申し子
★1.神仏に祈って子を得る。日本では中世の物語に多く見られる。
『明石物語』(御伽草子) 明石の三郎は、熊野権現の申し子である。
『今昔物語集』巻1-15 自然太子は、樹神に祈って得た子である。
『今昔物語集』巻2-4 伽頻国の大王は、竜神に祈って子(釈迦の前生)を得た。
『今昔物語集』巻15-16 千観内供は、観音に祈って得た子である。
『ささやき竹』(御伽草子) 左衛門尉の姫君は、鞍馬の多聞天に祈って得た子である。
『三国伝記』巻4-9 夢窓疎石は、観音に祈って得た子である。
『三国伝記』巻10-15 僧賀(増賀)上人は、仏神に祈って得た子である。
『三国伝記』巻12-3 恵心僧都は、高尾寺の観音に祈って得た子である。
『太平記』巻3「主上御夢の事」 楠正成(=楠多聞兵衛正成・くすのきたもんびやうゑまさしげ)は、母が志貴の毘沙門天(多聞天)に百日詣で、夢のお告げをいただいて産んだ子である。それゆえ、幼名を多聞といった。
『長谷寺験記』上-4 紀長谷雄は、長谷寺の観音に祈って得た子である。長谷の利生ゆえ、父が長谷雄と名づけた。
『花世の姫』(御伽草子) 花世の姫は、正観音に祈って得た子である。
『風流志道軒伝』(平賀源内)巻之1 深井甚五左衛門は40歳になるまで男子のないことを嘆き、妻とともに浅草の観音に21日参籠する。満願の暁、南方から金色の松茸が臍の中に飛び入る、と見て妻は懐胎し、男子(後の志道軒)が生まれる。
『まつら長者』(説経) さよ姫は、大和国壺坂の松浦長者夫婦が初瀬の観音に祈って、得た子である。姫は読経で大蛇を成仏させ、父長者の跡を継ぎ、85歳で往生を遂げた後は、近江国竹生島の弁才天として祭られた。
『百合若大臣』(幸若舞) 嵯峨帝の代。左大臣きんみつには子がなかったため、初瀬の寺に詣でて祈り、男児を得た。男児は百合若と名づけられ、17歳で右大臣に昇進した。蒙古の大軍が攻め寄せた時、百合若は日本の軍兵の総大将となって、敵を撃破した。
*→〔神になった人〕2の『小栗(をぐり)』(説経)・〔妊娠〕2の『梵天国』(御伽草子)・〔四十歳〕1の『一寸法師』(御伽草子)。
★2.外国にも、古くから、神などに祈って子を得る物語がある。
『黄金伝説』125「聖母マリアお誕生」 ヨアキムとアンナは結婚して20年たっても子がなかった。2人は、「子宝が授かったらその子を神に仕える者として捧げる」と誓った。すると天使が訪れて子の誕生を告知し、「マリアと名づけよ」と命じた。
『サムエル記』上・第1章 エルカナと妻ハンナの間には子がなかった。ハンナは神に「男児を授け給うならば、その子の一生を神にささげ、その子の頭には決してかみそりをあてません」と祈った。まもなくハンナは男児を生み、サムエルと名づけられたその子は、士師となった。
『史記』「孔子世家」第17 孔子は尼丘(山の名)に祈って授かった子である。
『太子成道経』(敦煌変文) 浄飯大王は太子の出生がないため、鬱々としていた。王は居城の南にある樹下の天神に行幸し、子を祈願した。10日を経ぬうちに夫人は懐妊し、10ヵ月後に太子(釈迦)が誕生した。
『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」 子宝にめぐまれぬアシュヴァパティ王は、18年間厳しい戒律を守り、毎日1万の供物を女神サーヴィトリーに捧げて祈り、女児を得た。彼女はサーヴィトリーと名づけられた→〔死神〕1a。
『ラーマーヤナ』第1巻「少年の巻」 ダシャラタ王は、馬を犠牲に供える馬祠祭を行って神々に息子を請い、3人の妃が懐妊する。カウサリヤー妃はラーマ、カイケーイー妃はバラタ、スミトラー妃はラクシュマナとシャトルグナを、それぞれ産んだ。
★3a.本来授かるべき子種がないが、神仏の特別のはからいで、子が生まれる。
『あいごの若』(説経)初段 二条蔵人清平夫婦が長谷の観音に子を請うと、「汝らには子種がないゆえ、帰れ」との夢告がある。清平らはなおも願い、「生まれた子が3歳になった時、夫婦の一方の命を取る」との条件で、一子愛護の若を授かる→〔言挙げ〕1。
『毘沙門の本地』(御伽草子) 天竺瞿婁国の千載王は90歳・妃は60歳になるまで子供に恵まれず、梵王に申し子をする。「王・妃ともに前生で殺生をした報いで、子種はない」と梵王は告げるが、王の切なる願いによって、十方浄土の仏が子種の如意宝珠を授け、天大玉姫が誕生する。
『文正草子』(御伽草子) 塩焼き文正から「すぐ子を産め」と求められた40歳の妻が、鹿島大明神に申し子をして、「汝の子たるべき者はなし。されどこれを授く」との告げとともに蓮華2房を賜る。やがて妻は美しい姫君2人を産む。姉娘は関白家へ嫁ぎ、妹娘は帝の女御になる。
★3b.「子を授けないと大変なことになるぞ」と言って、神仏を脅す。
『浄瑠璃十二段草紙』初段 三河の国司源中納言兼高夫婦が、峰(=鳳来寺)の薬師に子を請う。兼高は、「子を授けてもらえたら、宝物を献上しよう。授けてもらえなければ、私は腹を切って臓腑を薬師に投げつけ、参詣の人にもたたりをなそう」と言って祈願する。薬師仏は老僧の姿となって現れ、「本来子種はないが、切なる願いの不憫さに、子を1人授ける」と夢告する。まもなく美しい女児が誕生し、浄瑠璃御前と名づけられる。
『神道集』巻6-33「三島大明神の事」 伊予の国の長者・橘朝臣清政が、長谷寺の観音に子宝を請うが、観音は「汝に授けるべき子種はない」と夢告する。しかし清政は納得せず、「子を授けてもらえないなら、私はこの場で腹を切って死ぬ。お堂を大魔王の住みかと成し、参詣の人を皆殺しにする」と、強引に訴える。観音はやむなく清政の全財産と引き換えに、子を授ける→〔長者〕2b。
『しんとく丸』(説経) 信吉長者夫婦が清水の観音に申し子をする。観音は、「汝ら夫婦は前生で殺生をした。その報いで子種はない」と夢告する。しかし長者は諦めず、「子を授けてもらえないなら、私は腹を切って臓腑を御神体に投げつけ、参詣の人を取り殺す」と言い、「子が授かるなら、立派な御堂を建立しよう」と約束する。観音は、「生まれた子が7歳になる時、父か母に死の危険がある」との条件で、男児1人(しんとく丸)を長者夫婦に授ける→〔言挙げ〕1。
『聊斎志異』巻1-32「四十千」 老いて子供のない者が、その理由を僧に問うた。僧は、「お前は前世で他人から借りていないし、他人に貸したこともない。どうして子供が得られよう」と答えた。思うに、良い子が生まれるのは前世の果報であり、悪い子が生まれるのは、前世の負債を取りに来られたのだ→〔貸し借り〕1。
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