇してしまい、つじつまが合わないと指摘されている[446]。
- ^ 水や空気を吸い込むためのホース[461]。
- ^ 同一の場所(列車)に対して複数の変電所から同時に送電すること[469]。
- ^ 空気中に浮遊している、土砂などに由来する非常にきめ細かな塵(ちり)や埃(ほこり)のこと[523]。
- ^ シリコンオイルコンパウンドともいい、シリコンオイルを基油にしてシリカ微粉末などを配合したグリース状のもので、電気絶縁性、耐アーク性に優れ、塩分や塵埃付着などによる碍子の絶縁低下を防ぐため、碍子表面のコーティングに塗布するものがある[524]。
- ^ コンクリート構造物の状態が、建設初期の状態から劣化、損傷などコンクリート表面に異常が発生した状態を調べる調査[527]。
- ^ テストハンマーや打診棒で、コンクリート構造物を直接叩いてみたときの音質で、コンクリート表面近傍の浮き、剥離、空洞の有無などの異常を検知する調査方法[528]。
- ^ トンネル掘削後に、最終的にトンネル内部を覆うために現場打ち(覆工)されたコンクリートのこと[529]。
- ^ コンクリートの各種試験のために、コアと呼ばれる試料を採取すること[530]。
- ^ スリ板はパンタグラフ(集電装置)において架線と直接摺動(しゅうどう)して電力を受け取る部分[537]。スリ板受けはそれを支えている部材。
- ^ 引張力(ひっぱりりょく)は、一般的な解釈では物を引っ張る力のこと。ただし、物理学では物体を垂直方向に上下で引っ張りあうときに働く垂直応力のこと[542]。
- ^ 列車の耐寒装備には耐寒ブレーキ・半自動ドアなどがあり、耐雪装備には台車付近のスカート(排雪器)につくスノープラウ(雪かき)、耐雪ブレーキなどがある[543]。
- ^ 避難誘導のためにトンネル内の位置を示した標識。
- ^ トンネル内の湧水に含まれる汚物やごみを沈殿させて除去し、上澄みの水を放流するための設備[497]。
- ^ 77歳のお祝い。
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