高性能化・高純度化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 06:06 UTC 版)
「フェライト系ステンレス鋼」の記事における「高性能化・高純度化」の解説
1930年代ごろのフェライト系ステンレス鋼の欠点として、常温付近で延性-脆性遷移温度があり、衝撃脆性破壊の危険があった。これがフェライト系の製造と使用における障害となっていた。これに対して、1948年にフランスの研究者によって、そして1950年にアメリカの研究者によって、炭素含有量 0.01 % 未満、窒素含有量 0.005 % 未満といったような極小量まで低減すると常温域でも優れた衝撃強さを持つようになることが報告された。このような極低炭素・極低窒素のフェライト系ステンレス鋼を「高純度フェライト系ステンレス鋼」と現在では呼ぶ。しかし当時の技術では、このような極低炭素・極低窒素の鋼種を実験規模で製作することはできても、工業規模での生産はまだ不可能だった。 1960年代後半以降になると、電子ビーム溶解法(Electron Beam Melting)、真空誘導炉(Vacuum Iduction Furnace)、真空アーク再溶解法(英語版)(Vacuum Arc Remelting)などによって高純度フェライト系ステンレス鋼の製造・研究がなされ、特許取得なども行われた。高純度フェライト系の最初期の製品として知られるのが、アメリカのエア・リダクション・カンパニーが製造した"E-Brite 26-1"である。製造方法は電子ビーム溶解法を利用し、基本成分はクロム 26 %・モリブデン 1 % で、炭素と窒素の合計量は 0.001 % 以下を実現できていた。高い靭性に加えて、塩化物環境でも発揮される優れた耐食性を持ち、化学プラントや食品産業で使われた。ただし、電子ビーム溶解法では高コストだったため、E-Brite 26-1はアレゲニー・ラドラム・コーポレーション(英語版)にライセンスされ、真空誘導炉で生産された。 1967年、ドイツで真空中で溶鋼に酸素を吹き付ける真空酸素脱炭法(Vacuum Oxygen Decarburization)が発明される。真空酸素脱炭法では、炭素・窒素合計量 0.004 % 以下を実現できる。これによって極低炭素・極低窒素のステンレス鋼が効率よく製造できるようになり、高純度フェライト系の製造に実用されていった。炭素と窒素の含有量が低減されたフェライト系の耐食性・加工性・溶接性は大きく向上した。以後、高純度フェライト系の開発が進み、多くの鋼種が生まれることとなる。 ステンレス鋼の使用が広がる過程で、430系(AISI430やSUS430など)が唯一のフェライト系ステンレス鋼の選択肢として使われていた。430系では溶接性や耐食性が劣る面もあったことから、ステンレス鋼利用者にフェライト系ステンレス鋼はオーステナイト系ステンレス鋼よりも劣っているという印象を与え、利用者の一部に根付いてしまった。フェライト系がオーステナイト系よりも低価格であったことも手伝い、フェライト系は「安物」でありオーステナイト系は「高級品」であるという、合理的でない認識が広まったこともある。しかし、2006年頃にはニッケル取引価格の高騰が起き、ニッケルを主成分として含有しないフェライト系の利用が拡大した。現在の高純度フェライト系ステンレス鋼は耐食性や溶接性は改善され、その用途は広がっている。ステンレス鋼メーカーによって、オーステナイト系と同等以上の耐食性を持つフェライト系ステンレス鋼も開発されている。
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