食パン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/24 00:16 UTC 版)
概説
食パンとは、生地を発酵させ、大きな長方形の箱型の型に入れて焼いたパンのことである。薄く切ってトーストにして食べたり、サンドイッチに用いたりされる[3][4]。
形により「山型食パン(ラウンドトップ)」「角型食パン(プルマンブレッド)」「ワンローフ」などに分類される。18世紀頃にイギリスで、カナダ産強力粉を原料[5]として金型に入れて焼いた山型食パンの製造が開始された[6]。イギリス系の植民地や食文化が世界に拡散するとともに、ブリキの箱(tin box)で焼くパンも全世界規模で広まった。別名「ティンブレッド(tin bread)」はこれに由来する。
日本式の食パンは英国の山型白パンやフランスのパン・ド・ミーなどに起源を持つ。日本人の好みや利用法にあわせて食感、材料の比率、形状、焼き加減など変化した独特のパンとなっているが、他地域の類似したパンも日本語の語彙体系で言えば「食パン」に分類できるので、あわせて説明する。
名称
「食パン」は主食用パンの略称と言われており、日本での造語である。菓子パンの対義語とされる[7]。
台湾では日本語教育が行われた歴史があり、日本語の影響を強く受けた台湾語では食パンとトーストを「ショッパン」(白話字:sio̍k-pháng)と呼称している。一般的には国語が使われるので吐司(tǔsī)と呼ばれている)。焼いていないものは白吐司。同じく日本の影響を受けた朝鮮半島では食の漢字音のみ朝鮮語読みして「シッパン」(シクパン、식빵 / 食빵、sikppang)と呼ばれる。そもそもパンそのものを「パン」(빵、ppang)と呼んでいる。
構造
クラム
パンの外皮の内側にある気泡を多く含む軟らかい部分をクラムまたは内相という[8]。
食パンはフランスのパン・ド・ミーに相当する[4]。このmieはフランス語で中身を意味し、クラムの部分を楽しむタイプのパンとして嗜好され、日本でも「パン・ド・ミー」の名称で販売されることがある[4][9]。
かつて、軟らかく中が白いパンは豊かさの象徴だった。製パン工場で大量生産される廉価なローフブレッドによって、貧困層も従来より高品質な食事で命をつなぐことができるようになり、自家製パンの労働からも解放された。その半面で、手間のかかる郷土料理やホームベイク文化の消失にも繋がっている[10]。
パン耳
パンの外側の硬く焼き色がついた部分はクラスト(crust)または皮(表皮)というが、食パンの場合は「耳」ともいう[8]。英語では踵を意味する「heel」という呼び方もある。
サンドイッチなどに使う時は耳の部分のやや硬くパサパサした食感を避けるため、日本では切り落として白い部分だけを用いることことが多い。パンをまとめて焼き、サンドイッチに加工したりする街のベーカリーや大手の製パン工場にとって「パンの耳」は一種の中途半端な余剰物にあたる。古くから動物園や農家などの動物・家畜の餌(飼料)として活用されてはいたものの結局は捨てられることが多く、それらをどう活用するのかは課題であった。近年では別の商品としての活用例が増えている。
- 末広製菓や山崎製パンが販売する「揚げパンスナック」は、サンドイッチ製造時の副産物であるパン耳を加工・商品化したものである。
- 山崎製パンは「ランチパック」製造時副次産物のパン耳を商品化した「チョコの山」を2009年に発売した[11]。
- 従来はパン粉会社や家畜飼料会社へ提供していたパン耳を、ラスクに加工販売するかつサンド店[12]もある。
家庭などではオーブンなどで軽く焼くとカリカリとした食感になり、ラスクやビスコッティの代用品とすることができる。また、パンの耳を揚げて砂糖や蜂蜜で味つけをし、かりんとうに似た食感の菓子として供することもある。
注釈
出典
- ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
- ^ a b 広辞苑 第6版【食パン】
- ^ a b c d e f g h i j k ナガタ ユイ『サンドイッチの発想と組み立て』誠文堂新光社、2012年、10頁。
- ^ 河野友美 編『穀物・豆 (新・食品事典)』真珠書院、1994年、152頁。ISBN 4-88009-101-4。
- ^ 舟田詠子『パンの文化史』朝日新聞出版〈朝日選書〉、2007年、236頁。ISBN 978-4-86143-069-5。
- ^ 上田萬年・松井簡治 (1916). “しょく-ぱん”. 大日本國語辭典 しーく. 冨山房. p. 1135 2023年4月3日閲覧. "食麺麭(名)食用に供する麺麭。(略)菓子麺麭の對"
- ^ a b “パンの用語集”. 日本パン技術研究所. 2019年1月18日閲覧。
- ^ “パン・ド・ミとハードトースト、その違いは?”. ドンク. 2017年6月29日閲覧。
- ^ 『パンの歴史』第2章,4章
- ^ パンの耳のチョコレート菓子「チョコの山」 - 日経トレンディネット
- ^ まい泉の“かつサンド”の“パンの耳”で作ったラスクが登場!|web★1週間
- ^ 『パンの歴史』pp. 114-116
- ^ 成美堂出版編集部 編『パンの事典―おいしいパンのある幸せな生活』成美堂出版、2006年、60,90頁。ISBN 4-415-03995-2。
- ^ 日本の食生活全集兵庫編集委員会 編「神戸のケーキとパン」『聞き書 兵庫の食事』農山漁村文化協会〈日本の食生活全集〉、1992年、61頁。ISBN 4-540-91006-X。
- ^ 柴崎友香「ローカルフード」『よそ見津々』日本経済新聞出版社、2010年、123頁。ISBN 978-4-532-16755-4。"「八枚切り」の存在を大阪の友だちに言うと、「ああー、だからトーストくわえて走っている場面が【漫画やラブコメに】あるんや」という。確かに、五枚切りではくわえて走るのは、無理ではないがちょっと難しい。あごが疲れそうだ。四枚切りではさらに難易度が上がる。"。
- ^ 大阪市ゆとりとみどり振興局; 財団法人大阪観光コンベンション協会「大阪食のタブー集・マナー集・常識集」『Osaka TOURIST GUIDE(大阪観光案内)』。 オリジナルの2011年1月6日時点におけるアーカイブ 。2011年6月5日閲覧。
- ^ PB商品「金の食パン」が高くても売れる理由『プレジデント 』2014年3月17日号(2018年10月3日閲覧)。
- ^ 『小麦粉とパン・めん・菓子・料理』 財団法人製粉振興会、平成19年、p.57
- ^ 小麦粉のおはなし ●日本人が作り出した食パン(製粉振興会) 2011年7月9日閲覧。
- ^ “食パンの1斤の定義はどのように決められているのですか。”. 消費者相談 > 過去の相談事例. 農林水産省 (2008年7月). 2009年6月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年6月7日閲覧。
- ^ 金子 亨、速水 敬一郎、西川 正恒、村辺 奈々恵、佐藤 みちる「素描に関する一考察─ リアリズム絵画を中心に ─」『東京学芸大学紀要. 芸術・スポーツ科学系』第64巻、東京学芸大学学術情報委員会、2012年10月31日、11-35頁。
食パンと同じ種類の言葉
- 食パンのページへのリンク