音楽性 音楽性の概要

音楽性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/20 23:54 UTC 版)

定義

音楽用語辞典により、定義が多少異なる[1][2][3]1959年(昭和34年)刊行の『音楽辞典 楽語篇』では、「音楽才能の基本的因子。音楽才能は受容力と演出力の二大側面からなり、その受容的才能を音楽性という。」と解説し、音楽的であるという語釈を付けていない[1]。一方、1974年(昭和49年)刊行の『岩波小辞典 音楽』では、「音楽的素質にめぐまれていることの表現にもつかわれる」としつつも、より一般的には「音楽的であること」、「どのように音楽的であるか、をあらわす言葉」と解釈することが「いちばん穏当」としている[3]2008年(平成20年)刊行の『標準音楽辞典』では、「音楽的であること」を第一義とし、「音楽の生産と受容に敏感に対応できる本性的な性質」という表現で、音楽的な才能としての意味も解説している[2]

ヴァイオリニストの鈴木彩は、音楽性のあるヴァイオリン演奏の特徴を「音が一本調子ではない」「本人に歌心があり、それを表現できること」「フレーズを理解している」「曲に対して物語をイメージ出来ている」「人の心を動かす事のできる演奏」の5つで表現している[7]。またピアノ教室を主宰する上條あやかは、クラシック音楽の音楽性とは、楽譜を深く読み取ること、奏でる音楽の色や形を豊かに想像すること、想像した音楽を自然に表現することの3つを総合したものと説明している[8]。ピアノ教室では、生徒の音楽性を引き出すために、「踊るように」(楽しい表現)、「ドイツのビール腹のおじさんの音」(堂々とした太い音)など、生徒が分かりやすい表現を用いた指導が行われる[9]

発達心理学においては、乳児の学びと育ちの基底概念として音楽性という語を用いている[10]。この意味において音楽性とは、人とモノとの間の関係性の中に立ち現れるものとして捉えられる[11]。しかしながら、発達心理学における音楽性の概念は研究途上であり、定義や理論的枠組みはまだ議論の余地がある[11]

評価

音楽文化の伝統は1種類ではないため、それぞれの文化やジャンルに対して音楽性が規定できる[12]。例えば、ギター弾き語りに高い音楽性を示す人が、ロックでも高い音楽性を持っているとは限らない[13]。そこで、音楽民族学者のジョン・ブラッキング英語版は、「人間の音楽性を評価する際に音楽外的な諸過程を考慮しなければならない」と主張し、音楽療法士ブリュンユルフ・スティーゲノルウェー語版は音楽性に代えて、誰もが音を通じて表現したり、コミュニケーションをとったりする能力として原音楽性(英語: protomusicality)という概念を提唱した[13]

個人に対してだけでなく、特定の集団に音楽性を規定することもできる。例えば、竹澤恭子アメリカの音楽性を「明快で積極性を前面に押し出す」、フランスの音楽性を「マイナスの表現をする」と評している[14]

ピアノコンクールでは、アーティキュレーションデュナーミクフレージング英語版の差異を審査員が経験に基づいて判定し、音楽性の高低を評価する[15]筑波大学准教授の山際伸一らは、楽譜通りに作成したMIDIデータと実際の演奏音源データとのずれ・差異をコンピュータ処理することで、音楽性の類似度をAIで数値化することに成功した[15]。将来的にはAIによるピアノコンクールの審査、インターネットを介した音楽性の類似するバンドメンバーの募集などができる可能性がある[15]

行達也は自らの経験より、音楽性の男女差について言及した[16]。行は、ライブハウスで音楽を聴く際に女性が歌詞を重視するのに対し、男性は楽曲メロディを重視する傾向があり、それがその人の音楽性となって演奏に反映される旨を述べた[16]。その結果、歌詞と楽曲の一方だけ良い歌が多く生まれ、結局売れずに終わることになる[16]

変化

バンド活動が長くなると、往々にしてそのリスナーから「音楽性が変わった」と評される[17]南山大学の中村佑一郎は、GLAYLUNA SEAL'Arc〜en〜Cielの3つのバンドの楽曲を分析し、インディーズからメジャーデビューするときと活動休止明けの時期に、大きく曲調が変化することを明らかにした[17]。一方で、音楽性の変化はあるが、一様な規則性・法則性はなく、その時々の作曲者の置かれた環境が何らかの変化を引き起こすと結論付けた[17]

バンドの音楽性が急激に変化すると、ファンはその変化に付いていくことができず、ファン離れを起こす可能性がある[18]リンキン・パークは音楽性が急激に変化し、ファンの求める音楽と本人たちが志向する音楽の乖離が進んだバンドであったが、スマトラ島沖地震東日本大震災の際にチャリティー活動を行うなど、「良い兄貴的な存在の大きさ」からファン離れが起きなかったと西廣智一は分析している[18]


注釈

  1. ^ 活動休止[21]や一部メンバーの脱退の理由にも使われる[22]。本項では活動休止・脱退も含めて「解散」と表現する。

出典

  1. ^ a b c d e f g 堀内・野村 編 1959, p. 92.
  2. ^ a b c d e 堀内 編 2008, p. 345.
  3. ^ a b c d e f 山根 編 1974, p. 32.
  4. ^ a b c d e 速水ほか 2010, p. 3.
  5. ^ a b c d e f g h 「音楽性の違いで解散」ってなに? 言葉の奥に隠された意味とは……”. M-ON! MUSIC. エムオン・エンタテインメント (2014年6月9日). 2021年1月17日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h 浅井陽. “本日をもって解散します<解散一回目>『音楽性の違い』”. YoAsaiの音漏れ苦情報告書 バンドマンに捧げる不定期コラム. Livewalker. 2021年1月17日閲覧。
  7. ^ 鈴木彩. “音楽性とは何か?表現力の事?それとも才能?(バイオリン)”. バイオリン弾き方.com. 2021年7月6日閲覧。
  8. ^ 音楽性とは”. 上條あやかピアノ教室. 2021年1月17日閲覧。
  9. ^ 池川礼子 (2011年9月2日). “音楽性を引き出す言葉かけ”. 全日本ピアノ指導者協会(ピティナ). 2021年1月17日閲覧。
  10. ^ 石川ほか 2015, p. 79.
  11. ^ a b 石川ほか 2015, p. 83.
  12. ^ 中村 2010, pp. 172–173.
  13. ^ a b 中村 2010, p. 173.
  14. ^ 【公演】竹澤恭子さんインタビュー vol.2〔アメリカからフランス、そして日本へ〕”. 杜のホールはしもと (2020年9月23日). 2021年1月17日閲覧。
  15. ^ a b c 山際伸一. “音楽の違いをAIで数値化 アプリでプロの演奏と比較”. ハロー先端科学(大学新聞). 筑波大学URA研究戦略推進室・研究推進部. 2021年1月17日閲覧。
  16. ^ a b c 行達也 (2014年10月). “「音楽の聴き方の男女の違い」(1/2)”. CDV-NET. 2021年1月17日閲覧。
  17. ^ a b c 中村佑一郎 (2006年3月21日). “インディーズ時代を経験したバンドにおける音楽性の変化に関する統計分析”. 2005年度数理科学科卒業論文要旨. 南山大学数理情報学部数理科学科卒業研究発表会実行委員会. 2021年1月17日閲覧。
  18. ^ a b 中村拓海 (2017年7月23日). “追悼チェスター・ベニントン――彼とLinkin Parkが音楽シーンにもたらしたもの”. Real Sound. 2021年1月17日閲覧。
  19. ^ a b c d e f g 植村幸生. “ことばの音楽性”. NHK高校講座 音楽I. 日本放送協会. 2021年7月8日閲覧。
  20. ^ a b 服部裕子 (2020年2月12日). “音楽性の進化過程の解明につながるチンパンジーのリズム感”. 科研費. 日本学術振興会. 2021年1月17日閲覧。
  21. ^ a b 音楽性の違いでなく解散したバンドの理由とは?”. ORICON NEWS. オリコン (2009年2月9日). 2021年1月17日閲覧。
  22. ^ THE PRODIGAL SONS、メンバー4人で本格始動”. ORICON NEWS. オリコン (2011年7月12日). 2021年1月17日閲覧。
  23. ^ a b まいしろ (2018年9月29日). “バンドが「音楽性の違い」で解散する割合は何%なのか? 〜解散の理由を分析してみた〜”. note. 2021年1月17日閲覧。
  24. ^ 音楽性の違いで解散したバンドが、利害の一致で再結成した。”. 東京コピーライターズクラブ. 2021年1月17日閲覧。
  25. ^ a b c 南田 2007, p. 383.
  26. ^ a b c 速水ほか 2010, pp. 3–4.
  27. ^ a b 速水ほか 2010, p. 4.
  28. ^ バンドの解散理由……本当に「方向性の違い」なの?”. BAND Knowledge. KN Video Production (2020年1月7日). 2021年1月17日閲覧。
  29. ^ YA-KYIMが年内解散「音楽ではなく根本的な方向性の違い」”. ORICON NEWS. オリコン (2012年11月22日). 2021年1月17日閲覧。
  30. ^ 岡田結実、オスカー退所理由を告白「ちょっとした方向性の違いが…」”. マイナビニュース. マイナビ (2020年4月5日). 2021年1月17日閲覧。
  31. ^ a b 流れ星・瀧上伸一郎が小林礼奈と離婚「方向性の違い」”. オリコン (2020年10月1日). 2021年1月17日閲覧。
  32. ^ a b LADYBABYから黒宮れいが脱退 「あらゆる意味で“方向性の違い”」”. 音楽ニュース:CINRA.NET. CINRA (2017年11月17日). 2021年1月17日閲覧。
  33. ^ a b 佐藤 2013, p. 196.
  34. ^ 音楽性の違い”. コンビ情報. M-1グランプリ事務局. 2021年1月17日閲覧。
  35. ^ 音楽性の違いにより結成しました”. 音楽性の違いにより結成しました. 2021年1月17日閲覧。


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