水素イオン指数 濃厚な酸・塩基

水素イオン指数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/12 01:21 UTC 版)

濃厚な酸・塩基

酸の濃度が 1 mol/L よりも高くなると、水素イオン活量 aH+ を水素イオン濃度 [H+] で置き換える近似が悪くなる。濃塩酸濃硝酸濃硫酸などの強酸性液体のpHを [H+] から計算で求めるのは、無意味である。塩基の場合も同様で、濃厚アルカリ溶液のpHやpOHを [H+] や [OH] から計算で求めるのは、無意味である。pHはもともと、酸・塩基の濃度が 1 mol/L よりも低い水溶液の酸性・アルカリ性の度合いを示すための指標として考案された[4]。濃厚な酸や濃厚アルカリ溶液の酸性・アルカリ性の強さは、酸度関数によって表現するのが一般的である。

塩酸

塩酸のpHが、2000年代に複数の研究グループにより測定されている。報告された 1 mol/L 塩酸のpHはいずれも −0.1程度であり、互いによく一致している[36]。1 - 6 mol/L 塩酸のpHを酸度関数 H0 とともに表に示す。

塩酸のpHと酸度関数 H0 (25 ℃)[37]
モル濃度 水素電極 ガラス電極 モデル計算 H0
1 mol/L −0.16 −0.10 −0.16 −0.21
2 mol/L −0.63 −0.53 −0.64 −0.67
3 mol/L −1.00 −0.93 −1.03 −1.05
4 mol/L −1.33 −1.22 −1.38 −1.41
5 mol/L −1.53 −1.44 −1.71 −1.76
6 mol/L −1.67 −1.60 −2.05 −2.12

表の2列目は水素電極を用いた測定値、3列目はガラス電極を用いた測定値、4列目は平均活量係数 γ± などの実測値を用いたモデル計算による値で、最後の列が酸度関数 H0 の文献値である。酸のモル濃度が 1 mol/L を超えると、pHが急速に低下することが表から分かる。塩酸では、3 mol/L でpHが −1に達する。

硫酸

ピッツァー式英語版と呼ばれる複雑な実験式に基づいて、25℃における硫酸のpHが計算されている[38]

硫酸のpH (25 ℃)
比重 質量モル濃度/mol/kg pH[38] −log10mH+/mol/kg −log10[H+]/mol/L
1.00 0.146 0.86 0.84 0.84
1.04 0.734 0.09 0.13 0.15
1.09 1.497 −0.38 −0.18 −0.15
1.13 2.319 −0.79 −0.37 −0.33
1.15 2.918 −1.07 −0.47 −0.42
1.18 3.657 −1.41 −0.56 −0.50
1.22 4.485 −1.78 −0.65 −0.58
1.26 5.413 −2.19 −0.73 −0.65
1.33 7.622 −3.13 −0.88 −0.76
1.38 9.850 −4.09 −0.99 −0.84

表の2列目はモル濃度ではなく質量モル濃度である。比較のために、水素イオンの質量モル濃度 mH+ の逆数の対数を4列目に、モル濃度 [H+] の逆数の対数を5列目に示した。十分に希薄であれば、質量モル濃度から計算したpHはモル濃度から計算したpHに等しい。−log10mH+/mol/kg は、硫酸を H+HSO4 を溶質とする理想希薄溶液とみなしたときのpHに相当する。硫酸の質量モル濃度が 1 mol/kg を超えると硫酸のpHは急速に低下し、理想希薄溶液のpHとのずれは無視できないほど大きくなる。表から、自動車用鉛蓄電池の電解液(比重1.28の希硫酸)のpHが −2よりも低い負の値となることが分かる。また、このような強い酸性を示す硫酸のpHは、水素イオンの質量モル濃度やモル濃度の逆数の対数とはみなせないことも分かる。

濃厚アルカリ溶液

水酸化カリウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液のH関数を表に示す。

水酸化カリウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液のH関数 (25 ℃)[39]
モル濃度 14.00 + log10[OH]/mol/L KOH 水溶液の H NaOH 水溶液の H
0.1 mol/L 13.00 13.00 12.99
1 mol/L 14.00 14.11 14.02
2 mol/L 14.30 14.51 14.37
5 mol/L 14.70 15.44 15.20
10 mol/L 15.00 16.90 16.20
15 mol/L 15.18 18.23 17.10

モル濃度が 1 mol/L より低い水溶液では、これらのH関数は [OH] から計算したpHに一致する。モル濃度が 1 mol/L を超えると、pHの計算値とH関数のずれは急速に大きくなる。また、同じモル濃度の濃厚溶液では、水酸化カリウム水溶液の方が水酸化ナトリウム水溶液よりも強いアルカリ性を示す。

平均活量

単独イオンの活量 (single-ion activity) は、熱力学の枠内では測定できないことが知られている[40]。水素イオン活量 aH+ や水酸化物イオン活量 aOH も例外ではない。熱力学的に測定可能なのは、陽イオンと陰イオンの活量の積である。例えば塩酸であれば水素イオン活量と塩化物イオン活量の積 aH+aCl が測定されている。水酸化カリウム水溶液では aK+aOH が測定されている。これらの1:1電解質のイオン活量の積 a+a から、平均活量 a± が次式で定義される。

もし、1:1電解質の陽イオンと陰イオンの活量が等しいと仮定するなら a+ = a = a± となるので、平均活量から単独イオンの活量を推定できる。この仮定に基づいて、25℃における水酸化カリウムのpHが推定されている[41]。この推算によると質量モル濃度 1 mol/kg のときのpHは13.89、15 mol/kg のときは17.14である。質量モル濃度からpHを計算すると 14.00 + log10 15 = 15.18 となることから、濃厚KOH水溶液では質量モル濃度(またはモル濃度)から計算したpHと平均活量から計算したpHが大きく異なることが分かる。


注釈

  1. ^ [Al(H2O)6]3+H+ + [Al(OH)(H2O)5]2+
  2. ^ H2O の活量が1から大きくずれるような濃厚水溶液では 14.00 = pH + pOH + log10aH2O となる。
  3. ^ 英語: reference electrode
  4. ^ これらのpHの値は一次測定により得られる典型値 (typical values) であって、定義値ではない。

出典

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  2. ^ 『理化学辞典』【水素イオン指数】。
  3. ^ 『世界大百科事典』【pH】。
  4. ^ a b 化学の原典』 p. 69.
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  49. ^ JIS B 7960-1 ガラス電極式水素イオン濃度計−取引又は証明用−第1部:検出器、JIS B 7960-2 ガラス電極式水素イオン濃度計−取引又は証明用−第2部:指示計(2015年改正)。
  50. ^ a b JIS K 0213 分析化学用語(電気化学部門)用語番号 355(2014年改正)。






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