カラマツ カラマツの概要

カラマツ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/16 07:44 UTC 版)

カラマツ
カラマツ (赤石山脈北沢峠
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
: 裸子植物門 Pinophyta
: マツ綱 Pinopsida
: マツ目 Pinales
: マツ科 Pinaceae
: カラマツ属 Larix
: カラマツ L. kaempferi
学名
Larix kaempferi (Lamb.) Carrière (1856)[2]
シノニム
和名
カラマツ(唐松・落葉松)、
フジマツ[2]、ラクヨウショウ[2][4]
英名
Japanese Larch
品種
  • f. pendula (Sugim.) Yonek. シダレカラマツ[5]
  • f. rubescens (Inokuma) T.Shimizu アカミカラマツ[6]

分布

日本特産種で本州宮城県の蔵王山(北限)から石川県岐阜県の白山(西限)、静岡県(南限)にかけて自然分布する[10][7][8]。日本のほぼ中央部に分布の中心を持ち、多くは火山性土壌の山地に生える[11][12]。もともと北海道にはなかったが、現在北海道で見られる大面積のカラマツ林は、すべて人為的に植えられたもので、1960年ごろには毎年3万ヘクタール (ha) もの造林が行われた[8]

天然分布地は限られ、天然林は長野県内を中心に浅間山草津白根山八ヶ岳甲武信ヶ岳などの各山々の周辺、また飛騨山脈木曽山脈赤石山脈などの日本アルプス周辺などで見つかっている。長野県から離れたところでは栃木県の奥日光周辺、富士山周辺でも確認されている。また、遠く離れた宮城県山形県境の蔵王の馬ノ神岳でもごく少数の集団が見つかっている。このような分布を示すのは元々ユーラシア大陸東部に分布していたカラマツ属が氷河期の海面低下時に日本列島に分布を広げたが、温暖化と共に分布を狭め山岳地帯に取り残されたという高山植物のような説が取られることが多い。遺伝子は長野県などの主要産地のものが多様性が高く、隔離分布する蔵王のものは多様性が低い[13]ほか、産地間による形質の差も見られるという[14][15][16][17]。特に蔵王の個体群については、葉の色がやや濃色であることや球果の種鱗数が少ないといった形態的特徴から東北地方から北海道からシベリアにかけて分布する同属のグイマツ(Larix gmelinii)に近いのではとする意見もあった。東北地方でもグイマツの化石はしばしば見つかることから遺存種かと注目されたが[18]、遺伝子解析の結果では否定されカラマツの変種レベルの差異に留まるという[13]

形態 

落葉針葉樹高木[10]。樹高は20 - 30メートル (m) [7]、胸高直径1 m程度に達する[19]。樹形は環境によって左右されるが、一般にクリスマスツリー状からやや細長い円錐形で、整った樹冠を形成する[19]。標高が高い場所になると、しばしば矮小な木がねじ曲がった樹形となり、風の強い海岸地では風衝形を呈したものが見られる[11]。枝は輪生し、同じ高さから四方八方に伸ばす。樹皮は暗褐色で赤みを帯びることがあり[10]、うろこ状に薄く裂けて剥がれる[12]

枝は同じマツ科のマツ属Pinus)及びヒマラヤスギ属Cedrus)などと同じく、長枝と短枝の2種類を持つ(枝の二形性などという)[12]。長枝は一般に枝として認識されているものであり、短枝は葉の付け根にある数ミリメートル (mm) のごく短い枝である。

は針状で長さ20 - 40 mm、長枝から分岐した短枝の先端に多数(20枚 - 40枚程度)が束生するのを基本とし[7]、若い長枝に限り直接葉を単生する[8]。この点が若い枝でも短枝にしか葉を付けないマツ属と異なっている。葉の付き方は同じマツ科のモミ属ヒノキ科のスギなどと比べて粗雑な印象を受ける個体が多い。葉は針状で、長さは20 - 40 mm。春の芽吹きや、秋の黄葉が美しいと評されている[7]。秋が深まるにつれて、葉は黄色からくすんだ黄土色へと濃くなり、紅葉が進んだ葉は脱落しやすくなる[9]

花期は5月[8]雌雄同株で同じ株の中に、雄花雌花の2種類の花を付ける[7]。新葉が展開するとともに、雌花は薄紅色で上向きに、雄花は黄色で下向きに咲く[12]風媒花で、雄花の花粉は風にのって飛散されて、雌花が受粉すると数か月で熟す。

果期は9 - 10月[8]果実球果で長さ20 - 35 mm、マツ属のものとよく似ており、多数の鱗片状の構造から成る[7]。マツ属の球果の鱗片には肥大部分(英:umbo)があり突起状に発達するのに対し、カラマツを含むカラマツ属の球果は発達せずに平滑である。種子は翼を持つ。球果は種子を飛ばした後も枝に残り、よく枝ごと落ちている[12]。落葉後は、樹下一面に細い葉が降り積もる[9]

冬の間は落葉した姿となり、雄花と雌花の冬芽はともに短枝につき、半球形で薄い芽鱗に包まれている[12]。短枝には多数の葉が束生することから、短枝の冬芽は多数の菱形の葉痕に囲まれていて、冬越しに応じた数の葉痕が段になって重なる[12]。冬の長枝の先端部の表面にある縦筋は葉枕で、その先には葉痕がある[12]。葉痕には維管束痕が1個つく[12]


注釈

  1. ^ トドマツAbies sachalinensis)とエゾマツPicea jezoensis)という和名を持つ樹木もあるが、それぞれモミ属Abies)とトウヒ属Picea)に属しマツでもカラマツでもない。

出典

  1. ^ a b c d Katsuki, T. & Luscombe, D (2013). Larix kaempferi. The IUCN Red List of Threatened Species 2013: e.T42312A2971556. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2013-1.RLTS.T42312A2971556.en. Downloaded on 21 October 2018.
  2. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Larix kaempferi (Lamb.) Carrière カラマツ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Larix leptolepis (Siebold et Zucc.) Gordon カラマツ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  4. ^ a b 佐竹義輔原寛、亘理俊次、冨成忠夫『フィールド版 日本の野生植物 木本』(1993年、平凡社)p.3-4
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Larix kaempferi (Lamb.) Carrière f. pendula (Sugim.) Yonek.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年2月5日閲覧。
  6. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Larix kaempferi (Lamb.) Carrière f. rubescens (Inokuma) T.Shimizu”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年2月5日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 57.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m 田中潔 2011, p. 112.
  9. ^ a b c 林将之 2008, p. 15.
  10. ^ a b c d e 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 279.
  11. ^ a b c 辻井達一 1995, p. 36.
  12. ^ a b c d e f g h i j 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 252.
  13. ^ a b 白石進・磯田圭哉・渡辺敦史・河崎久男, (1996) 蔵王山系馬ノ神岳に生存するカラマツのDNA分類学的解析. 日本林学会誌 78(2), pp175-182. doi:10.11519/jjfs1953.78.2_175
  14. ^ 永光輝義・戸丸信弘, (2015)特集「カラマツの遺伝育種学の進展と育種の展望」 カラマツ天然林の遺伝的変異. 森林遺伝育種4(4), pp148-152. doi:10.32135/fgtb.4.4_148
  15. ^ 長坂壽俊・吉村研介・明石孝輝・荒井国幸・山本千秋, (2011) カラマツ産地試験の長野県内試験地における産地の特性評価と地域区分. 日本林学会誌93(4), pp179-186. doi:10.4005/jjfs.93.179
  16. ^ 岡田滋・森俊人・酒井昭・倉橋昭夫, (1970) 20産地からのニホンカラマツの冬の耐凍性の差. 日本林学会誌52(12), pp377-379. doi:10.11519/jjfs1953.52.12_377
  17. ^ 三上進・長坂寿俊. (1974) カラマツの繊維傾斜度とタネの産地. 日本林学会誌56(6), pp 228-230. doi:10.11519/jjfs1953.56.6_228
  18. ^ 矢野牧夫, (1994) 、日本列島北限「カラマツ」球果の変異とその古植物学的意味. 第4紀研究33(2), pp95-105.doi:10.4116/jaqua.33.95
  19. ^ a b c 辻井達一 1995, p. 34.
  20. ^ a b c d 岡本省吾『樹木』保育社〈エコロン自然シリーズ〉、6頁。ISBN 4-586-32112-1
  21. ^ 辻井達一 1995, pp. 34–36.
  22. ^ 斎藤全生, (1980) 富士山の森林限界付近の植生. 芝草研究9(1), pp5-12. doi:10.11275/turfgrass1972.9.5
  23. ^ 岡秀一・大賀宣彦・菅野洋光, (1992)富士山北西斜面七太郎尾根におけるカラマツ低木林の成立と斜面形成. 第四紀研究31(4), pp213-220. doi:10.4116/jaqua.31.213
  24. ^ 南佳典・渡邊功, (2007)富士山亜高山帯雪崩撹乱跡地におけるイタドリの分布様式とカラマツ実生の定着に対するナースプラントとしての機能. 日本林学会誌89(3), pp183-189. doi:10.4005/jjfs.89.183
  25. ^ 田中厚志・斉藤良充・山村靖夫・中野隆志,(2004)富士山亜高山帯林の発達過程. 日本生態学会大会講演要旨集51. doi:10.14848/esj.ESJ51.0.442.0
  26. ^ 前田禎三・浅沼晟吾・ 谷本丈夫 (1978) 浅間山のカラマツ天然林の植生と遷移. 森林立地19(2), pp1-9. doi:10.18922/jjfe.19.2_1
  27. ^ 尾方隆幸 (2003) 奥日光戦場ヶ原の扇状地扇端付近における湿原の縮小と地表面プロセス. 地理学評論76(14), pp1025-1039. doi:10.4157/grj.76.14_1025
  28. ^ 谷口武士 (2011) 菌根菌との相互作用が作り出す森林の種多様性(<特集>菌類・植食者との相互作用が作り出す森林の種多様性). 日本生態学会誌61(3), p311-318. doi:10.18960/seitai.61.3_311
  29. ^ 深澤遊・九石太樹・清和研二 (2013) 境界の地下はどうなっているのか : 菌根菌群集と実生更新との関係(<特集>森林の"境目"の生態的プロセスを探る). 日本生態学会誌63(2), p239-249. doi:10.18960/seitai.63.2_239
  30. ^ 岡部宏秋,(1994) 外生菌根菌の生活様式(共生土壌菌類と植物の生育). 土と微生物24, p15-24.doi:10.18946/jssm.44.0_15
  31. ^ 菊地淳一 (1999) 森林生態系における外生菌根の生態と応用 (<特集>生態系における菌根共生). 日本生態学会誌49(2), p133-138. doi:10.18960/seitai.49.2_133
  32. ^ 宝月岱造 (2010)外生菌根菌ネットワークの構造と機能(特別講演). 土と微生物64(2), p57-63. doi:10.18946/jssm.64.2_57
  33. ^ 東樹宏和. (2015) 土壌真菌群集と植物のネットワーク解析 : 土壌管理への展望. 土と微生物69(1), p7-9. doi:10.18946/jssm.69.1_7
  34. ^ 杉本真由美・川崎圭造, (2005) カラマツ人工林化にともなう土壌化学性の変化 : 隣接する広葉樹林土壌との比較, 森林立地47(1), pp29-37. doi:10.18922/jjfe.47.1_29
  35. ^ a b c d e f g 辻井達一 1995, p. 37.
  36. ^ 小島康夫 (1995) 森林におけるアレロパシー(I) : 林業ならびに生態系におけるアレロパシーの役割(会員研究発表論文). 日本林学会北海道支部論文集43, p1-3. doi:10.24494/jfshb.43.0_1
  37. ^ 稲冨素子・牛久保明邦・小泉博・岩城英夫 (2004)降雨によるカラマツからのフェノール物質の溶出量とその季節変化. 環境科学会誌17(4), p275-285. doi:10.11353/sesj1988.17.275
  38. ^ 酒井昭・斉藤満, (1974) ヤクーツク地方のダフリアカラマツ. 日本林学会誌56(7), pp.247-252. doi:10.11519/jjfs1953.56.7_247
  39. ^ a b 菊地健・江州克弘・八坂通泰・山田健四, (1993) カラマツ類の過湿土壌に対する耐性(会員研究発表論文). 日本林学会北海道支部論文集41, pp108-110. doi:10.24494/jfshb.41.0_108
  40. ^ D'Cruz, Mark. “Ma-Ke Bonsai Care Guide for Larix kaempferi”. Ma-Ke Bonsai. 2011年4月18日閲覧。
  41. ^ a b c カラマツ”. 森林林業学習館. 2011年9月8日閲覧。
  42. ^ a b 月刊メディアあさひかわ』2017年5月号 pp.124 - 125
  43. ^ カラマツ 建材需要急増 加工技術で欠点克服”. 毎日新聞 (2019年11月14日). 2019年11月14日閲覧。
  44. ^ 北海道山林史-p553(北海道山林史編集者会議)
  45. ^ 北海道山林史戦後編-カラマツ問題p592(北海道山林史編集者会議)
  46. ^ a b 岡田利夫 『戦中戦後20年 北海道木材・林業の変遷』 152頁 北海道林材新聞刊
  47. ^ a b 辻井達一 1995, p. 38.
  48. ^ 織田春紀 (1986) カラマツ類の繊維傾斜度の種間変異について(会員研究発表講演). 日本林学会北海道支部論文集34, p136-138. doi:10.24494/jfshb.34.0_136
  49. ^ 黒丸亮 (2015) カラマツ林業と今後の育種の展望. 森林遺伝育種4(4), pp167-172. doi:10.32135/fgtb.4.4_167
  50. ^ 村田政穂、山田利博、松田陽介、伊藤進一郎 (2011) 「Raffaelea quercivoraを接種したブナ科樹木4種の菌糸分布と防御反応の比較」東京大学農学部演習林報告. 125 11-21
  51. ^ 哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物I及び植物IIのレッドリストの見直しについて”. 環境省 (2007年8月3日). 2011年9月20日閲覧。
  52. ^ 日本のレッドデータ検索システム(カラマツ)”. エンビジョン環境保全事務局. 2011年9月8日閲覧。


「カラマツ」の続きの解説一覧




カラマツと同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「カラマツ」の関連用語

1
100% |||||


3
90% |||||

4
90% |||||



7
90% |||||

8
90% |||||

9
90% |||||

10
90% |||||

カラマツのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



カラマツのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのカラマツ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS