元素の中国語名称
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/12 17:51 UTC 版)
部首
現在では、化学元素を表す漢字は、必ず次の4種類の部首のいずれかに属する形声字である。過去にはこの法則に合わない漢字も使われていたが、そのような字はこの法則にあてはまる字に置き換えられた。
- 气部(きがまえ):常温で単体が気体である元素。「氫」(水素)、「氦」(ヘリウム)など。
- 水部(みず、さんずい):常温で単体が液体である元素。「溴」(臭素)と「汞」(水銀)の2文字。
- 石部(いしへん):常温で単体が固体である非金属元素。「硼」(ホウ素)、「碳」(炭素)など。
- 金部(かね、かねへん):金属元素。「鋰」(リチウム)、「鈹」(ベリリウム)など。
なりたち
2017年1月現在、化学元素は118種類が国際純正・応用化学連合(IUPAC)で命名されており、そのうち全種類(118字)について漢字が決まっている。118字のうち、古来物質の種類を表す字は、原子番号順に、「硼」(ホウ素。その化合物のホウ砂が漢方薬として知られていたが、単体のホウ素は中国で知られていなかった)、「硫」(硫黄)、「鐵」(鉄)、「銅」、「銀」、「錫」、「金」、「汞」(水銀)、「鉛」のわずか9文字である。それ以外の109文字は、19世紀以降に元素を表すために転用または考案された字である。
109文字のうち、原子番号順に「氫」、「碳」、「氮」、「氧」、「磷」、「氯」、「溴」、「鉑」の8文字は、意訳により元素を表すために転用または考案された。
- 「氫」:水素は当初「輕氣」と訳した。「輕」から音符「巠」を取り出し気体元素を示す「气」と組み合わせた。
- 「碳」:炭素は当初「炭」と訳した。これに固体の非金属元素を示す「石」を組み合わせた。
- 「氮」:窒素は当初「淡氣」と訳した。「淡」から音符「炎」を取り出し「气」と組み合わせた。
- 「氧」:酸素は当初「養氣」と訳した。「養」から音符「羊」を取り出し「气」と組み合わせた。
- 「磷」:リンは本来鬼火を表す「燐」の転用で表した。次に、これの「火」を「石」に取り替えて、「磷」の転用で表した。「磷」は本来「磷磷」で水の流れや玉石の輝きを形容する漢字であった。
- 「氯」:塩素は当初「緑氣」と訳した。「緑」から音符「彔」を取り出し「气」と組み合わせた。
- 「溴」:臭素は本来潤いを表す「溴」の転用で表した。
- 「鉑」:白金は当初「白金」といった。これを1文字にまとめるために、本来金属箔を表す「鉑」を転用した。
109文字のうち、残りの101文字は、音訳により元素を表すために転用または考案された。よって、漢字の旁(形声字の音符)の字義と元素の性質との間に全く関連がない。その代わり、旁の発音(形声字の発音)が、西洋の言語でその元素を意味する単語のうちの1音節を模している。第1音節を模する例が多い。
- 第1音節を模する例
- 第2音節を模する例
- 第3音節を模する例
- 沃素(英語では「iodine」)を表す「碘」は、音符「典」に従い「diǎn/ㄉㄧㄢˇ」と読む。
ところで、109文字のうちには、本来元素とは無関係の意味であった既存の漢字であって元素の名称を表すのに転用されたものと、元素の名称を表すために新たに考案されたものとがある。前者の例は前出の「鉑」「磷」「溴」であり、この場合、中国の古典にそれらの字が見えるからといって、中国でその時代に白金、リン、臭素が知られていたことの証拠とはならないことは勿論である。
また、紛らわしいことに、過去に別の元素を意味していた漢字を新発見の元素の命名に転用した例がある。
過去には、2種類の元素を同じ字で表したことがあった。
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- ^ 「譯其意義,殊難簡括;全譯其音,苦於繁冗」
- ^ 「今取羅馬文之首音,譯一華字。首音不合,則用次音,並加偏旁,以別其類,而讀仍本音」
- ^ 「惟白鉛一物,亦名『倭鉛』,乃古無今有,名從雙字,不宜用於雜質,故譯西音作『鋅』」
- ^ 「白金,亦昔人所譯,今改作鉑」
- ^ 「硫強水之無水者,爲硫養三」
- ^ a b c 劉廣定〈中文化學名詞的演變(下)〉《科學月刊》(1985年11月)
- ^ a b 青年科技史论坛5 阅读材料2:益智书会与杜亚泉的中文无机物命名方案 - ウェイバックマシン(2017年2月5日アーカイブ分)
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