剣道 試合形式

剣道

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/12 02:42 UTC 版)

試合形式

以下は全日本剣道連盟の場合である。

試合は常に1対1で戦う。これは団体戦の場合も同じである。選手は試合場に入り二歩進んでお互いにをし、三歩進んで蹲踞したあと審判員の「始め」の声がかかってから立ち上がり、勝敗が決するか規定の試合時間が経つまでお互いに技を出し合う。原則として三勝負であるが、一本勝負も認められている。

試合場

張りの床に境界を含め19mないし11mの正方形試合場を作り、試合をする。境界は普通、白のラインテープを貼って分ける。また、試合開始時の立ち位置は試合場中心付近に白のラインテープで示される。

試合時間

試合時間は小学生2分、中学生3分、高校生以上4分、延長戦の場合には3分が基準である。しかし、運営上の理由などからこれ以外の試合時間を採用することも認められており、全日本選手権等の公式大会の決勝戦では、2007年(平成19年)から試合時間が10分に変更された。

全ての技は、竹刀で防具の決められた箇所を打突するものである。

技一覧表
技の詳細 技名 特記事項
小手を打つ技 小手打ち、引き小手打ち、出鼻小手
面を打つ技 面打ち、引き面打ち、小手面打ち
面の当てを突く技 突き 小学生、中学生は原則禁止。高校生以上でも、この技を禁止とする大会もある。
胴の当てを突く技 胸突き 以前は相手が上段の構えを取っている時のみ一本になった。後、相手が二刀流の場合のみ認められていた。
胴の右側を打つ技 胴打ち、引き胴打ち、抜き胴
胴の左側を打つ技 逆胴打ち

これに、技を出す直前までの流れから「相(あい)〜」「抜き〜」「返し〜」「払い〜」「すり上げ〜」「引き〜」などの接頭辞が付く場合もある。

有効打突

有効打突(一本)とは、

充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部(弦の反対側の物打ちを中心とした刃部)で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるもの

である。審判員はこれに該当しているかどうかを判断してを挙げる。

反則

反則を一試合中に2回犯した場合は、相手に一本を与える。

  • 相手に足を掛けまたは払う。
  • 相手を不当に場外に出す。
  • 試合中に場外に出る。
  • 自己の竹刀を落とす。
  • 不当な中止要請をする。
  • 相手に手をかけまたは抱え込む。
  • 相手の竹刀を握るまたは自分の竹刀の刃部を握る。
  • 相手の竹刀を抱える。
  • 相手の肩に故意に竹刀をかける。
  • 倒れたとき、相手の攻撃に対応することなく、うつ伏せなどになる。
  • 故意に時間の空費をする。
  • 不当な鍔(つば)迫り合いおよび打突をする。

審判員

3名の審判員(1名の主審、2名の副審からなる)が紅白を持ち、旗を挙げることで有効打突の意思表示とする。2名以上が有効打突の表示をした場合、もしくは1名の審判員が有効打突を表示し2名が判定の棄権を表示した場合、一本となる。また、主審は次のいずれかの場合、「止め」の宣告と同時に紅白両方の旗を平行に挙げ、試合を中断させることができる。

  • 反則の事実
  • 負傷や事故
  • 危険防止
  • 竹刀操作不能の状態
  • 異議の申し立て
  • 合議
  • 試合者から中断の要請があった場合(この場合、主審は要請の理由を質し、不当な要請の場合は審判の合議の上、反則となることもある)

なお、試合中断は副審から申し出ることもできる。その際に副審が「止め」の宣告後、直ちに主審が「止め」の宣告をして試合を中断する。

鍔(つば)迫り合いがこうちゃく(膠着)した場合、主審は 「分かれ」の宣告と同時に両旗を前方に出し、両者を分け、その場で「始め」の宣告と同時に両旗を下ろし、試合を継続する。「分かれ」の場合の試合時間は中断しない。

勝敗

勝敗は、試合時間のうちに三本勝負の場合二本、一本勝負の場合一本先取した選手を勝ちとする。また三本勝負において一方が一本を取り、そのままで試合時間が終了した場合にはその選手を勝ちとする。試合時間内に勝敗が決しない場合には、延長戦を行い先に一本取った選手を勝ちとする。延長の代わりに判定あるいは抽選によって勝敗を決する場合、または引き分けとする場合もある。判定および抽選の場合には勝者に一本が与えられる。団体戦における代表戦も原則一本勝負である。

二刀流

二刀流の選手(左)

成年者は原則として二刀流は禁止されていないが、使用者の数は少ない。昭和初期に学生の間で試合に勝つためだけに、団体戦において二刀流の選手を防御一辺倒の引き分け要員とする手段が横行したため、一部の学生大会では二刀を禁止するようになった。太平洋戦争後、剣道が全日本剣道連盟の下に復活した際も、学生剣道界では戦前に倣って二刀を禁止したために、二刀を学ぶ者が非常に少なくなってしまった。

ただし、伝統が断絶するのを危惧する声もあり、1992年(平成3年)に大学剣道(公式試合・昇段審査)でも解禁された。しかし、高体連中体連の公式試合・昇段審査においては未だに禁止されており、また小学生・中学生は申し合わせ事項で片手技は有効としないとされているため、高校生以下では事実上禁止されている状況である。

二刀流の竹刀は大刀小刀を用いる。それぞれ長さと重さが決められており、男性の場合、大刀は37以下(一刀の場合は3尺9寸以下)、小刀は2尺以下となっている[30]。長らく二刀流が否定されていたため、また上記の通り竹刀も短く、かつては二刀流の相手に対しては胸突きも認められていたというハンデキャップがあるため、指導者・使用者とも少ないのが現状である。

異種試合

なぎなた女子と剣道男子の接近戦

異種試合とは、異なる武道との試合のことである。高野佐三郎1920年大正9年)に著した『日本剣道教範』(P119-P120)には銃剣鎖鎌との戦い方が解説されている。昭和天覧試合では銃剣術との試合が行われた。現在は全日本剣道演武大会など特別な大会で、なぎなたとの試合がエキシビション的に行われる程度であり、全日本剣道連盟と全日本なぎなた連盟も公式な異種試合のルールを整備していない。

主な大会


注釈

  1. ^ 「実習の際に多少の危険がある」、「ややもすれば粗暴の気風を養う」、「道具を要し、かつ清潔に保つことが容易ではない」、「各人に監督を要し、一斉に授けがたい」、「武技と体操は似て非なるものである」などの理由による。
  2. ^ 寛文7年(1667年)の安倍立伝書に「剣術は日用の術なので剣道という号にする」という記述、弘化5年(1848年)の大石神影流門人渡部直八の『諸国剣道芳名録』、明治時代の一刀正伝無刀流開祖山岡鉄舟の書物に「剣道」という表現がある。
  3. ^ 内藤高治は「これで日本剣道は滅びた」と嘆じた。
  4. ^ なお、柔道は昭和23年(1948年)に解禁されている。
  5. ^ 当時の全日本剣道連盟兼全日本撓競技連盟の幹部(庄子宗光、中野八十二、大島功、渡辺敏雄)の座談会において中野八十二は、「今度、剣道連盟が、剣道はスポーツとして行くんだと宣言されたことは、非常に意味があると思う。剣道というものは、御承知のように武士階級の盛んな封建時代に育ったもので、それがだんだんと発展してきて民主的になったといっても、まだそのような気分の抜けきれぬところが多くある。『俺は剣道をやっているのだ、俺はほかの者よりいいものをやっているのだ』という貴族的な、あるいは武士的な気持が多分に残っていたと思うのです。ところが御承知のようにスポーツというものは、本当をいえば民主主義に根ざしたものですから、相手を征服するとか何とかいうことでなしに、本当に相手と共に楽しみながら、剣道を通してお互を磨いていくということが、本当の姿と思うのです。私はスポーツというものはそういうものだと思う。そうした点を剣道連盟がはっきりと明確に打ち出されたということは、結局、剣道というものをある特権階級的雰囲気から大衆的雰囲気にしたともいい得るので、一大躍進と称しても過言でないと思います。」と述べている[9]
  6. ^ 全日本剣道連盟第2代会長の石田和外は、昭和52年(1977年)に『通産ジャーナル』誌上で、「剣道はいまスポーツとして評価されているし、スポーツであることは間違いないことです。スポーツとしても立派に成り立つと思いますが、やはり剣の道ということになると、昔の人の心構えということになりますね。(中略)剣道をスポーツだと考える人からいうと、少しややこしくなりますが、剣道はつきつめていくと、魂のこもった日本刀で、場合によっては、命のやりとりもしなければいけないんだという、一つの奥があるんです。」と述べている[10]
  7. ^ 現在の全日本剣道連盟は、「剣道は剣道具を着用し竹刀を用いて一対一で打突しあう運動競技種目とみられますが、稽古を続けることによって心身を鍛錬し人間形成を目指す『武道』です。」と表明している[11]

出典

  1. ^ a b 全剣連の見解”. 全日本剣道連盟 AJKF. 2021年10月28日閲覧。
  2. ^ 剣道・居合道・杖道”. 全日本剣道連盟 AJKF. 2021年10月28日閲覧。
  3. ^ 剣道の理念”. 全日本剣道連盟 AJKF. 2021年10月28日閲覧。
  4. ^ 戸部新十郎『明治剣客伝 日本剣豪譚』120頁、光文社
  5. ^ 庄子宗光『剣道百年』9頁、時事通信社
  6. ^ 庄子宗光『剣道百年』58頁、時事通信社
  7. ^ 西久保氏武道訓
  8. ^ 大塚忠義『日本剣道の歴史』、牧秀彦『図説 剣技・剣術二』
  9. ^ 庄子宗光『剣道百年』646頁、時事通信社
  10. ^ 『通産ジャーナル』1977年9月号、通商産業省
  11. ^ 全日本剣道連盟 | 剣道を知る | 剣道とは
  12. ^ 剣道:32歳英国人、選手と武道具店員を掛け持ち - 毎日新聞2015年06月10日
  13. ^ 世界剣道選手権での韓国の審判批判はまったくの的外れ - ダイヤモンド・オンライン
  14. ^ 月刊剣道日本』2002年4月号88頁、スキージャーナル。
  15. ^ 月刊剣道日本』2003年11月号46-47頁、スキージャーナル。
  16. ^ 文部時報898号
  17. ^ 内田良、「柔道事故─武道の必修化は何をもたらすのか─(学校安全の死角(4))」『愛知教育大学研究報告, 教育科学編』 2010年 59巻 p.131-141, hdl:10424/2931, 愛知教育大学
  18. ^ 剣道医学救急ハンドブック(第3版)の販売開始のお知らせ
  19. ^ 暑熱環境下での稽古対策【1】”. www.budo.ac. 2021年3月22日閲覧。
  20. ^ 堀山健治, 林邦夫, 中川武夫, 伊保清次, 田中豊穂「剣道難聴の研究―第一報,剣道家の聴力について―」『武道学研究』第17巻第1号、Japanese Academy of Budo、1985年、56-58頁、doi:10.11214/budo1968.17.1_56ISSN 0287-9700NAID 130004572989 
  21. ^ 堀山健治, 田中豊穂, 中川武夫, 林邦夫, 伊保清次「剣道難聴の研究」『体育学研究』第33巻第3号、日本体育学会、1988年、175-183頁、doi:10.5432/jjpehss.KJ00003391668ISSN 0484-6710NAID 110001918738 
  22. ^ 加藤榮司, 東野哲也「剣道による聴覚障害 -高等学校剣道部員に対する18年間にわたる聴覚健診の成果-」『日本耳鼻咽喉科学会会報』第115巻第9号、日本耳鼻咽喉科学会、2012年、842-848頁、doi:10.3950/jibiinkoka.115.842ISSN 0030-6622NAID 130003299258 
  23. ^ <研究課題名>剣道難聴発生のメカニズム解明と新機能防具の開発 代表研究者:濱西伸治 (PDF)
  24. ^ 加藤榮司, 東野哲也、「【原著】剣道による聴覚障害 -?高等学校剣道部員に対する18年間にわたる聴覚健診の成果-」『日本耳鼻咽喉科学会会報』 2012年 115巻 9号 p.842-848, doi:10.3950/jibiinkoka.115.842
  25. ^ a b c 剣道選手のアキレス腱断裂に関するアンケート調査 - 早稲田大学スポーツ科学部
  26. ^ スポーツと脳障害疾患 今、医療に求められること”. ハフポスト (2016年6月20日). 2021年3月22日閲覧。
  27. ^ Uchida, Yuto; Horimoto, Yoshihiko; Shibata, Haruto; Kuno, Tomoyuki; Usami, Toshihiko; Takada, Koji; Iida, Akihiko; Ueki, Yoshino et al. (2020-08-26). “Occipital tau deposition and astrogliosis following traumatic brain injuries in a kendo player” (英語). Neurology: Clinical Practice. doi:10.1212/CPJ.0000000000000936. ISSN 2163-0402. https://cp.neurology.org/content/early/2020/08/24/CPJ.0000000000000936. 
  28. ^ (PDF) Quantification of subconcussive impact forces to the head using a forensic model” (英語). ResearchGate. 2021年3月22日閲覧。
  29. ^ 「全日本剣道連盟 剣道と医・科学」
  30. ^ 連盟規則
  31. ^ 福岡参院議員がけが 剣道稽古中、アキレス腱切る - 佐賀新聞
  32. ^ 衆議院議員会館剣道場稽古会 - 道場の写真あり。


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