磁場のない時のネール緩和
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 01:09 UTC 版)
「超常磁性」の記事における「磁場のない時のネール緩和」の解説
通常、強磁性体やフェリ磁性体はキュリー温度で常磁性体に転移するが、超常磁性ではキュリー温度よりも低い温度で現れる。 超常磁性は単一の磁区を持ったナノ微粒子で起こる現象である。物質によって決まる、3-50nm以下の直径を持つ時にのみこの現象は見られる。この条件の下では、ナノ微粒子の磁化は個々の原子の磁気モーメントを足し合わせた巨大な磁気モーメントと考えることができる。この取り扱いは超常磁性体の分野では巨視的スピン近似と呼ばれている。 この状態においては、ナノ微粒子の磁化(巨視的磁化)が反転しその方向を変える確率が有限に存在する。2つの反転が起こる間隔の平均時間はネール緩和時間 τ N {\displaystyle \tau _{N}} と呼ばれ、次のネール-アレニウスの方程式で与えられる。 τ N = τ 0 exp ( K V / ( k B T ) ) {\displaystyle \tau _{N}=\tau _{0}~\exp(KV/(k_{B}T))} , ここで τ N {\displaystyle \tau _{N}} は上に説明したネール緩和時間 τ 0 {\displaystyle \tau _{0}} は試行時間(attempt time)あるいは試行周期(attempt period)と呼ばれる物質によって違う時間の長さ(典型的には10−9–10−10秒程度の大きさである。) Kはナノ微粒子の異方性、Vは体積(KVは初めの容易化軸からもう片方の容易化軸へ移る時に必要なエネルギー障壁と考えることができる) Tは温度 である。 このネール緩和時間はナノ秒から年やそれよりも長いものにいたるまでのどの時間スケールも取りうる。このことは、ネール緩和時間が粒子の大きさの関数であることからも見て取れ、バルクや大きなナノ微粒子に対しては磁化が反転する確率は無視できることも説明している。 ここで、超常磁性体のナノ微粒子を一つだけ測定することを考える。その測定時間を τ m {\displaystyle \tau _{m}} とする。 τ m {\displaystyle \tau _{m}} >> τ N {\displaystyle \tau _{N}} の時は、ナノ微粒子の磁化は測定の間に何度も反転するので、測定される磁化はゼロになるであろう。もし、 τ m {\displaystyle \tau _{m}} << τ N {\displaystyle \tau _{N}} であれば、測定の間に磁化は反転しないので、測定される磁化はナノ微粒子がもつ磁気モーメントになると考えられる。前者の場合ではナノ微粒子は超常磁性体の用に見え、後者の場合は強磁性体のように見える。ナノ微粒子の状態は測定に依存するのである。超常磁性体と強磁性との間の転移は τ m {\displaystyle \tau _{m}} = τ N {\displaystyle \tau _{N}} の時に起こる。いくつかの実験では、測定時間は一定で温度が変えられるので、超常磁性と強磁性との転移は温度の関数として現れる。 τ m {\displaystyle \tau _{m}} = τ N {\displaystyle \tau _{N}} の時の温度は阻害温度(blocking temperature)と呼ばれる。なぜなら、この温度より低い温度では磁化は測定の時間スケールによって阻害されたように見えるからである。
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