レーゼドラマ 代表作

レーゼドラマ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/08 17:53 UTC 版)

代表作

レーゼドラマの代表作として、ミュッセの『戯れに恋はすまじ』(1834年)が挙げられよう。『ヴェネツィアの夜』の初演が不評だったミュッセはその後、読まれるための戯曲を志向し、前掲作も収められた戯曲集は『肘掛椅子の中での観物』と名づけられた。ここに収められている戯曲には多すぎる場面転換などの実演上困難な仕掛けがあり、これは文学的な必然性のみからなされたのではなく、かつての不評から観客に不信感を抱いたミュッセがわざと上演の障害をもうけたためだと見る向きもある[3]。しかし、「上演不可能に書かれている」ということは、レーゼドラマの必要条件ではない

他には、ジョン・ミルトンによる『闘士サムソン』(1671年)、ドゥニ・ディドロの『運命論者ジャックとその主人』、太宰治の『新ハムレット』(1941年)、ゲーテの『ファウスト』(1808年 - 1833年、とくに二部)、シラーの『群盗』、フローベールの『聖アントワーヌの誘惑[4]北村透谷の『蓬莱曲』などが、その例にあたる。トーマス・ハーディの『覇王たち』も叙事詩劇などと呼ばれた。

英国ロマン主義とクローゼット・ドラマ

クローゼット・ドラマは、”ロマン主義の時代”と呼ばれる18世紀末から19世紀前半にかけてのイギリスにおいては、特に詩人によって好まれ、数多くの作品が生まれた。「読むための戯曲」はさまざまな時代と地域で書かれてきたが、一つのムーブメントと呼べるほどに多く書かれたのは、英国ロマン主義時代であろう。バイロンパーシー・シェリージョアンナ・ベイリー英語版らがこの時期の「クローゼット・ドラマ」作家の代表的存在とされるが、ベイリーは上演されることを望んでいたともいう。

主な作品

参考書籍

  • 『Closet Stages』 (キャサリン・B・バロウズ・著 ISBN 978-0812233933)・・・・・・"Joanna Baillie and the Theater Theory of British Romantic Women Writers"(ジョアンナ・ベイリーと英国ロマン主義女性作家の演劇理論)なる副題が付いている。後出のトーマス・C・クロチュニスによると、この本でバロウズは、「クローゼット」という語の意味を詳細に検討していくことによって、女性作家の戯曲作法や演劇理論の歴史において、クローゼット・ドラマが実演用戯曲の単なる対概念ではなかったということを示しているそうだ。(外部リンク参照)
  • 『Closet Performances』 (マイケル・シンプソン・著 ISBN 978-0804730952)……"Political Exhibition and Prohibition in the Dramas of Byron and Shelley"なる副題が付いている。バイロンとシェリーのクローゼット・ドラマについての研究書。著者シンプソンは、ゴールドスミス・カレッジで講義している。

レーゼドラマの上演

レーゼドラマとして書かれながら上演された例として、星新一の『にぎやかな部屋』(新潮社・刊)が挙げられる。文庫版の後書きに、小説家を含む人気作家たちに書き下ろしの戯曲を書かせるという出版社の企画(書き下ろし新潮劇場[1])を受けて自らの戯曲への適性に半信半疑のまま筆を執った星が、上演許可の依頼に対して「あれは読み物として書いたのだから、止めたほうがよい」と思いつつも承諾し、初演は酷かったらしいが再演はまずまずの出来と評価した、という旨が記されている。

その他の主な例として、イプセンの『ペール・ギュント』(1867年、初演1876年)、バイロンの『マンフレッド』(初演1824年)、太宰の『新ハムレット』などが挙げられる。

オスカー・ワイルドの『サロメ』(1891年刊)も、レーゼドラマとみなされる場合もある[5]西村孝次による訳書(新潮文庫)の解説でも、「劇の額縁にはめこまれた散文詩」と呼ばれている。戯曲としてはパリで1896年に初演された。しかし後に「内容が冒涜的だ」とされたイギリスでは1931年まで上演禁止令が出されたこともあり、演劇的成功にはなかなか結びつかなかった。その後、1905年ドイツ語訳をもとにしたリヒャルト・シュトラウス作曲のオペラドレスデンで上演され、こちらは成功した(サロメ (オペラ) 参照)。


注釈

  1. ^ なお、ここでいう”読まれる”とは、個人による黙読、小集団での朗読の両方を指す。

出典

  1. ^ 集英社世界文学事典。クローゼット・ドラマの訳語として紹介されている
  2. ^ 当該書「レーゼドラマ」の項目
  3. ^ 岩波文庫版巻末の解題にそのような見解が書かれている。
  4. ^ 芥川龍之介全作品事典』(勉誠出版)。『誘惑-或るシナリオ-』という項目(571頁)、参照のこと。
  5. ^ 三省堂『コンサイス・カタカナ語辞典』第4版
  6. ^ 五木寛之『蓮如 われ深き淵より』中央公論社、1998年4月1日、[要ページ番号]頁。ISBN 4-12-203108-7 
  7. ^ アニメ『MARS RED』オリキャラ声優に高垣彩陽、國立幸、古川慎 | アニメイトタイムズ”. アニメ『MARS RED』オリキャラ声優に高垣彩陽、國立幸、古川慎 | アニメイトタイムズ. 2020年6月2日閲覧。
  8. ^ 藤沢朗読劇&ソニー・ミュージックエンタテインメントによる新感覚・音楽朗読劇「READING HIGH」シリーズが誕生 | Cocotame(ココタメ) – ソニーミュージックグループ”. cocotame.jp. 2020年6月2日閲覧。
  9. ^ 藤沢朗読劇とSMEがタッグ 新感覚の音楽朗読劇シリーズが誕生”. ORICON NEWS. 2020年6月2日閲覧。
  10. ^ ソニー・ミュージックエンタテインメント×藤沢文翁による音楽朗読劇ブランド「READING HIGH」第3弾公演『Chèvre Note~シェーヴルノート~』日本国内と香港、台湾の映画館にてライブ・ビューイング決定! 2019年1月13(日)、千秋楽公演を生中継!|ソニーミュージックグループ コーポレートサイト”. Sony Music Group Corporate Site. 2020年6月2日閲覧。
  11. ^ 藤沢文翁ロングインタビュー 原作・脚本・演出を手掛ける、朗読劇「READING HIGH」新作公演や自身について聞く | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス”. SPICE(スパイス)|エンタメ特化型情報メディア スパイス. 2020年6月2日閲覧。
  12. ^ 藤沢文翁のリモート朗読劇が始動、第1弾に梶裕貴・戸松遥ら出演(ステージナタリー)”. Yahoo!ニュース. 2020年6月2日閲覧。






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