網に関して
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/11 20:16 UTC 版)
このクモの網については興味深い点が多い。 一つには、コガネグモ科のものは円網を張るのが普通だが、そのほとんどは垂直円網であり、水平円網を張るものはごく少ないことである。水平円網を張ることが多いのは、アシナガグモ科などである。 ところが、アシナガグモ科の水平円網とこのクモの網も大変に異なっている。上記のように、このクモの網は糸がごく少なく、非常に編み目が粗いが、特殊な点はそれだけに止まらない。普通の円網では放射状に張られた縦糸に対して粘液を持つ横糸は渦巻き状になっているのだが、このクモではほとんど同心円状になっていて、ひと繋がりの渦巻きにはなっていない。 さらに張り方も異なる点がある。普通は先ず放射状の縦糸を張り、次に内側から外側にあらく粘性のない糸を張る。これは足場糸と呼ばれ、クモはそれを付けた後に、今度は外側から粘性のある横糸を張ってゆく。その時に足場糸を伝って次の縦糸に移動することで横糸の位置を定めるようにし、足場糸が邪魔になると切り捨てる。ところが、このクモの場合、足場糸をつけず、縦糸のあとに直接横糸を張る。そのために、クモは縦糸から次の縦糸に写る際に必ず中心を経由して移動する。それに、横糸は渦巻きではなく、往復移動を繰り返すことで張る。 また、このクモの網には機能的にも独特な点がある。先ず、横糸が弛んで張られていること、また横糸にある粘球が大きく、しかも縦糸との接触部にはないことである。そのために夜間に明かりで照らすと、横糸の両端が見えなくて、途中だけが白く光って見える。そしてこの糸に虫がかかると、縦糸との接点で切れるようになっている。これは、獲物としてガを捕らえるのには都合のいい性質である。ガの体には鱗粉があるため、普通のクモの網ではガが引っかかった時にもがくと鱗粉だけを網に残して逃れることが出来るが、このクモの網では糸が片方で切れてガの体に巻き付き、縦糸からぶら下がった状態で掴まってしまう。クモはこの糸を吊り上げてガを捕らえることが出来る。 このクモの近縁群にナゲナワグモの習性を持つイセキグモ属などがいる。この特殊な獲物の捕まえ方がどのように発達したかについて、このクモの網がその発端になったと考えられるようになった。つまり、上記のようにこのクモがガを捕まえる場合、ガを吊り上げる形になり、その状態はナゲナワグモが獲物を捕らえた形と同じになる。さらに、これらに近縁な属であるサカグチトリノフンダマシ属やツキジグモ属の網がトリノフンダマシ属のそれの片側が退化したような三角網であることが判明した。ここから、トリノフンダマシの作る円網を始まりとして、ガを捕まえる特性が発達した代わりに網そのものを退化縮小させていったと考えると、その頂点にナゲナワグモがいると見ることが出来る。その視点からナゲナワグモの捕虫時の行動を調べると、トリノフンダマシが円網を張る行動との類似性が確認できるという。 なお、トリノフンダマシ属の獲物はガが多いことから、ナゲナワグモ類と同様にフェロモン類似物質を出している可能性が示唆されているが、はっきりしていない。
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