ロールス・ロイス トレント 各種型

ロールス・ロイス トレント

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/09 04:07 UTC 版)

各種型

トレント600

最初の生産型でMD-11向けに開発されたが、MD-11自体の販売不振に加え、カスタマーはブリティッシュ・カレドニアン航空エア・ヨーロッパのみに留まり、前者は1987年ブリティッシュ・エアウェイズへの吸収合併に伴い発注をキャンセルされてしまい、後者は湾岸戦争の影響で倒産した。600は2000年、長距離型B767-400ER向けにエンジン・アライアンス GP7172と共に採用されたが、アメリカ同時多発テロ事件以降の航空機需要の冷え込みと原油価格の高騰で計画放棄された。このため、近代化型B747-8GEnxのみ選択可能になっている。

トレント700

エアバスA330向けには当初トレント600(680)が予定されていたが、A330が計画値より重量超過したため、拡大版700(720)が新規に設計された。1989年にキャセイ・パシフィック航空から10機、トランス・ワールド航空から20機の確定発注を受けて翌1990年に進空し、1994年に90分、1995年に120分、1996年には180分間のETOPS認証を獲得した。2007年パリ航空ショーまでに700は140基を受注し、A330搭載エンジンの41%のシェアを獲得している。

トレント800

ボーイングのB767X(767の拡大版)案に対しては760が提示されていたが、計画は1990年に推力80,000ポンド級の高推力エンジンを要求する、より大型のB777に変更された。ファン径を700系の2.47mから2.79mに拡大した800を新設計するにあたり、ロールス・ロイスは川崎重工業と石川島播磨重工(現IHI)に技術協力と、11%の生産分担を要請した。800の地上試験は1993年に開始され、1995年耐空証明を、翌1996年には180分間のETOPS認証を700と共に得た。永年のパートナーであったブリティッシュ・エアウェイズがB777のローンチカスタマーとしてGE90を選定した事もあり(背景には米からの政治的圧力も存在した)、販売面では当初苦戦したが、P&Wユーザーだったシンガポール航空から大量受注してから後は、800の高信頼性と同社のアフターサービスの良さが好評を博して形勢を逆転し、ブリティッシュ・エアウェイズもB777の追加発注に際しては800を指名した。

トレント8104/8115

1998年に持ち上がったB777の長距離型777-300ER計画に、トレント800の拡大版8104、続いて777Xのために8115を提案した。8104は初めて推力100,000 lbf (440 kN)、続いて推力110,000 lbf (490 kN)を達成したにもかかわらず、GEアビエーションの社長のジェームズ・マックナーニ(後にボーイング社CEO)がボーイングに対して「自社のエンジンを777Xに排他的に採用するのであれば開発費として最大5億ドルを負担する」という提案を行ったため、ボーイングは1999年7月にGE90-110BとGE90-115Bを長距離型777(B777ER)の唯一のエンジンとして採用した[6]。行き場を失った8104は、完全後退角の幅広のファンを初めて採用し、業界初の大推力を達成したにもかかわらず、デモンストレーション専用という不遇をかこっている。777Xのために提案された8105ではファンの直径が8104から2.5%拡大された3.05 mになり、推力は115,000 lbf (510 kN)にまで引き上げられる予定だったが、ボーイングが777Xのエンジンの供給をGEアビエーションに限定したために開発されなかった[7]

トレント500

エアバスの四発長距離機A340に採用されていたCFM56は性能向上の限界に達していた。ストレッチ型のA340-500/-600に対し、1996年にはGEとエアバスの間で新エンジン開発が一旦合意されたが、独占供給契約を要求する GE の高姿勢に反発したエアバスはこれを拒否した。残るP&Wとの競争に勝利したロールス・ロイスは縮小版500の開発に着手し、1997年パリ航空ショーでA340-500/-600への採用が発表された。500は1999年に完成し翌2000年耐空証明を得て、15の航空会社で150機以上のA340シリーズに搭載されている。

トレント900

1990年代初頭にエアバスがB747への対抗機案A3XX(後のA380)を構想した際、ロールス・ロイスは900計画で即座に呼応し、ローンチエンジンに採用された。ファンの更なる巨大化に伴い、最内軸がトルク打ち消しのため反転された。リスク・収益分担パートナーはITP(インダストリア・デ・ターボ・プロパルゾレス)(西、低圧タービン)、ハミルトン・スタンダード(米、電子装置)、アヴィオ(伊、ギアボックス)、丸紅(日、部品)、ボルボ・エアロ(瑞、圧縮機容器)、グッドリッチ(米、ファン容器、センサ類)、ハネウェル(米、油圧系)の7社である。また三星電子(韓)、川崎重工業、石川島播磨重工も従来通り協力している。A380は当初計画より12か月遅延しているが、2007年9月現在53%で900が選択されている(残余はエンジン・アライアンス GP7000)。
2010年11月4日、カンタス航空32便エアバスA380)のトレント900エンジン1基(左翼内側)が飛行中に爆発し、エンジンがむき出しになり、主翼に穴が開いた。その後の調査でタービン部品の欠陥による油漏れのため、油が燃焼して中圧タービンディスクを固定するピンがはずれたことが分かった。ロールス・ロイスはこれをトレント900固有の問題としている。最大でカンタス14基、シンガポール航空20基、ルフトハンザ2基の交換の可能性がある。

トレント1000

B787 の開発に際しボーイングは当初GE一社に供給を絞る心算だったが、インターフェースを共通化して、各社のエンジンをパイロンごと交換可能な民間機初のシステムを採用する事になり、ロールス・ロイスも1000で開発に参加した。ロールス・ロイスは独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)とガスタービンエンジン向け超耐熱合金の共同研究を行い、NIMS開発の単結晶超合金をタービン翼に採用した[8]。タービン翼に初めて国産の材料が使われたことになる[9]川崎重工業(中間圧縮機モジュール)、三菱重工業(燃焼器、低圧タービンブレード)、ITP (低圧タービン)、カールトン鍛造所(加、ファンケース)、ハミルトン・スタンダード英語版ギアボックス)、グッドリッチ(電子装置)の6社がリスク・収益分担パートナーとして総計35%を担当している。787 の「ワーキングトゥゲザー」で最大手ユーザーになる予定の全日空2004年に 1000 を選択した事を発表し、全日空向けトレントの契約額は10億米ドルを越えた。その後、世界最大の航空機リース会社インターナショナル・リース・ファイナンスからも大量発注を受け、B787用で38%のシェアを占めている。1000は2006年頭に初火入れされ、ロールス・ロイス社有の747-200改造機で試験された結果、翌年夏に耐空証明を得たが、2007年中に予定されていた787の進空は約2年遅延している。さらに2010年8月には、ロールス・ロイスで地上試験中だった1000が爆発し、試験設備が破壊された[10]。2016年、立て続けに中圧タービンのニッケル合金製タービンブレードが破断するトラブルが発生したが、2017年から対策品が製造され、換装が始まった[11]。2021年までに終えられる見通し[12]

トレント1500

B777-200LR/300ERの対抗機として計画された、A340-500/600に用いられる予定だった500の改良型。新型双発機A350 XWB (Xtra Wide-Body)が代替する事になり、実機は製作されなかった。ファンの直径が97.4インチでトレント1000/XWBのガス発生器と低圧タービンを改良し使用する予定だった。

トレントXWB

787の対抗機として、エアバス社は2005年にA330の改良機A350構想を発表し、ロールス・ロイスは川崎重工業の協力下1000シリーズの強化版1700を計画したが、A350の新味の無さに市場は冷淡な反応を示したため、エアバス社は2006年7月17日、B787より更に広く大きいA350 XWBへの改案に追い込まれた[13]。同機用エンジンもトレントXWBの仮称で再設計され、シリーズ中最強力になる予定である[14]

このトレントXWBは静止推力74,200から97,000ポンド、ブリードエアエンジン[15]であり、開発には川崎重工が参加する。

2013年、推力84,000ポンドのトレントXWB-84がA350 XWB-900に搭載され初飛行を果たした。今後、推力74,200ポンドのトレントXWB-75および推力79,000ポンドのトレントXWB-79がA350 XWB-800に、推力97,000ポンドのトレントXWB-97がA350 XWB-1000に搭載される予定である[16]

トレント 7000

2014年7月14日にファーンボロー国際航空ショーエアバスA330neoの専用エンジンとしてトレント7000が公式発表された。トレント7000はこれまでA330で使用されたトレント700での経験のほか、トレント1000の最新版であるトレント1000-TENから基本構造を流用し、トレントXWBで使用される技術を活用する予定である。予定される推力は68,000–72,000 lbf (300–320 kN)で電気式ブリードエアシステム(electronic bleed air system) (EBAS)を採用する。エアバスA330のエンジンとトレント7000を比較すると燃料消費率が12%(搭載時10%)改善されバイパス比が倍増し、A330neoは厳格なロンドン・ヒースロー空港の騒音基準(QC)のQC1/0.25に適合し、聴覚での騒音を半減させる[17][18]。エンジン直径は112インチで20枚のブレードを備えている[19]


  1. ^ Pugh, Peter (2002). The Magic of a Name, Part Three. Icon Books. ISBN 1840464054 
  2. ^ 特にキャセイパシフィック航空・シンガポール航空はトレントが選択できないケース(B777-300ER等)以外はほとんどがトレントを発注する。
  3. ^ Repayable launch investment (RLI)”. House of Commons. 2010年11月22日閲覧。
  4. ^ Donoghue, J.A. (2004年11月1日). “The fan is the thing”. Air Transport World. 2013年2月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年2月3日閲覧。
  5. ^ “Rolls-Royce standardises on hybrid RB211 after entry success”. Flight International. (1998年5月6日). http://www.flightglobal.com/articles/1998/05/06/36700/rolls-royce-standardises-on-hybrid-rb211-after-entry.html 2007年1月20日閲覧。 
  6. ^ BW Online | August 9, 1999 | How GE Locked Up That Boeing Order
  7. ^ ボーイング、次世代機向けエンジンの独占サプライヤーにGEを選定. https://jp.reuters.com/article/tk8350423-boeing-ge-idJPTYE92H03D20130318. 
  8. ^ 「ナノイノベーションの最先端」第28回”. www.nanonet.go.jp. 2020年3月4日閲覧。
  9. ^ 平成30年版日本の航空宇宙工業. 一般社団法人日本航空宇宙工業会. (2018-03-31). p. 214. ISSN 0910-1527. https://www.sjac.or.jp/common/pdf/sjac_gaiyo/info/nihon_H30.pdf 
  10. ^ 「英ロールス:ジェットエンジン検査施設、依然閉鎖-事故の影響続く」ブルームバーグ
  11. ^ ANAの「787」エンジン不具合、ロールス・ロイスが改良型の部品供給 ニュースイッチ・日刊工業新聞(2017年02月02日)2017年02月04日閲覧
  12. ^ YOSHIKAWA, Tadayuki (2018年11月30日). “787エンジン改修、21年までに完了へ RRイーストCEO「ANAは優先事項」”. Aviation Wire. 旭技研. 2018年11月30日閲覧。
  13. ^ “Airbus goes for extra width - A350 XWB special report”. Flight International. (2006年7月25日). http://www.flightglobal.com/articles/2006/07/25/208045/airbus-goes-for-extra-width-a350-xwb-special-report.html 2007年2月23日閲覧。 
  14. ^ “Farnborough: Airbus A350 powerplant race ignites as Rolls-Royce reaches agreement to supply Trent, Alliance confirms interest”. Flight International. (2006年7月25日). http://www.flightglobal.com/articles/2006/07/25/208086/farnborough-airbus-a350-powerplant-race-ignites-as-rolls-royce-reaches-agreement-to-supply-trent.html 2007年2月23日閲覧。 
  15. ^ "Rolls-Royce to develop Trent 1700 for A350", David Kaminski-Morrow, Flight International, October 6, 2005.
  16. ^ “Flightdeck rethink heralds new A350 XWB design”. Flight International. (2007年9月27日). http://www.flightglobal.com/articles/2007/09/27/217061/flightdeck-rethink-heralds-new-a350-xwb-design.html 2007年10月17日閲覧。 
  17. ^ Airbus selects Rolls-Royce Trent 7000 as exclusive engine for the A330neo”. www.rolls-royce.com/. Rolls Royce (2014年7月14日). 2014年7月14日閲覧。
  18. ^ Rolls-Royce Details Trent 7000 Plans For A330neo”. aviationweek.com. Aviation Week (2014年7月14日). 2014年7月14日閲覧。
  19. ^ Trent 7000 infographic”. www.rolls-royce.com. Rolls-Royce. 2014年7月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年7月14日閲覧。
  20. ^ Federal Aviation Administration FAA (2007-06-06). Type Certificate Data Sheet. http://rgl.faa.gov/Regulatory_and_Guidance_Library/rgMakeModel.nsf/0/09b47c27a9cfb982862573080054f9ea/$FILE/E00075EN.pdf 2007年11月3日閲覧。. 
  21. ^ TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET No.EASA E.111for EngineTrent XWB series engines” (PDF). EASA (2020年5月22日). 2020年12月31日閲覧。
  22. ^ TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET No.EASA.A.151 AIRBUS A350” (PDF). EASA (2020年6月26日). 2020年12月31日閲覧。
  23. ^ TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET No.EASA E.111for EngineTrent XWB series engines” (PDF). EASA (2020年5月22日). 2020年12月31日閲覧。
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  26. ^ TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET No.EASA.A.151 AIRBUS A350” (PDF). EASA (2020年6月26日). 2020年12月31日閲覧。
  27. ^ TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET No.EASA E.111for EngineTrent XWB series engines” (PDF). EASA (2020年5月22日). 2020年12月31日閲覧。
  28. ^ TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET No.EASA.A.151 AIRBUS A350” (PDF). EASA (2020年6月26日). 2020年12月31日閲覧。
  29. ^ TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET No.EASA E.111for EngineTrent XWB series engines” (PDF). EASA (2020年5月22日). 2020年12月31日閲覧。
  30. ^ TYPE-CERTIFICATE DATA SHEET No.EASA.A.151 AIRBUS A350” (PDF). EASA (2020年6月26日). 2020年12月31日閲覧。






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