豆 利用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/08 18:06 UTC 版)

利用

カトマンズで売られている様々な豆類。

食用となる豆に限らずマメ科種子一般に言えることではあるが、一般に有毒タンパク質を含む。このため食用種であっても生で食べることはできない。利用するにあたっては十分に加熱することで有毒タンパク質を失活させる毒抜き処理が求められる。より毒性が強い種やタンパク質以外の毒が含まれる種では水に長期間晒すという毒抜きも行われる。不適切な毒抜き処理・調理ではハウチワマメ中毒en:Lupin poisoning)や、平成18年にテレビ番組で新ダイエット法として紹介されて起きた「白いんげん豆食中毒事件」のような食中毒を起こす場合もある[40] [41]

またソラマメではソラマメ中毒と呼ばれるものがあるが、これは調理の有無に依存せず、遺伝的体質(グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症)によるものと考えられている[42]

豆類は、トウモロコシや米・やイモ類のような主食の位置には置かれていなが、主食で不足する栄養素をよく補給する為重要な食材であり、豆料理も多岐に渡る。利用(調理)し難い食材ではあるが、発芽発酵させるなどの加工も行なわれている。

経済的な理由から動物性蛋白質を得ることが難しい人々や、菜食主義など信条的に動物性蛋白の摂取を避けている人々にとっては、非常に重要な蛋白源である。インドのようにヒンズー教の教義から菜食の国では高栄養価の豆は貴重である。豆由来の蛋白質は低コレステロール必須アミノ酸をバランス良く含んでいるため、健康上の理由などで高蛋白・低コレステロール食を求める向きには健康食品の範疇で豆を原料としたものも多く出回っている。この中にはヴェジーバーガートーファーキー台湾素食のように、食べ応えにも配慮された加工食品もみられる。

なおタンパク質の供給源は、食肉・乳製品・卵などの動物性食料が思い浮かばれるが、2009年の世界平均では、1人1日あたり79.3グラムのタンパク質の供給があり、61%は植物性食料からであった。もちろん国毎に様々で、中国は93.8グラムの61%が植物性食料から、インドは56.6グラムの80%、米国は112.9グラムの36%、日本は89.6グラムの44%が植物性食料からの供給であった[32]。これらの数値は供給ベースであり、動物性食料は生鮮食品であり、その保存性の悪さから流通加工段階において食用豆より損失や廃棄率が高く、消費(摂取)ベースでは、タンパク質の供給源としての植物性食料の比率はより高いものとなる。

参考までに「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では、タンパク質の摂取推奨量を成人男子で60グラム、成人女子で50グラムとしており[43]、インドは他国と比べタンパク質の供給量が少ないが、ほぼこの推奨量レベルであり、日本を含め他の国では推奨量以上が供給されている。なお供給量と摂取(消費)量は等量ではないことに注意、供給量の数パーセントは廃棄される[注 2]。日本の1961年のタンパク質供給量は74グラムで67%が植物性食料からであったが70年代に約半々となり、現在に至っている。同様な食の変革が中国で進行中であり、食肉の消費が拡大している。この食肉への需要は間接的には飼料作物の需要となり、穀類や豆類への需要が拡大している[44]

1人あたりの消費量

正確には食料供給量であるが、食用豆(大豆、ラッカセイを含まず)は165ヶ国で食用にされており、1人1日あたりの豆供給量世界平均は1961年には26gであったが、1960年代・70年代と徐々に減少し1974年に18gになって以降は横ばいである。日本の場合は1960年代は10g前後であったが、70年代に減り始め(食文化の変化)、1977年に5gとなってからは4-6gで推移している。日本の5g/人/日は世界で131番目である。豆の消費の多い国では1人1日数十グラムであり、日本の10倍近い消費がある[32]

2011年実績で豆消費の多い国は、ニジェールの96g/人/日(以下同)・ルワンダ82g、UAE66g、カメルーン56g、ニカラグア55g、ハイチ54g、タンザニア53g、エチオピア51g、キューバ51gなど、30g/人/日以上の国にアフリカや中米、アジアの発展途上国が入っている。例外的にフェジョアーダで知られるブラジル46g、トルコ37g、カナダ31gが上位に入っている。フリホルが常食であるメキシコは2010年までは30g以上であったが、2011年は25gへ低下している。

日本の5.0g/人/日のように食用豆の消費の少ない国には、英国6.6g(2010年は8.13g)、フランス5.5g、ロシア5.0g、韓国3.8g(昔から少ない)、中国3.6g(1961年は30g)、ドイツ2.8gなどがある。

意外に日本より多い国に、前述のカナダ31gのほか、スペイン24g、イタリア13g、オーストラリア11g、米国8.8g(2010年は11.1g)などがあった。

大豆を搾油以外で食用(加工用も含め)にしている国は59ヶ国で、世界平均が4g/人/日で、多い国は台湾46g、韓国22g、日本20g、キューバ15g、ザンビア15g、ベトナム12g、ブラジル・中国・カンボジアが10gであった。キューバ・ザンビア・ベトナムは2001年には1g前後であったが、近年消費が急増している。

ラッカセイは145ヶ国で食用にされており、世界平均が4g/人/日(2009年)で、多い国はチャド39g/人/日、ブルキナファソ34g/人/日、ガボン21g/人/日で、他のアフリカの国で10g/人/日前後のほか、米国9g/人/日、中国・インドネシア・ミャンマー・カナダ他が7g/人/日であった。日本は2g/人/日であった[32]

日本や中国、韓国の特色は大豆の大量食用消費国であるが他の豆類(アズキを含む)の消費は少ないという点である。 主な生産国の節で日本の豆類の自給率が約4割と記述したが、これは消費の少ない「豆類」についてであり、大豆に関しては、総需要(内訳油糧用71%・食用24%)に対する自給率は5-6%でしかなく、食用の用途別の大豆自給率で見ても豆腐25%、納豆19%、味噌醤油は9%でしかない。煮豆惣菜に関しては国産使用率が高く84%、6粒に5粒は国産大豆である[45]

栄養価

豆は炭水化物食物繊維タンパク質[46]を豊富に含み、主に炭水化物である主食(穀物)を良く補完する食材である。食肉の消費が少ない地域では貴重なタンパク源である。また食物繊維の含有率が高く整腸作用や生活習慣病の予防に寄与する。多くの豆は脂質の含有量は多くはないが、ラッカセイと大豆は含油率が高く、主に搾油用に生産されている。

ハーバード大学医学部が約59万人に実施した疫学調査によると、果物野菜豆類の多い健康的な食生活の人は、果物、野菜などが不足した不健康な食生活の人と比較して、COVIDに感染するリスクが9%、重症となる率が41%低いという結果が出た。また、不健康な食生活か貧困も発症に寄与しているとし、どちらか一つでも改善できれば、COVID-19の発症のほぼ3分の1が予防できたかもしれないと、ハーバード大学に所属するマサチューセッツ総合病院ゲノム医学ユニットセンターは報告している[47]

2R,5R-ビス(ジヒドロキシメチル)-3R,4R-ジヒドロキシピロリジンを含むマメ科植物には、血糖値の上昇を抑制する効果のあるα-グルコシダーゼ阻害作用を有するものがあり[48]、アズキ、インゲンマメ、コクリョクトウ、リョクトウ、黒大豆の順でその活性が高かった。エンドウ及びダイズではほとんどその活性を示さなかった[49] とする研究がある。

豆の栄養価(100gあたりのグラム数)[50]
作物 炭水化物 タンパク質 脂質
合計 食物繊維
インゲンマメ 61.29 15.20 22.53 1.06
ヒヨコマメ 60.65 17.40 19.30 6.04
エンドウ 60.37 25.50 24.55 1.16
ササゲ 60.03 10.60 23.52 10.60
レンズマメ 60.08 30.50 25.80 1.06
キマメ 62.78 15.00 21.70 1.49
ソラマメ 58.29 25.00 26.12 1.53
ルピナス 40.37 18.90 36.17 9.74
油糧作物
大豆 30.16 9.30 36.49 19.94
ラッカセイ 16.13 8.50 25.80 49.24
穀物
精白米 79.95 1.30 7.13 0.66
小麦粉 76.31 2.70 10.33 0.98
トーモロコシ 74.26 7.30 9.42 4.74
イモ類
ジャガイモ(生、皮付) 18.07 1.30 2.14 0.08

ジャガイモは生で水分が約8割であり他の数値と直接は比較できないが、4倍した値が他の穀物と近い値になる。


注釈

  1. ^ FAOの集計では生産に関しては2013-7時点で2011年分まで情報があるが、用途などの情報が含まれているCommodity BalanceやFood Supplyの情報は2009年度分までである。
  2. ^ FAOの2009年度の集計によると、豆類の供給サイドでの廃棄率は3.3%、大豆やラッカセイを含む油糧作物の廃棄率は3.6%であった。

出典

  1. ^ a b kotobank - デジタル大辞泉 「豆」
  2. ^ 写真でわかる園芸用語集 「胚乳」
  3. ^ 写真でわかる園芸用語集 「莢果(きょうか)」
  4. ^ 写真でわかる園芸用語集 「裂開果(れっかいか)」
  5. ^ 写真でわかる園芸用語集 「節果(せつか)」
  6. ^ 楽天 「「種 アルファルファの検索結果」
  7. ^ 朝日新聞・どらく 「タマリンド」
  8. ^ BBC Mundo (西語)El frihol se origino en Mesoamerica
  9. ^ en:Peanut#Historyより。
  10. ^ Dillehay, Tom D.. “Earliest-known evidence of peanut, cotton and squash farming found”. 2007年6月29日閲覧。
  11. ^ 豆類協会 「豆の通ってきた道」
  12. ^ 豆類協会 「大豆」
  13. ^ 国際マメ年について (IYP 2016)”. FAO駐日連絡事務所. 2016年12月7日閲覧。
  14. ^ キッコーマン 「大豆の歴史」
  15. ^ グリコ 「大豆のおはなし」
  16. ^ 豆類協会 「豆の通ってきた道」
  17. ^ 滋賀県湖北農業農村振興事務所 「滋賀県長浜市における小豆の生産振興について」
  18. ^ 豆類協会 「豆の日本への伝来の歴史」 (PDF)
  19. ^ a b 農林水産省 「特集2 雑豆(1)」
  20. ^ 農林水産省 「豆のこと、もっと知りたい。」
  21. ^ 豆類協会 「Q&A 豆の種類について」
  22. ^ 豆類協会 「豆の主な栄養素」
  23. ^ weblio - 日本豆類基金協会 「いんげんまめ」
  24. ^ 国際連合食糧農業機関(FAO) Classifications Production/Crops/ item code=176 Beans, dry
  25. ^ kotobank - デジタル大辞泉 「豌豆豆」
  26. ^ 跡見学園女子大学 「きまめ」
  27. ^ kotobank - 世界大百科事典 「キマメ」
  28. ^ 「ささげ」
  29. ^ 豆類協会 「ささげ」
  30. ^ a b c d e f g 豆類協会 「海外からの輸入」
  31. ^ 農林水産省 「豆のこと、もっと知りたい。」
  32. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 国際連合食糧農業機関(FAO) FAOSTAT Food and agriculture data
  33. ^ 国際連合食糧農業機関(FAO) Classifications Food Supply/Crops Primary Equivalent/ item code=2555 Soybeans
  34. ^ 豆類協会 「国内生産」
  35. ^ 永らく最大の生産国であった米国は7倍、ブラジル497倍、アルゼンチン約5万倍、パラグアイ5018倍などが急増、インドも2522倍
  36. ^ 大生産国ではあるが国内需要を満たせておらず、総交易量の約6割を輸入。
  37. ^ 1961年と81年はソ連の数値
  38. ^ 1961年と81年はソ連に含まれる
  39. ^ 1961年の生産量は米国、中国、インドネシアに次ぐ量であった。
  40. ^ 「白いんげん豆の摂取による健康被害事例について」
  41. ^ 健康食品管理士認定協会 「白いんげん豆食中毒事件」
  42. ^ 英語版のen:Glucose-6-phosphate dehydrogenase deficiency#Signs and symptomsの記述ではFavismとG6PDの関連は are not well understoodとある。
  43. ^ 医歯薬出版株式会社 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」
  44. ^ Bloomberg Appetite for Meat in China Means Agriculture Imports, FAO Says
  45. ^ 農林水産省 「大豆をめぐる最近の動向について H22-1」
  46. ^ 「野菜350g」は本当にカラダにいいの…?食生活のウソホント”. FRIDAYデジタル (2020年7月16日). 2020年11月27日閲覧。
  47. ^ Godman, Heidi (2021年12月1日). “Harvard study: Healthy diet associated with lower COVID-19 risk and severity” (英語). Harvard Health. 2021年12月5日閲覧。
  48. ^ 吉川雅之、薬用食物の糖尿病予防成分 『化学と生物』 2002年 40巻 3号 p.172-178, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.40.172
  49. ^ 豆類ポリフェノールの抗酸化活性ならびにα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ阻害活性、齋藤優介ほか、日本食品科学工学会誌、Vol.54(2007) No.12
  50. ^ アメリカ合衆国農務省(USDA) Nutrient data laboratory
  51. ^ Harold McGee 2008, pp. 471–476.
  52. ^ 楽天レシピ 「金時豆の甘煮」
  53. ^ allrecipes.com Boston Baked Beans
  54. ^ kotobank 「pea soup」
  55. ^ 豆類協会 「豆の戻し方」
  56. ^ コスモポリタン_(雑誌) 「栄養満点!レンズ豆の美味しい使い方とおすすめレシピ」
  57. ^ エジプト大使館 「エジプト料理」
  58. ^ kotobank - 平凡社世界大百科事典 「高杯∥高坏」
  59. ^ goo辞書 - 小学館デジタル大辞泉 「坏」
  60. ^ 裘錫圭 1988, p. 116.
  61. ^ 張世超 1996, pp. 1167–8.
  62. ^ 季旭昇 2014, pp. 404–5.
  63. ^ 林志強等 2017, p. 58.
  64. ^ 裘錫圭 1988, pp. 246–7.






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