経緯と下級審
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/27 00:31 UTC 版)
兵庫県の不動産会社Xは、県内のAに対して1億円以上の支払いを命じる確定判決を有していた。このうち7200万円について、金融機関にあるAの預金などを差し押さえる命令を、神戸地方裁判所尼崎支部に申し立て、1998年4月10日に神戸地方裁判所尼崎支部は債権差押命令を行い、差押命令を「特別送達」で金融機関とAの勤務先に送った。 債権差押命令の正本は4月14日にAの勤務先に、一方で金融機関には郵便業務従事者が金融機関において行うべきところを、誤って金融機関の私書箱に投函してしまった。その結果、4月14日にAは金融機関の口座に残っていた全額(約787万円)を引き出してしまい、Xの差押えは失敗に終わった。 事件当時の郵便事業は、郵政事業庁による国営であったが、当時の郵便法は第68条で書留郵便物等を無くすか破損した場合、金をとらずに代金引換郵便物を渡した場合に限って国に損害賠償を請求することができると規定されていた。また、当時の郵便法第73条では賠償請求できるのは差出人とその承諾を受けた受取人に限定していた。 つまり、書留郵便物や特別送達郵便物について、郵便業務従事者の故意または重大な過失によって損害が生じた場合でも、国の損害を免除することになる。これは、国家賠償が認められていなかった明治時代の旧郵便法を、ほぼそのまま踏襲したものであり、郵便当局は法律の定め以外の損害賠償は一切しない規定であるとの立場をとり、大日本帝国憲法下での大審院判例もこの見解を明示的に認め、日本国憲法下での最高裁判所も同様の判断(例として、1981年1月30日の最高裁判決など)をしてきた。 Xは国家賠償請求責任を狭く限定した郵便法の規定が、国家賠償請求権を保障した日本国憲法第17条に違反するとして、日本国政府を提訴した。1999年3月11日に一審の神戸地方裁判所尼崎支部はXの訴えを棄却し、1999年9月3日に大阪高等裁判所もXの訴えを棄却した。Xは最高裁判所に上告した。
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