V型8気筒の黎明期
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/06 01:08 UTC 版)
19世紀末期に始まる自動車用ガソリンエンジン発達の初期過程では、高速化と大排気量化を両立させる目的から、当初の単気筒から2気筒、4気筒と気筒数が増加し、1900年代初頭には直列6気筒までが出現した。 しかしこの頃から長すぎるクランクシャフトが、生産時の加工精度と搭載スペースの確保、高速回転時の振動などに制約を及ぼすことは認識されていた。1900年代の初期6気筒エンジンには、クランクシャフト剛性の低さや加工精度の悪さによって、所期の性能を得られないものも多かった。従ってこれ以上の多気筒化はしばらく停滞した。 クランクシャフトを短縮できるV型配置として8気筒エンジンを実現する発想は、既に1905年にロールス・ロイスが試作車レガリミットで試みている。レガリミットはロンドン市内のタクシー用に開発されたもので、変速頻度を極力少なく済ませるため低回転で高トルクを発揮する特性を持たせ、なおかつコンパクトに作られたV型8気筒エンジンを車体床下に押し込んだアンダーフロアレイアウトを採用した。しかしこの奇異な設計の試作車は、市場調査の結果需要が見込めないと判断され、生産に移されなかった。 市販乗用車でV型8気筒を採用した最初は、フランスのド・ディオン・ブートンで、1909年のことであった。ところが、そのエンジンは加工精度や吸排気系統の設計に難のある不出来なエンジンで、6リットルの排気量がありながら、当時としてもさして高出力とは言えない50hpを発生するに過ぎなかった。V型8気筒は、直列4気筒2セットで1本のクランクを共用するレイアウトであり、両バンク相互間のバランスやフリクション抑制の見地からも、ブロックの加工精度では直列6気筒エンジンをも上回る水準を要求されるのである。
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