QCDとクォーコニウム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/19 09:40 UTC 版)
「クォーコニウム」の記事における「QCDとクォーコニウム」の解説
コンピュータによる中間子の性質の量子色力学 (QCD) 計算は完全に非摂動的である。その結果、一般的な手法では格子QCD (LQCD) を使った直接計算のみが利用可能である。しかしながら、他の手法も重いクォーコニウムについては同様に効果的である。 中間子内の軽いクォークは、束縛状態の質量はクォークの質量よりもかなり重いため、相対論的速度で運動する。しかしながら、クォーコニウム内のチャームおよびボトムクォークは十分に小さいので、それらの状態に対する相対論的効果の影響は中間子における場合に比べてかなり小さい。その速度vは、チャーモニウムの場合は光速のおおよそ0.3倍でボトモニウムの場合は光速のおおよそ0.1倍であると見積もられている。このとき、v/cおよびv2/c2の累乗部分を展開することによって近似的に計算することができる。この手法は非相対論的QCD (NRQCD) と呼ばれる。 NRQCDも格子ゲージ理論として量子化されている。格子ゲージ理論はLQCDを計算する際に用いられる方法の一つである。ボトモニウムの質量についてはかなり合意できる結果が発見されてきており、これはLQCDを非摂動的に検証する最良の材料の一つである。チャーモニウムの質量についての計算結果はボトモニウムのように合意が取れていないが、LQCDコミュニティはかれらの計算手法の改善活動を活発に行っている。クォーコニウム状態および状態間の遷移率の幅のような性質の計算についても、計算手法の改善活動がなされている。 有効ポテンシャルのモデルをクォーコニウム状態の質量を計算するために使用する方法は、初歩的だが効果的である。この手法では、クォーコニウム状態を包含するクォークの運動は非相対論的であるという事実を、クォークが静的ポテンシャル中を運動すると仮定するために使用する。これは水素原子の非相対論的モデルにおける仮定とかなり近い。最も有名なポテンシャルモデルの一つは、次のコーネルポテンシャル (Cornell potential) である。 V ( r ) = a r + b r {\displaystyle V(r)={\frac {a}{r}}+br} ここで、 r {\displaystyle r} はクォーコニウム状態の有効半径で a {\displaystyle a} および b {\displaystyle b} はパラメータである。このポテンシャルは二つの部分を持つ。最初の部分 a / r {\displaystyle a/r} は、クォークとその反クォーク間で一つのグルーオンが交換されることによって誘導されるポテンシャルと一致する。この 1 / r {\displaystyle 1/r} の形は電磁気力によって誘導された良く知られるクーロン的ポテンシャルと同一であり、これはポテンシャルのクーロン的部分として知られる。二番目の部分 b r {\displaystyle br} は、ポテンシャルの限定 (confinement) 部分として知られる。これは、まだよく理解されていないQCDの非摂動的効果をパラメータ化する。一般的に、このモデルが使われたとき、クォークの波動関数は便宜的な形を取り、 a {\displaystyle a} および b {\displaystyle b} はよく計測されたクォーコニウムの質量の計算結果とフィッティングすることによって決定される。相対論的およびその他の効果は、ポテンシャルに対する追加の項を付加することによってこのモデルに組み込まれる。これは、非相対論的量子力学で水素原子について行う方法とかなり近い。この方法は理論的には良い動機を持たないが、計算コストのかかる格子計算なしにクォーコニウムパラメータの正確な予測を可能にし、QCDによって生成されるクォーク/反クォークの力を理解するのに有用な短距離クーロン的効果と長距離限定効果の分離を可能にするため、有名である。 クォーコニウムはクォークグルーオンプラズマの形成を診断する手段としても示唆されてきた。プラズマ中の重いクォークの生成に依存して、クォーコニウム形成の消滅および増強が起こりうる。
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