音声体系
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/21 07:28 UTC 版)
古代南アラビア語は29個の子音音素によってセム語中もっとも豊かな子音体系を保有している(Nebes and Stein (2004) による。括弧内のつづりは転写で、括弧書きのないものは音声表記をそのまま転写に使う): 両唇音歯音歯茎音後部歯茎音硬口蓋音軟口蓋音咽頭音声門音非強勢音強勢音非強勢音強勢音非強勢音強勢音破裂音無声 t tʼ (ṭ) k kʼ (q) ʔ (ʾ) 有声b d g 摩擦音無声f θ (ṯ) θʼ (ẓ) s (s3/ś) sʼ (ṣ) ʃ (s1/s) x (ḫ) ħ (ḥ) h 有声 ð (ḏ) z ɣ (ġ) ʕ (ʿ) 鼻音m n 側面音 l ふるえ音 r 接近音w j (y) 側面摩擦音無声 ɬ (s2/š) ɬʼ (ḍ) サバ語研究の初期には、古代南アラビア語はヘブライ文字で転写されていた。歯茎および後部歯茎摩擦音の転写には異論もある。サバ語研究の初期には不安定さが大きく、ニコラウス・ロドカナキスらの選んだ『セム語碑文集成』(Corpus Inscriptionum Semiticarum) の転写が長く受けいれられており、このかわりに A. F. L. Beeston によって s に 1 から 3 の添字を付す記法が提案されるまでこれが続いた。後者の記法はもっぱら英語圏において受けいれられているが、ドイツ語圏などでは、上の表でも考慮されている前者の転写記号がいまだに普及している。 強勢音 ḍ, ṣ, ṭ, ẓ の実現は軟口蓋化または放出音、強勢音 q のそれは無声口蓋垂破裂音または軟口蓋放出音と推測されている。S 音(歯擦音、Sibilant)s1/s, s2/š, s3/ś の推定も同様。口頭で読むさいには古代南アラビア語の発音は古典アラビア語で読まれる。 この言語の歴史のなかではとりわけハドラマウト語において個別な音声変化が見られた。ʿ から ʾ へ、ẓ から ṣ へ、ṯ から s3 へのような変化である(ミナ語で Ptolemaios が tlmyṯ のように書かれていることを考えよ)。後期サバ語では s1 と s3 は合一して s1 の文字になっている。他のセム語と同様、n は後続する子音に同化しうる:ʾnfs1 > ʾfs1「心」。 このように古代南アラビア文字では母音を文字の上で区別しないので、古代南アラビア語の母音について詳述することは不可能である。それでも古代南アラビア語の名前の、とりわけギリシア語における転写から推測されるのは、古代南アラビア語はセム祖語やアラビア語と同様に母音 a, i, u をもっていたであろうということである。それゆえ krb-ʾl という名前はアッカド語では Karib-ʾil-u, ギリシア語では Chariba-el のように表されている。aw から ō への単母音化が、ywm / ym「日」(アラビア語 yawm)や Ḥḍrmwt / Ḥḍrmt / ギリシア語 Chatramot(アラビア語 Ḥaḍramawt)「ハドラマウト」のような異綴を通して推測される。とはいえ母音つきで伝わっている語は非常に少数であるから、この分野で用いられている古代南アラビア語名の母音つきの形は仮説的であり一部は恣意的である。
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