安全工学とは? わかりやすく解説

安全工学

(Safety Engineering から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/03/07 14:01 UTC 版)

安全工学(あんぜんこうがく、英語:safety engineering)とは、工業医学、社会生活等において、システム教育工具機械装置類等による事故災害を起こりにくいようにする、安全性を追求・改善する工学の一分野である。

歴史

イギリスの産業革命石炭によってもたらされたことはよく知られているが、石炭を採掘するのは20世紀の後半まで危険な作業であった。かつてのイギリスでも露天掘りではなく坑道による石炭採掘であったため、落盤酸素欠乏などの事故に常に悩まされていた。このため、石炭採掘に関わる鉱夫(こうふ)は酸素欠乏や有毒ガスに敏感に反応する鳥(カナリアなど)を籠に入れて坑道内に連れて行き、カナリアが気絶または死亡することによって危険を事前に察知し、その場を離れて被害を免れた。

20世紀の後半になると、装置や機械器具は大型かつ生活に密着したものとなり、原子力発電所飛行機等の事故など、1つのヒューマンエラーで多くの人命が一度に失われるような大規模な事故や、大災害となりうる事故(いわゆる「重大インシデント」)が発生するようになった。特にアメリカにおける航空機事故の調査から安全工学が発展した結果、ヒューマンエラーなどの個人的な資質の問題点よりも、安全教育や装置やシステム、操作方法などの見地からヒューマンエラーを回避するための調査・改善に重点が置かれるようになった(詳しい内容については航空事故#事故調査を参照)。フールプルーフフェイルセーフなどのように、人的エラーを起こしえないよう設計されるようにもなった。(現実には安全装置を解除しフェイルセーフが無効となり事故が起こるようにもなっている。)

また、20世紀の後半は人道的見地からの安全工学の発展もあった。それは職業職種に対する従事者の制限である。まず、先進国ではほとんどの国が健全な青少年の育成等に鑑み、義務教育期間は就労不可とするようになった。事故災害について判断の付かない若年者に危険な作業をさせないことは労働災害の減少につながるだけでなく、健全な社会環境の整備にもなる。また、妊産婦に対しても、一定期間中は危険作業に従事することを禁止している国も少なくない。

日本では、高度経済成長期工業技術院長を務めた工学博士黒川真武が、技術革新が進む一方で深刻化していた産業災害(特に化学事故)に対し、専門的な知見から警鐘を鳴らした。

  1. 技術革新とオートメーション化により、単純な死傷件数は減少傾向にあるものの、一度事故が起きると大規模化・複雑化している。
  2. 物理的から化学的へ、従来の機械的な事故だけでなく、目に見えない化学的反応による爆発や火災が増加している。
  3. それにより、連続操業化により、一部の事故が全工程の停止や莫大な損失を招く構造になり、経済的損失の増大している。

〇事故原因の3分類

  1. 新技術に伴う未知の現象: 開発を急ぐあまり、安全性の研究が後回しにされている。
  2. 異常操作: 工場の増設や改造など、日常とは異なる操作時に発生する。
  3. 不注意・規則無視: 教育の徹底と安全意識の欠如。

〇「生産技術」と「防災技術」の乖離

  1. 生産技術は目覚ましく発展しているが、それを守るための防災技術の研究が「縁の下の力持ち」扱いされ、著しく遅れている。
  2. 国産技術の開発においては、生産と防災を「平行して」確立すべき。
  3. 防災は化学、機械、電気などが融合した「境界技術(総合技術)」であり、専門家がバラバラに研究しても解決しない。

〇 下請業者への教育と責任

  1. オートメーション化が進まない修理や保守などの危険な作業現場に下請業者が多く入るようになり、犠牲者の多くが下請業者で占められている現状である。
  2. 下請業者への教育、安全工学の体系化が今後の大きな課題。

化学、機械、電気、物理などが交差する「境界領域(総合技術)」こそが防災の本質であると説き、安全を「個人の注意」に頼るのではなく、「安全工学(Safety Engineering)」という独立した学問体系として大学などに設置すべきだと提言した[1]。これにより、精神論としての「安全」から、データと工学に基づいた「事故を防ぐための設計・管理」へとパラダイムシフトが起こり、大学や研究機関に安全工学の講座が設置された。黒川は高圧ガス保安協会の初代会長として、法律(高圧ガス取締法)の改正とともに、民間企業が「自主保安」を行うための技術基準を作り上げ、企業自らが技術的にリスクを評価し、保安体制を組む日本独自の自主保安体制のモデルケースとした。

特に、近年では事故や災害を発生させることが企業にとって多大なる損失をもたらすだけではなく、労働者、さらには消費者に対して安全を図ることは、三者が同じ利害を有していることが認識されており、社会的な課題である。日本では、学会の学会である日本学術会議が主催して、各学会の協力のもと、毎年7月に安全工学シンポジウムを開催しており、更なる発展が望まれている。

有名な事故

関連項目

事故
関係のある学問
  • 信頼性工学
  • 安全学(こちらは工学的な面だけにとどまらず、社会的・人間的な面まで含めて、きわめて広く、総合的に扱う)
  • 失敗学

外部リンク

  1. ^ 『産業災害特に化学工業災害の現状と問題点』




安全工学と同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳

英語⇒日本語日本語⇒英語

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「安全工学」の関連用語

安全工学のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



安全工学のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの安全工学 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2026 GRAS Group, Inc.RSS