磁場とジェット
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/16 17:21 UTC 版)
降着円盤は一般に星間物質中に存在する外部磁場に貫かれていると考えられている。これらの磁場は典型的には数マイクロガウスと弱いが、円盤内の物質の電気伝導率が高いため磁場は物質と結びついており、中心の恒星に向かって物質と共に内側へと運ばれる。この過程は円盤の中心付近に磁束を集中させ、非常に強い磁場を生み出す。降着円盤の回転軸に沿った強力な宇宙ジェットを形成するためには、円盤の内側領域における大きなスケールの軸方向の磁場 (ポロイダル磁場) が必要である。 このような磁場は、星間物質から内側へと移流してきたり、あるいは円盤内での磁場のダイナモ作用によって生成されたりすると考えられる。強力なジェットを放出するための磁気遠心力を生み出すためには、最低でも100ガウスのオーダーの磁場強度が必要である。しかし、円盤の中心の恒星へ向かって外部の磁場を輸送することには問題点がある。電気伝導度が高いということは、磁場はゆっくりとした速度で中心の天体に降着していく物質に凍結していることを意味する。しかし円盤内を降着していくプラズマは完全な電気伝導体ではないため、ある程度の磁場の散逸が発生する。そのため磁場は物質の降着によって内側へ運ばれてくる割合よりも速く散逸してしまう。これを回避するシンプルな解は、円盤内の磁気拡散率(英語版)よりも粘性がずっと大きいと仮定することである。しかし数値シミュレーションと理論モデルでは、磁気回転不安定性により乱流状態となっている円盤内では、粘性と磁気拡散率はほぼ同じ桁の大きさであることが示されている。移流や拡散率にはその他の要素も影響を及ぼしうる。円盤の表面層での磁場の乱流拡散が減衰する、磁場によってシャクラ・スニヤエフ粘性が減少する、あるいは小さいスケールでの磁気流体力学乱流によって大きなスケールの磁場が生成される、大スケールダイナモなどが挙げられる。実際に、異なるメカニズムが組み合わさることによって、ジェットが放射されている円盤の中心領域まで外部の磁場が効率的に輸送されてくることが可能となる場合がある。磁気浮力、乱流による排出や乱流反磁性などの物理現象は、このような外部磁場の効率的な集中を説明する例であるとみなされている。
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