ソフト・パワーとは? わかりやすく解説

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ソフト‐パワー【soft power】


ソフト・パワー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/02 14:50 UTC 版)

ソフト・パワー: soft power)とは、相手国を軍事力で脅したり、買収したり、プロパガンダで騙すのでもなく[1][2]、自国の価値観文化で魅了・味方につける力[3]。自国の魅力を通じて、他国に与えられる影響力[2]

概要

ソフト・パワーという概念を提唱したのは、クリントン政権下において国家安全保障会議議長、国防次官補を歴任したアメリカハーバード大学大学院ケネディ・スクール教授のジョセフ・ナイである。1980年代のアメリカ衰退論に異議を唱えた著書 Bound to Lead(邦題『不滅の大国アメリカ』)で最初に提示され、Soft Power: The Means to Success in Wold Politics(邦題『ソフト・パワー』)において精緻化されたものである。

ある国の有する文化や政治的価値観などの魅力などで、他国民から信頼や支持や理解、共感を得ることで国家の対外的発言力を獲得し、自国の外交に有利に働く力[4]。対義語のハード・パワーとは、ある国家の「軍事力や経済力で(他国や他国民を)無理やり従わせる」力のこと[3]。ソフト・パワーがより強い国に人々は惹かれ、ベルリンの壁崩壊は砲撃(ハード・パワー)ではなく、居住国よりも西側諸国のソフト・パワーに惹かれた東ドイツの人々によって起きている[2]

日本国のソフト・パワーの源泉としては「サムライハラキリフジヤマゲイシャニンジャキモノ」などに代表される日本食などの伝統文化がかねてからあるが[5][1][3]、20世紀後半以降確立したアニメ・漫画など2次元コンテンツの存在感の大きさが指摘される。それも海外で子供向けとみなされる分野だったり、海賊版で広まるような下からのものだった[6]。一方、政府がそれに便乗したクールジャパン政策は混迷を極めた[7]

中国はハードパワー傾倒という点で対照的とされる。パンダのほか[8]北京オリンピック頃にソフトパワー重視の動きもあったが、表現の自由がなく[9]中国共産党管理下のために海外人気がないため、軍事力や経済力由来のハード・パワー頼りでソフト・パワーが弱い[10][2]。逆に日本はソフト・パワーも強い国であり、反日感情が強い韓国内でさえも日本旅行の増加だけでなく、日本のゲーム・映画に対するコンテンツ人気で日本語学習者も増えている。英誌『エコノミスト』は、過去に中国の経済的台頭期に在任していたオバマ政権(2009年1月20日 – 2017年1月20日)において「米国人学生100万人が中国語を学ばなければならない」と言われたほどだった中国語学習需要はソフト・パワーと共に低下したと報じた。韓国でも2020年を境に日本語選択者が中国語選択者を上回り、2024年時点で約2倍差となっている。中国を最大の貿易国とするオーストラリアニュージーランドでも2024年時点で中国語専攻者が7~8年前比較で半減、インド政府は中国語を奨励外国語から除外している[10]。また、中国は一帯一路だけでなく、途上国へ新型コロナウイルスの自国産ワクチン供与によるソフト・パワーを増進しようとしたが、高圧的外交姿勢であるために評価されなかった[2]

脚注

  1. ^ a b 論点:戦争と平和 日本のソフトパワー戦略”. 毎日新聞. 2024年4月6日閲覧。
  2. ^ a b c d e 【寄稿】「力ずくの時代」にソフトパワーはなお有効か 国際政治学者 ジョセフ・ナイ”. 読売新聞オンライン (2022年7月29日). 2024年4月6日閲覧。
  3. ^ a b c https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/listen/interview2/intv_01.html 外務省
  4. ^ https://kotobank.jp/word/%E3%82%BD%E3%83%95%E3%83%88%E3%83%91%E3%83%AF%E3%83%BC-555175
  5. ^ 日本の食文化は間違いなくソフトパワー、もっと戦略的な強みに 佐賀のルール破り和牛持ち出しは非常識、食材・食品輸出には課題山積|牧野義司|賢者の選択”. 賢者の選択. 2024年4月6日閲覧。
  6. ^ 水野勝康「日本のソフト・パワーとしてのサブカルチャー」”. www.gfj.jp. 2024年4月6日閲覧。(e-論壇「議論百出」)
  7. ^ クールジャパン機構失敗の考察......日本のアニメも漫画も、何も知らない「官」の傲慢|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
  8. ^ 中国ソフトパワーの罠 パンダに450億円を費やした国々”. 日本経済新聞 (2023年11月23日). 2024年4月6日閲覧。
  9. ^ ソフトパワーの認識が異なる中国とロシア−−ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授 | オリジナル | 東洋経済オンライン
  10. ^ a b 朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 (2024年4月6日). “「シエシエと言っておけばよい」? 韓国で中国語学習者が大幅減、日本語人気復活”. www.chosunonline.com. 2024年4月6日閲覧。

参考文献

  • ジョセフ・S・ナイ『ソフトパワー:21世紀国際政治を制する見えざる力』山岡洋一訳、日本経済新聞社、2004年。ISBN 978-4532164751

関連項目


ソフトパワー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 04:49 UTC 版)

外交」の記事における「ソフトパワー」の解説

軍事力経済力以外にも、音楽文学・映画などをはじめとする大衆文化やその国の政策政治的価値観などに他国からの共感好意を得ることで自国イメージを向上させ、外交有利に進めることも重視されつつある。これは軍事経済力のようなハードパワー対比して、ソフトパワーと総称されるこうしたソフトパワーを得るために、他国市民対し自国広報を行うことをパブリック・ディプロマシー呼び重要な外交一手となっている。

※この「ソフトパワー」の解説は、「外交」の解説の一部です。
「ソフトパワー」を含む「外交」の記事については、「外交」の概要を参照ください。

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