ヘリコプター メインローター

ヘリコプター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/25 17:32 UTC 版)

メインローター

陸上自衛隊のUH-1J(ベル204)のメインローターのローターヘッド下部の写真 
1、下部スワッシュプレート(操縦装置と結合され機体側に固定している側のスワッシュプレート)
2、上部スワッシュプレート(ローター・マストと共に回転している側のスワッシュプレート)
3、コントロールロッド(ローター・マストと共に回転しており、マスト上部にあるピッチリングと結合されている)
4、油圧ダンパー(マスト上部とロッドで結合されている)
メインローターと尾部を折り畳んたMCH-101

メインローターの翼の1枚1枚をブレードと呼ぶ。このブレードは固定翼機での主翼とエレベーターやエルロンの機能を兼ね備えており、進行方向と対気速度、上昇や下降運動中や加減速運動、ブレード自身の回転に対する加減速によって複雑な動きをする。

ブレードはローターヘッド、又はハブと呼ばれる回転軸の取り付け部に取り付けられている。ヘリコプターには全関節型、半関節型、無関節型、ベアリングレス型のローターヘッド形式がある(後述)。

艦載機として設計された機体にはメインローターを折り畳む機構を備えた機種もある。

回転方向

メインローターの回転方向は、上から見て米国製のヘリコプターでは反時計回り、欧州製では時計回りであることが多い(ドイツ製は反時計回り)。このため、ヘリパイロットが機種転換を行なう場合には異なった回転方向の機種では困難が伴う(トルクに変化があった場合、機体のヨーイング方向が逆になるため)。

また、メインローターの回転方向が逆になることで、テールローターの推力方向(風の吹出し方向)も逆になる。

東京消防庁では、操縦席とホイストの位置関係から、救助活動には時計回りのローターが有利との判断から、フランス製の機材を導入している。これは前出のカップリング効果により、ホバリング時にホイストがある右側へ機体が傾くことで、機長席からホイスト降下地点である直下が目視しやすいからである。

ブレード形状と種類

SH-60Kのメインローター先端

ヘリコプターに使用されるメインローター・ブレードの翼型(ブレードを横から見た断面)は、飛行機の主翼とほぼ同じであるが、ヘリコプター用の翼型には次のような特性が要求されている。

  • 揚抗比(揚力と抗力の比)が大きいこと
  • ブレードの対気速度が音速に近付くと空気の圧縮性により、衝撃波が発生して抗力が急増するが、この速度ができるだけ高いこと
  • 失速がしにくく、大きな揚力が発生すること
  • ピッチング・モーメント(翼をねじる力)が小さいこと

ブレードの平面形(ブレードを上から見た形)においては、長方形翼・先端翼・変形翼の3種類があり、製造が容易な長方形翼が主流であるが、抗力や騒音、安定性などに配慮して、翼端の形状を変化させた変形翼が使用される場合がある。また、ブレードの後縁には揚力バランスの調整のためのトリム・タブが取付けられている[19]

木製

前部には重い木材、後部にはバルサ材のような軽い木材が用いられており、これらを積層接着した合板製としている。外表面は防湿と砂塵などによる損傷を防ぐため、ガラス繊維布が貼られており、前縁にはステンレス鋼などの保護金属板を取り付けている。比較的に製作が容易であり、空力的に洗練された表面の翼型を正確に製作できるが、重量が重くなり、湿気の影響を受け易く、互換性のあるブレードを製作するのが困難である短所がある。

ベル47などの初期のヘリコプターに採用されていたが[19]、1960年代には金属製が普及して使われなくなった。

木製ブレードを製造していた会社の多くは撤退したが、カマン・エアロスペースを子会社に持つカマン・コーポレーションの社長は、素材の変更で仕事の無くなった木工関係の技術者の新たな仕事として、自身も演奏するギターを製造するカマン・ミュージックを設立した。

金属

前縁部にアルミニウム合金ステンレス鋼チタン合金を使用したスパーと呼ばれる部分と後縁部にアルミ合金やチタン合金、繊維強化プラスチック(FRP)を使用したスキンと呼ばれる部分で構成されている。後縁部の翼型を保つため、その内部にアルミ合金の小骨やハニカム・コアなどを入れており、前縁部には、砂塵や雨滴による摩耗や腐食を防止するための、エロージョン・キャップと前縁ウエイトが取付けられている。木製ブレードに比べて高温・高湿や直射日光に対して強く、ねじり剛性が大きく、薄い翼断面の翼型が製作でき、互換性のあるブレードを量産するのが容易などの長所があるが、翼型の形状を変えるなどの複雑な形状のブレードを製作しにくく、アルミ合金・鋼を使用する際には腐食対策が必要なこと、運用中で発生する傷による疲労強度の低下が著しいなどの短所がある。

現在では主流である[19]

FRP

前縁部にガラス繊維一方向材(ロービング)製のスパーと呼ばれる部分と後縁部にハニカム・コアや発泡材製の充填材を内部に充填したガラス繊維布製のスキンと呼ばれる部分で構成されており、前縁部には、砂塵や雨滴による摩耗や腐食を防止するための、エロージョン・キャップが取付けられており、内部には前縁ウエイトが内蔵されている。翼型の形状を変えるなどの複雑な形状のブレードを製作し易やすく、柔軟性に富み、衝撃に強く、腐食が発生せず、疲労強度に優れている長所があるが、剛性が低く、製造での機械化が困難なため、製造コストが高くなる短所がある[19]

ガラス繊維以外にも、炭素繊維強化炭素複合材料を一部に使用するブレードもある。また新たな複合素材の利用も研究されている。

ブレードの運動

ヘリコプターのメイン・ローター・ブレードの3つの運動
フラッピング
上下方向の動きであり。ヘリコプターのメインローターが飛行中に回転している場合には、ブレードは揚力と遠心力との合力により、上方向にフラッピングしており、回転するメインローター全体の軌跡が逆円錐形になっている。この事を「コーニング」(コーン状態)と呼ぶ。上に反ったブレードの翼端と逆円錐の底面との角度をコーニング角と呼とよんでおり、機体重量が同じ場合において、メインローターの回転数が小さくなれば、遠心力が減少してコーニング角が大きくなり、メインローターの回転数が同じ場合において、揚力が小さくなれば、コーニング角が小さくなる。全関節型のローターヘッドではコーニング角に応じて上下方向にフラッピングするため、ブレードには曲げモーメントは生じないが、半関節型と無関節型のローターヘッドでは、コーニング角に応じて上下方向にフラッピングできないため、最も多く使用されている飛行状態のコーニング角に応じた角度の分だけ、ブレードを上方に角度を取って取付けており、これをプリコーニングと呼んでいる。また、その他の飛行状態でのコーニング角の変化では、ハブまたはブレードに発生する曲げモーメントによるたわみにより、対応できるようにしている。
ドラッギング
回転方向の動きであり。回転方向に個々のブレードが運動するのをドラッギング、またはリード・ラグ運動と呼び、その角度をドラッグ角と言う。エンジン始動時の起動トルクがメインローターにかかるときには最大で25°ほども、ブレードが遅れて角度が付く。通常飛行時には遅れ方向で10° - 15°程度、地上でエンジン停止時には進み方向で3°ほど、オートローテーション時には±0°となる。
フェザリング
迎角の変化。フェザリングはブレードの迎角の変化である。フラッピングとフェザリングは関係が深く、フェザリングとフラッピングの等価性と呼ばれている。これは、サイクリックピッチ操作を行うことで、ヘリコプターがホバリングから前進飛行を始める場合、回転面は操作したピッチ角だけ傾き、ブレードの前進側では、操作したピッチ角だけ迎角が減少して揚力が減少し、ブレードの後進側では、操作したピッチ角だけ迎角が増加して揚力が増加して、回転位置において揚力が不均衡の状態となる。ブレードはその不均衡を解消するため、操作したピッチ角だけ回転面が傾いた時に、ブレードの前進側ではフラッピングによるブレードの降下運動により迎角が無くなり、ブレードの後進側ではフラッピングによるブレードの上昇運動により迎角が無くなることで、回転位置での揚力が等しくなり不均衡が解消されるように出来ている。

ブレードが前後左右のいずれかの位置で常にフェザリング角が大きくなるようにすれば、そちらの側だけ揚力が増すため、メインローターの回転面が傾いてゆく。反対に前後左右のいずれかの位置で常にフェザリング角が小さくなるようにすれば、そちらの側だけ揚力が減るため、やはりメインローターの回転面が傾いてゆく。こういったことを行なうのが、サイクリック(操縦桿)に接続された、スワッシュプレートである。スワッシュプレートはローターヘッドの下部にあって、メインローター軸と一緒に回転しながらサイクリック(操縦桿)の動きにあわせて、スワッシュプレートを傾かせることでブレードのフェザリング角を常に調整している。スワッシュプレートを傾かせることによってメインローター回転面が傾くことにより飛行方向が決定されるが、実際の回転面の傾きは「ジャイロプリセッション」より、加えた力の位置から回転方向に90°遅れた方向に現れる。これにより、操縦桿を前後に操作することでスワッシュプレートが前後に傾く縦サイクリックピッチでは、ブレードが左右の位置に来た時にブレードのピッチ角(フェザリング角)が増減してメインローター回転面が前後に傾き、操縦桿を左右に操作することでスワッシュプレートが左右に傾く横サイクリックピッチでは、ブレードが前後の位置に来た時にブレードのピッチ角(フェザリング角)が増減してメインローター回転面が左右に傾くようになっている[23]

ローターヘッド

フラッピング・ドラッグキング・フェザリングで使用されるヒンジの装備状況によって分類がされている。ヒンジ部には、ブレードの円滑な動作のための金属ベアリングの装着が一般的であるが、機能維持のため潤滑などの定期的なメンテナンスが必要で、シール部分から潤滑油が漏れる恐れがあり、故障のリスクも伴うほかに、ブレードの大きな荷重が負荷の揺動運動であるため、長寿命ベアリングの設計が難しく、構造が複雑で重量が大きい問題があった。そこで、最近では金属の薄板とゴムの薄層を何層にも重ねた積層形とし、ある程度の角度範囲でのブレードの動作を許して、ブレードの遠心力による圧縮荷重に耐えられるよう、大きな圧縮剛性と強度を持った、エラストメリック・ベアリングが使用されており、整備性や信頼性の向上が図られている[19][23]。また、ヒンジを使わないものは、複合材で作られたハブやブレードのたわみをヒンジの代わりに利用している。

ドラックヒンジには、ドラック・ダンパーまたはリード・ラグ・ダンパーと呼ばれる油圧ダンパーがブレードとマストまたはハブとの間に取付けられており、ブレードのドラッキング運動に対して減衰力を与えているが、構造が複雑で重量が重く調整が厄介であり、振動の原因となることがあるため、構造が簡単で重量が軽く、ゴムのせん断変形による粘弾性を利用した、エラストメリック・ダンパーが使用されており、構造の単純化と軽量化が図られている[19]

ローターヘッド上面には整流のためにフェアリングを装着する機体もある他、軍用ではドライブシャフト内部を通す事でローターヘッド上部にレーダーやカメラなどの電子機器を備えた機体がある。

全関節型ローター(: fully articulated rotor
フラッピングヒンジ、ドラッグヒンジ、フェザリングヒンジによって3軸全ての方向へのブレードの動きを可能にしたローターヘッド。ヘリコプターの登場時から現在に至るまで、3枚以上のブレードを持つローターに広く用いられており、全てのローターヘッドの基本となっているものである[19]
半関節型ローター(: semi-articulated rotor, semi-rigid rotor
フラッピングヒンジ、フェザリングヒンジによってブレードの2軸方向への動きを可能にしたもの。ドラッグヒンジを持たないため、回転面方向での進みや遅れの運動はローターヘッド側ではなく、ブレードのたわみで対応する。全関節型に比べ、単純な構造であり、全関節型より動きが制限されたフラッピングヒンジとなっている。
シーソー型ローター(: see-saw rotor, teetering rotor
2枚ブレードにのみ使われる方式で、両方のブレードがフェザリングヒンジまたはユニバーサルジョイントを介してとマストのローターヘッドと繋がっており、マストとローターヘッドの接続点を支点としてシーソー状態に釣り合っているローター。定義上は半関節型ローターの一種となるが、ブレードと共にローターヘッド自体の角度が変わる点が他の方式と異なる。半関節型ローターの中ではフラッピングヒンジは制限されたものとなっており、飛行中でのフラッピングにより発生するコーニングではブレード根元に大きな曲げ応力が掛かるので、元からハブにコーニング角を持たせる「プリコーニング」により曲げ応力を軽減している他、ブレード根元にダブラーと呼ばれる補強材が層になって貼り付けられている事が多い。また、ロータ回転面を傾かせるシーソーヒンジを2枚のブレードの重心位置を結ぶ線上に位置させる事で(これをアンダースリングと言う)、回転方向の進みや遅れの運動が発生しない作りとなってる。そのためドラッキングヒンジを必要としない。全関節型に比べて機構を単純にできるが、飛行中に機体の荷重が低い状態で(低G)でサイクリックを操作した場合、ローターヘッドが浮き上がりドライブシャフトに過度に接触するマストバンピングを招きやすいため、降下時の運動制限があり、急激な降下時などの下向きに強い加速の伴う運動では、急激な頭下げ動作や起伏の激しい山の稜線に沿って飛ぶ運動が制限されるという大きな欠点もあり、上昇から下降に移る操縦や乱気流などには特に注意を要する[24]。主にベルロビンソンの機体に使われているが、現在のベルは4枚ブレードが主流となっている。
無関節型ローター(: hingeless rotor, rigid rotor
フェザリングヒンジ以外のヒンジを持たないもの。全関節型に比べて構造が大幅に簡単になり、信頼性や整備性が優れているほか、操縦性や安定性が向上しており、曲技飛行の機体にも多く用いられている。初期のものは、フラッピング・ドラッギングの両方を動きを許さない構造であったが、現在のものは、ローターのハブまたはブレードの付け根の部分を、曲げ剛性を小さくしてたわみ易い部分とし、弾性変形することでヒンジの機能を果たすことにより、ブレードのフラッピング・ドラッギングの両方を動きが可能となっているが、半関節型ローターと同じく、飛行中でのフラッピングにより発生するコーニングではブレード根元に大きな曲げ応力が掛かるので、元からハブにコーニング角を持たせる「プリコーニング」により曲げ応力を軽減している他、それ以上のコーニング角の変化は、ブレードの付け根の部分をたわみさせることで対応している。この方式は、ブレードの根元に大きな曲げモーメントがかかるため、1970年代に複合材料による強靭なブレードの製造技術の完成によって初めて実現出来た。欠点として、同じ理由で、ある程度以上大型のヘリコプターには採用困難なこととブレードから機体に伝わる振動が増えがちな点があげられる。2008年時点では、無関節型だけに限らず、全関節型や半関節型でも複合材ブレードは一般的になっている[25]リンクスなどでは、ドラッグヒンジは無くともダンパーのみ備えている[26]
ベアリングレスローター(: bearingless rotor
フラッピング・ドラッグキング・フェザリングの各ヒンジ類を全く持たず、完全な「無関節」となったローターヘッド。ブレードのフラッピング・ドラッギング・フェザリングの3軸の方向の動きは、ハブとブレード翼面の間の付け根付近の「カフ」部分に「ヨーク」と呼ばれる複合材で出来た板バネ機能を持つ部品が柔軟に弾性変形することでヒンジの機能を果たすことにより行われており、軽量化と長寿命化、安全性の向上と抗力減少、構造の単純化が実現出来る。テールローターから実用が始まり、その後にメインローターへの実用が始まっている。

回転方式

通常はエンジンからトランスミッションを介してローターヘッドに繋がるが、下記のような方式も存在する。

チップジェット式
翼端に推進装置を取り付けてローターを回転させることで、反トルクを生じさせないようにするものであるが、騒音が大きい、燃料消費が大きいなどの技術上の問題も抱えておりガスタービンエンジンの一般化によって姿を消した。
ホットサイクル式ローター
チップジェット方式の派生型であり、各種のガスタービンエンジン等からの抽気そのものや、外気と混合してある程度温度を下げた抽気または排気を、耐熱・耐圧チューブなどでローター先端に導き、そこから噴射してローターを回転させる。

ローター数

シングルローター

最も一般的な形式。大型機種や特殊なヘリを除けば、ほとんどがメインローターが1つのシングルローター機である。構造が簡単で部品数が減り、重量も軽くできるなどの利点があるが、トルク相殺用のテールローターが不可欠で、それにも馬力を振り分ける必要がある(前進飛行時に約3 - 4%;ホバリング時に約10%)。テールローターが地上で人員や障害物と接触する危険がある(ヘリコプターの事故は、アメリカ陸軍の統計によると26%がテールローターが原因とされる[要出典])、重心移動の範囲が狭い、大型ヘリコプターではメインローターの寸法が大きくなる、などの不利な点もある。テールローターの安全性の改善にはノーターフェネストロンもある。

ツインローター

ツインローター式
同軸反転式 Ka-50
タンデムローター式 CH-47F
サイドバイサイドローター式 Mi-12
交差双ローター式 K-MAX

2個のローターを持ち、それぞれが逆に回ることにより、ローターのトルクの影響をお互いに打ち消す方式。テールローターに余分な出力を割く必要がなく、事故の原因となり得るテールローターが不要なため安全面でも有利であるが、重量面では不利である。配置により次のようなものがある。

同軸反転ローター式
ローターが同軸上に2つあり、互いに反転して回るもの。ローターの反トルクは互いに打ち消し合うため、横方向に推力を発生するテールローターを必要としないためにホバリング時の反トルクドリフトが発生せず、ホバリング安定に優れる方式である。全長がメインローターの直径のみで決まる事から、全長が小さくなる上、揚力に関係のないテールローターに出力を割く必要がないという利点がある。特に全長が短くてすむ、テールローターが障害物や人員に接触する危険がないという点は、面積が限られる船舶上で運用する際には非常に好都合である。反面、上下2つのメインローターが接触しないようにするためにそれらの間隔を離さねばならず、ローターマストが高くなる(その分、格納庫の天井を高くしなければならない)、ローターハブと操縦装置が複雑になり、重量が増加するという不利な点もある。またヨー軸の制御は一方のローターのピッチ角を大きくし、もう一方のローターのピッチ角を小さくすることで意図的に反トルクの不均衡を発生させ行うが、反トルクが発生しないオートローテーション時にはヨー軸の制御が出来ないという欠点もある。そのため飛行機のように垂直尾翼に方向舵を設ける事で対処している。ロシア(旧ソ連)のカモフ社が得意とするレイアウトであり、前述のような理由から艦載ヘリコプター中心に採用されている。
タンデムローター
ローターが前後に2つ配置されているヘリコプター。縦揺れに対する操縦安定性が高く、前後方向の重心移動範囲も広い利点を持ち、重量物、長尺物の輸送に当たっては特に有利となる。ヘリコプターの重量に対してローターが小さくてすむため、構造的にも有利である。反面、低い前進速度での安定性が低い、ブレード数を増やしづらく騒音低減がし難いなどの不利な点がある。各国・各社で研究・開発されたが、最も成功したのはアメリカのパイアセッキ社で、バートル、ボーイング・ヘリコプターを経て、現在も同形式の代表格かつ、(ライセンス生産を除けば)ほぼ唯一のメーカーとなっている。
サイド・バイ・サイド・ローター
ローターが胴体を挟んで並列に配置されているもの。横揺れに対する操縦安定性が高く、ローターが小さく横方向の車輪間距離を大きく取ることができる(従って、地上安定性が良い)。特に、構造重量を増したり抗力を増すことなしに、固定翼を装備できる利点がある。反面、ローターを支持する張り出しや、伝動軸による構造重量の増加や機械抵抗が増える、ローターと固定翼の気流が干渉して揚力を相殺するなどの不利な点がある。前述のFw 61や、旧ソ連のMi-12などが代表格だが、Mi-12のローターはわずかに交差しているため、後述の交差双ローター式との折衷型とも解釈できる。
交差双ローター式
機体直上の近接した位置に2つのローターを持つが、互いに衝突しないよう同調しており、わずかに外側に傾けて取りつけられている。同調機構から「シンクロプター」とも呼ばれる。自律安定性に優れ、テールローターで無駄になる動力が無い為効率が高く、操縦特性が左右同じで機体を小さくまとめる事ができるが、ローター取り付け部や伝動装置が複雑になり、重量が増加するなどの、不利な点もある。アメリカ合衆国カマン・エアロスペースが採用している。

マルチローター式

ローターが3つ以上あるもので、タンデムローター式とサイドバイサイド式の利点と、全速度域にわたり静的に安定である利点を持つ。 無人のラジコン等には、固定ピッチブレードのローター4つで、それぞれに電動機があり、回転数を独立に制御するような機構が単純な物がある。 動力集中式の搭乗機では、部品数が多くなり、動力を伝達する機構が複雑になる事などから実用性には乏しく、Mi-32などの構想あったが実用機には採用されていない[19]。以降は電動機により伝達機構を廃したタイプの研究開発にシフトしており、2011年にはドイツの企業が16枚の回転翼を持つ有人の電動機を試作[27]、ロシアの企業が1人乗りのクワッドローター[28] を開発している。


注釈

  1. ^ この点を改善したのが、ティルトローター機やティルトウイング機である。
  2. ^ ただし最近では、写真・映像の撮影という用途には、小型無人ヘリコプターよりも、マルチコプタードローン)が用いられることが増えている。
  3. ^ かつては計器飛行に対応する航法装置を搭載した機体が高価なため、自衛隊などでは計器飛行証明を取得するのに固定翼機で訓練を行っていた。アビオニクスの高度化・低価格化により廉価モデルにも計器飛行に対応した航法装置が装備できるようになり、ヘリコプターのみで訓練が完結するようになった。
  4. ^ 21世紀現在、ヘリコプター用のエンジンはターボシャフトエンジンが主力である。固定翼ジェット機のエンジン出力の制御がエンジンの燃料供給量の増減を主とするエンジン回転数制御によって行われているのに対して、新しいジェット・ヘリコプターのエンジン回転数制御は、基本的にパイロットは平常時においてはあまり関与せずにエンジン側の自動制御機構によって出力負荷の変動に対しても一定の回転数を維持するよう制御が行われている。

出典

  1. ^ a b 西原勝『航空少年読本』(1940年)、松浦四郎『飛行機読本』(1941年)、日本航空協会『航空年鑑 昭和30年版』(1955年)、小川利彦・野沢正・渡辺敏久『航空の事典』(1957年)、朝日新聞社『世界の翼 1966年版』(1965年)など。
  2. ^ ナチスの陰謀 - 歴史ミステリー研究会 - Google ブックス
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  11. ^ 片岡, 登志夫「100年前の人力ヘリコプター 発明家 丸岡 桂の「昇空器」」『ミクロスコピア』、ミクロスコピア出版会、2003年夏。 
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  15. ^ 【ニュースな科学】火星でヘリ飛行、地球以外で初 生命の痕跡探査へ前進日本経済新聞』朝刊2021年4月23日29面(2021年5月10日閲覧)
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