生物の系統と鞭毛の修飾構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/28 00:27 UTC 版)
従来、真核生物のは鞭型と羽根型(両羽/片羽)の2型に分類されていた。しかし「羽」と呼ばれて一括りにされてきた修飾構造には、分類群毎の差異がある事が電子顕微鏡の普及と共に判明してきた。従って、鞭型鞭毛や羽根型鞭毛という表現は、単に鞭毛の形状を表した便宜的なものにすぎない。 明瞭な修飾構造を持たない分類群 オピストコンタ(後生動物、菌類)、アメーボゾア、ケルコゾア、緑藻類など。 修飾構造を持つ分類群 ストラメノパイル 褐藻類や珪藻類といった独立栄養の不等毛植物から、卵菌類やラビリンチュラのような従属栄養の生物までを含む。最も修飾を発達させたグループで、鞭毛の表面に管状マスチゴネマと呼ばれる小毛を持つ。この小毛は中空であり、基部・軸部・先端毛という三部構成となっている。管状小毛を持つ鞭毛は、鞭毛運動時に細胞に逆向きの推進力(鞭毛を前に向けて泳ぐ力)をもたらす。「ストラメノパイル」という名前はこの管状小毛に由来する(stramenopiles, straw;麦わら+pilus;毛)。 プラシノ藻類 鞭毛は数種類の鱗片に覆われる。小毛を持つように見える種もあるが、これは毛状鱗片である。プラシノ藻の多くは鞭毛のみならず細胞本体の表面にも鱗片を持ち、それらの形態や組み合わせは属や種の同定に有用な形態形質である。 クリプト藻類 二本の亜等長〜不等長鞭毛を持つ。長鞭毛が両羽、短鞭毛が片羽という組み合わせが多いが、これは属により様々である。長鞭毛の小毛は中空で、軸部と先端毛との二部構成である。ストラメノパイル同様、推進力を逆転させる働きを持つと言われる。 ハプト藻類 パブロバ亜綱では長鞭毛に小毛と鱗片を持つ。プリムネシウム亜綱では二本の鞭毛は等長もしくは亜等長であり、修飾構造を持たない。 ユーグレナ植物(ミドリムシ) 鞭毛は片羽型。小毛は中空ではなく、またストラメノパイルのものよりも柔軟で推進力を逆転させる機能は無い。羽として認識される小毛の他に、さらに細かい毛が鞭毛全体を覆っている。 渦鞭毛藻類 横鞭毛は片羽型で、やはり中空ではない。縦鞭毛に小毛を持つ種もある。 パラバサリア類(トリコモナス) 複数本の鞭毛を持つものから無鞭毛のものまで様々であるが、多くの属では鞭毛のうちの一本(後曳鞭毛;recurrent flagellum)が細胞表面に付着し、後方に伸びる。この後曳鞭毛と細胞との間に波動膜を持つ種もある。一方、超鞭毛虫類は鞭毛に修飾を持たない。 渦鞭毛藻と同じアルベオラータである繊毛虫が持つ繊毛は、機能的、構造的に真核生物鞭毛と同じものである。 また、水中の真核生物の分類群の中で紅藻類だけは、生活環を通して一切の鞭毛を持たない。有性生殖時に生じる精子も不動精子である。陸上生物では接合菌、子嚢菌と担子菌も一切の鞭毛細胞を生じない。種子植物の大部分もそうである。これらは二次的に鞭毛細胞を生じなくなったものと考えられる。種子植物ではソテツ類とイチョウ類だけが精子に鞭毛を持ち、祖先が鞭毛細胞を持つものであったことを伺わせる。
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