舞台上の効果
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/14 20:28 UTC 版)
能楽師にとって、面に生きた表情を与えることは最大の難関である。不意に頭を上げ下げしたり、ぎくしゃくしたりする動きは醜いとされる。特に女面は微妙な「中間表情」を持っているとされ、わずかに面を下に向ける(曇(クモ)ラス)、上に向ける(照(テ)ラス)などといった扱い方によって、観客から見た効果が変わってくるため、技量が求められる。この「中間表情」という見方は、野上豊一郎が「能面工作の最大特色なる最も日本的な創意」として提唱したものである。激しい表情を持った鬼や天狗の面は、短い登場時間中に用いられるだけなのに対し、女面は、舞台上で長時間つけられ、一つの面で様々な心の動きを表現しなければならないためにこのような工夫が凝らされていると言われる。 演者の立場からは、美術工芸品として美しい面と、舞台で生きる面では微妙に違い、近くで見ると素晴らしい面でも、観客席まで力が届かない場合もあると指摘されている。 面をかけると、視界がさえぎられ、呼吸も不自由になるため、演者には身体と精神の厳しい修行が求められる。面の両目の間隔は人の目よりも狭く、右か左かの利き目に合わせて、片目で見ることとなる。特に見にくいのは女面、中でも目鼻口が中央に寄っている小面であると言われる。自分が舞台の上のどこにいるかを知るにも、目と鼻孔の小さな穴を通したわずかな視界から覗き見るほかなく、舞台の四方の柱や、囃子方の位置を見て、方向や歩数を計る。扇を開くような簡単な型でさえ、目で見ながら行うことはできず、長い袖の下から手探りで行わなければならない。「弱法師」のような盲目の役柄に使う面の目は、通常の小さな穴ではなく、下向きの切れ目であるため、むしろ演者にとっては視界が広くなる。能ですり足をするようになったのも、もともと、視界が限られ、体重のバランスを保つことが難しいという事情によると考えられる。
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