吹奏楽 吹奏楽の概要

吹奏楽

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/17 12:54 UTC 版)

日本では、吹奏楽団は、ブラスバンドまたはブラバンと呼ばれることがある。これは、ドイツ語(blasは「吹く」の語幹)には沿うものの、ブラスバンドはbrass band(金管バンド)という英語に由来すると考えられており、その場合は木管楽器を編成に含まないため、吹奏楽団と同義ではない。ただし、日本語としてのブランスバンドは木管楽器を含む吹奏楽団全体を指して用いられている。

概要

吹奏楽編成による演奏風景(大編成)

「吹奏楽」は、字義通りには、「吹いて奏する音楽」であり、演奏に用いられる楽器の発声方法、あるいは演奏主体の編成により定義される。実態としても、軍楽隊や吹奏楽団では、吹奏楽単体の楽曲に加えて有名曲の編曲も多用されている。最も広義には、管楽器を主体として演奏される音楽の総称とすることが適当である。

狭義の吹奏楽としては、管楽器による二桁の人数を規模とする楽団で、木管楽器金管楽器を含み、打楽器コントラバスを加える。チェロハープなどの弦楽器チェレスタピアノなどの特殊楽器を加える場合もある。ヴァイオリンヴィオラなどは使用しない場合が多い。

多くの国では消防・警察などの公的な機関に属する楽団や軍楽隊が中心であるものの、日本とアメリカでは学校などのアマチュアも多い。アメリカのプロフェッショナルでは1800年代後半から1900年代初頭にかけてギルモアスーザによる吹奏楽団が活躍し、今日でもダラス・ウインズやウィスコンシン・ウインド・オーケストラの活動が見られる。オランダベルギーフランスでは町や村の吹奏楽団が数多くある。イタリアスペインにもバンダと呼ばれる吹奏楽団がある。

広義の吹奏楽としては、イギリスなどで英国式ブラスバンドが結成されている。フランスドイツなどにも、町や村のブラスバンドが存在する。ジョヴァンニ・ガブリエーリによるファンファーレ18世紀以前の管楽器を中心とした楽曲、ハルモニームジークなどの室内楽的な管楽器による合奏も吹奏楽の一部をなす。これらの音楽は、しばしば管楽として区別される。

声楽管楽器独奏、ポピュラー音楽民族音楽、東欧における式典音楽、管弦楽については、広義の吹奏楽には含まれない。これらについては、本項では詳述しない。

他言語としては、ドイツではBlasmusik(ブラスムジーク、「吹く」の語幹と「音楽」)があり、フランスではharmonie(アルモニー)が用いられる。吹奏楽団を指すものとしては、ドイツではブラスオルケスター(Blasorchester)、ブラスカペレ(Blaskapelle)、ブラスバント(Blasband)などがあり、フランスではミュジック・ダルモニー(musique d'harmonie)やファンファール(fanfare)、イタリアやスペインではバンダ(banda)が用いられ、東欧諸国ではファンファーレ(fanfare)、ファンファーラ(fanfara)、オルケスタル(orkestar)などが用いられる。

英語としては、bandのみで吹奏楽団を指すこともあったものの、第一次世界大戦前後にジャズ第二次世界大戦前後にロックが一般化するに従って区別された。軍楽隊ではmilitary bandを用いることが多い。イギリスでは民間の吹奏楽団は独自の金管楽器による編成で発達し、brass bandの語が用いられている。brass bandは「金管楽器による楽団」の意味である。アメリカでも金管楽器が中心の編成が多く、brass band、silver bandなどがあり、territory band(領域の楽団)、service band(代用の楽団)、marching band(行進の楽団)、school band(学校の楽団)などが用いられ、concert band、symphonic band、wind band、wind orchestraも用いられている。吹奏楽を指すものとしては、wind musicを用いることが多い。なお、wind ensembleも吹奏楽を指すものであるものの、フェネルが提唱した編成を指すものとして区別される。

戦場などでの野外演奏、食事などでの室内演奏に加えて、19世紀以降はバルブが発明されており、楽器の操作性向上や価格の低廉化が進んだ。軍楽隊の活動が信号や式典などの演奏ではなく戦意高揚や慰安などの演奏に移行したこと、多くの聴衆を集めるようになったこと、アマチュアの演奏団体が管楽器を中心とした編成で結成されたことなどにより階級を超えて広まった。こうした状況は同時に、行進曲のほか、オペラの抜粋や軽音楽などにおける楽曲の編曲による演奏を一般化した。吹奏楽編成のために用いられる作品は「オリジナル作品」、編曲作品は「アレンジ作品」と呼ばれて区別される。また、東欧諸国ではオスマン帝国占領下で軍楽隊が組織され、西欧諸国では植民地でも軍楽隊が設置されたため、実用的な文明の産物から現地における文化への変容を遂げた事例も多い。

吹奏楽単体の楽曲に加えて有名曲の編曲も多用されており、吹奏楽が包摂する内容は極めて多様となっている。さらに、アマチュアにより占められ、楽団の運営や演奏など教育的な側面が強調される傾向もあって、吹奏楽の包括的な記述は困難であり、研究は十分に進んでいないのが現状である。

歴史

古代エジプト時代にはラッパ太鼓を主に、行進を伴奏する情景が当時の壁画に残されている[1]古代ローマ時代には楽団の編成が、中世には楽器の種類・数量が増した。オスマン帝国の侵攻に伴うトルコ軍楽隊メフテルとの接触はヨーロッパにおける吹奏楽の拡張に貢献した[2][3]。より多くのクラリネットピッコロが次第に加えられ、金管楽器が発達し、打楽器の素晴らしさ、そして劇的な効果が、大太鼓シンバルトライアングルなどの鼓笛隊における拡張を促した。17世紀にはドイツ、フランスなどで盛んとなり、芸術音楽にも多大な影響を与えた。行進曲として演奏されるレパートリーが出現する時代もこの頃からである。さらに、1789年フランス革命が起きると、吹奏楽の形態は大編成のものへと変わってゆく。革命を機に失業した宮廷音楽家らがフランス防衛軍に編成され、士気高揚の一翼を担った。1810年代には使用する楽器が国により異なってくるものの、既に現在とほぼ変わらない規模に達していた。ヘンデルハイドンモーツァルトベートーヴェンの影響も大きい。

軍楽も単に士気の鼓舞だけでなくなり、様々な種類の演奏ができるようになったものの、音量が大きいことと、移動して演奏するのに便利なことなどから、野外演奏が主体だった。やがて、演奏会場におけるキャパシティの拡張に伴い、吹奏楽が一つの演奏分野として認められるようになる[4]。アメリカでは、1892年ジョン・フィリップ・スーザがスーザバンドを設立したことなどから、吹奏楽は民間に広まってゆく。クラリネット中心の編成で、学校教育・社会教育に活用されたものの、現行の編成が作られたのは、ミシガン大学ウィリアム・レヴェリ英語版による。1929年にはアメリカ吹奏楽指導者協会英語版(ABA)がエドウィン・フランコ・ゴールドマン英語版によって設立され、アメリカにおける吹奏楽の発展が図られた。


注釈

  1. ^ 最後に当該コンクールでエレキベースが使用されたのは、2005年NTT西日本中国吹奏楽クラブによる「トリビュート・トゥ・カウント・ベイシー・オーケストラ」(真島俊夫編曲)。

出典

  1. ^ 吉村 2001、156-157頁。
  2. ^ 上尾 2000、152-183頁。
  3. ^ 社会史 2001、59-63頁。
  4. ^ 社会史 2001、38-43頁。
  5. ^ バンドスタディ 2005、88-89頁。
  6. ^ 洗足学園音楽大学 コース紹介
  7. ^ a b c 社会史 2001、113-120頁。
  8. ^ 全日本吹奏楽連盟
  9. ^ Z世代に聞いた「人気の部活」ランキング…1位は「自分の時間を大切にしたい」若者ならでは|まいどなニュース”. まいどなニュース (2023年5月11日). 2023年6月21日閲覧。
  10. ^ 全日本吹奏楽コンクール実施規定”. 全日本吹奏楽連盟 (2023年11月17日). 2024年6月17日閲覧。
  11. ^ 全日本アンサンブルコンテスト実施規定”. 全日本吹奏楽連盟 (2023年11月17日). 2024年6月17日閲覧。
  12. ^ 理事長からのお便り - 一般社団法人 全日本吹奏楽連盟”. 全日本吹奏楽連盟. 2024年6月17日閲覧。
  13. ^ 全日本小学生バンドフェスティバル実施規定”. 全日本吹奏楽連盟 (2024年2月22日). 2024年6月17日閲覧。
  14. ^ 東日本学校吹奏楽大会実施規定”. 東京都小学校吹奏楽連盟. 2024年6月17日閲覧。
  15. ^ 題名のない音楽会 8月11日の放送内容”. テレビ朝日 (2011年). 2022年3月6日閲覧。
  16. ^ オザワ部長 (2021年5月4日). “【世界的プロ吹奏楽団の貴重な歴史書】『東京佼成ウインドオーケストラ60年史』出版!”. 2022年3月6日閲覧。
  17. ^ 平成27年度一般幹部候補生(陸上自衛隊(大卒程度試験)音楽要員)採用のご案内
  18. ^ Band Journal 『バンドジャーナル』
  19. ^ Band Power(2000年5月24日時点のインターネット・アーカイブ)
  20. ^ Band Power(2023年6月6日時点のインターネット・アーカイブ)
  21. ^ 中橋愛生 [@napp_comp] (2023年6月26日). "吹奏楽Webマガジン「バンドパワー」、6月20日付けのメルマガで発表されていましたが、今月末で……". X(旧Twitter)より2024年4月22日閲覧
  22. ^ 『パイパーズ』休刊のお知らせ”. パイパーズ. 杉原書店 (2023年3月). 2023年4月11日閲覧。
  23. ^ エフエム岩手 » BRA-BAN!”. エフエム岩手. 2023年12月2日閲覧。
  24. ^ 『お知らせ』”. エフエム岩手「BRA-BAN!」. 2023年12月2日閲覧。
  25. ^ 【4月2日よりシオンのレギュラーラジオ番組スタート!】”. www.facebook.com. Osaka Shion Wind Orchestra (2017年3月19日). 2023年12月2日閲覧。
  26. ^ TUNING ROOM ~featuring Osaka Shion Wind Orchestra~”. α-STATION | FM京都 89.4 FM. 2023年12月2日閲覧。
  27. ^ @RoomTuningのポスト”. TUNING ROOM. 2024年4月8日閲覧。
  28. ^ FMヨコハマで吹奏楽・管楽器をフィーチャーした新番組「あなたと夜と吹奏楽」が10月2日(土)21:30からスタート PRTIMES NEWS(2021年9月30日掲載、2022年11月23日閲覧)
  29. ^ あなたと夜と吹奏楽【FMヨコハマ】 (@suibu847)のポスト”. あなたと夜と吹奏楽(FMヨコハマ) (2024年3月30日). 2024年3月30日閲覧。
  30. ^ さあやろう!ABCラジオ吹奏楽部です (2022年3月31日). “https://twitter.com/abcradio_ssg/status/1509470165120929792”. X (formerly Twitter). ABCラジオ. 2023年12月2日閲覧。
  31. ^ 【ポッドキャスト】6/3(金)~「It's A Wonderful Wind」(ニッポン放送 PODCAST STATION)|メディア | 東京佼成ウインドオーケストラ|”. 東京佼成ウインドオーケストラ Tokyo Kosei Wind Orchestra. 2023年12月2日閲覧。
  32. ^ 奏佑のBRASS BATON”. 山梨放送. 2023年12月2日閲覧。
  33. ^ 文化放送初の「吹奏楽」をテーマにした新番組『藤重佳久Swinging Harmony~Winds Brass Revolution~』”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES (2023年12月19日). 2024年1月19日閲覧。






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