規模の経済を考慮した反論・反例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 05:35 UTC 版)
「競争力」の記事における「規模の経済を考慮した反論・反例」の解説
しかし一方、この見解に完全には賛同しない経済学者もいる。確かに国際貿易を行う国は、必然的にどこかの分野で比較優位を持ち、国際分業を担っていることは事実である。とはいえ規模の経済により、より有利な専門分野が獲得されたり失われたりすることもあるからである。例を以下に記す。 明治時代の日本では、国際競争力がつくまで特定の産業を保護するという産業育成的な関税政策をとった。この関税政策は、他の分野においても国際競争力を持つまでの政策として続けられた。その結果、対象外の経済部門を縮小させながらも、日本は特定の分野において実質的な産業基盤を構築し、高い生産性と大幅な賃金向上を伴った比較優位性を確保することができた。 1970年代のオランダでは、天然ガス資源の開発による経常黒字が通貨高を招き、オランダ病が発生する。輸出価格が上昇し、輸入品が安くなり、国内の産業部門が縮小した。産業部門の縮小は、資源部門の伸長により相殺される。しかし、天然ガスの埋蔵量はやがて枯渇し、資源部門も最終的には縮小を余儀なくされる。理論的には、資源部門の縮小は通貨の切り下げにつながり、産業部門の比較優位性が回復することになる。しかし政策立案者やポール・クルーグマンなどの一部の経済学者は、規模の経済のマイナスの効果が働く点も要因となり、産業部門の縮小が長引くほど、国際市場でのシェア回復は困難になると懸念を示している。そのため、天然資源の開発という短期的な幸運は、市場シェアを永久に喪失し、本来得られるはずであった平均賃金を減少させることにつながる。 他国よりも縮小的な金融政策を実施すれば、通貨高を招き、価格競争力の低下(輸出価格の上昇、輸入品の安値化)を招く。従来の経済学の常識では、金融引き締め政策により他の部門と共に産業部門も低迷するが、金融引き締めが終われば回復する、と考える。しかし産業部門の低迷が“長期化”した場合は、規模の経済のマイナスの効果などが生じ、金融引き締め終了後も、国際的な市場シェアが完全には回復しない、と一部の経済学者は警告する。この現象は、例えばイギリスの元首相マーガレット・サッチャーの第一期で発生している。
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