LLコンドライトであったイトカワ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 06:08 UTC 版)
「イトカワ (小惑星)」の記事における「LLコンドライトであったイトカワ」の解説
2011年4月初旬までに、公募によって選ばれた8つの初期分析チームにイトカワ微粒子の分配が行われ、各グループによって初期分析が進められた。まず大阪大学のグループが、SPring-8を用いたX線マイクロCTにより、イトカワ微粒子40個の3次元構造について非破壊調査を行い、さらにはCT撮影によって微粒子の3次元内部構造を直接調査した。その結果、40個全ての微粒子がLLコンドライトと類似していることが判明した。また東北大学らのグループが行った、イトカワ微粒子38個についての放射光X線回折分析、高解像度電子顕微鏡分析でも、微粒子はかんらん石が最も多く、その他カルシウムに富む輝石、斜長石、トロイリ鉱、テーナイト、クロマイトなどによって構成されていることが示された。これは地球上の岩石では全く見られることがない普通コンドライト特有の組成であり、中でもかんらん石が最も多く含まれていることから、LLコンドライト隕石に最も近いことが明らかとなった。北海道大学のグループが行った、イトカワ微粒子28個の酸素同位体についての分析結果からも、16Oの比率が地球物質よりも低い普通コンドライトの分布と一致した。そして首都大学東京らのグループがイトカワ微粒子について行った中性子放射化分析法による元素組成分析でも、イトカワ微粒子がコンドライト隕石の元素組成と一致することが示された。イトカワ微粒子の各分析結果は、はやぶさによるイトカワについての観測結果とも一致することからも、イトカワ表面の物質はLLコンドライトであることが明らかとなった。 大阪大学の分析によれば、イトカワからもたらされた粒子の密度は3.4g/cm3と考えられた。また大阪大学と東北大学の分析では、イトカワの微粒子は熱による変成を受けたLL5ないしLL6に近いものが多いが、一部の粒子は熱変成をあまり受けていないLL4に近いものも見られ、イトカワには熱変成の状態が異なる岩石が混ざった角礫岩が存在した可能性が指摘された。また北海道大学の酸素同位体比の分析からは、イトカワ微粒子は酸素同位体比が地球物質よりも広い範囲に分布していることから、地球よりも熱変成作用が弱かったことが明らかとなった。イトカワのような小天体では熱変成が起こることは考えられず、東北大学のグループは直径20キロ程度の天体で、中心部分が約800度になる熱変成を受け、その後ゆっくりと冷えていったと推定し、北海道大学のグループは約650度の熱変成を受けたものと推定している。これらのことからイトカワの母天体が大きな衝突によって破壊され、母天体の中心付近の熱変成を受けたLL5やLL6と、表面付近の熱変成が弱いLL4が再集積して、現在のイトカワが形成されたことが想定される。 また熱変成の度合いが地球物質よりも少ないために酸素同位体比に幅が見られることや、熱変成が弱いLL4に相当する物質が見られることから、イトカワの母天体上で熱変成を受ける以前の情報も微粒子内に残っているものと考えられ、イトカワの母天体のような直径20キロ程度の小天体がどのように形成されていったのかについてなど、イトカワ微粒子の分析を進めることによって、太陽系形成時の出来事について更なる情報が入手出来ることが期待される。
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