環の冪等元
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/15 23:02 UTC 版)
詳細は「冪等元」を参照 環における冪等元とは、環の乗法に関して冪等であるような元のことと定義される。環の冪等元全体からなる集合の半順序を次のように定義することができる。すなわち、e と f が冪等な元であるとき、ef = fe = e となるときかつそのときに限って e ≤ f が成り立つと定めるのである。この順序では 0 が最小な冪等元であり、1 が最大の冪等元となる。 環 R において e が冪等であるとき、eRe も e を乗法単位元とする環になる。もとの環 R が単位元 1R を持つ場合でも、e ≠ 1R ならば単位元が異なるため単位的環としての部分環にはなっていない。 2つの冪等元 e と f は ef = fe = 0 が成り立つとき直交するという。この場合、e + f も冪等であり、e ≤ e + f かつ f ≤ e + f である。 環 R で e が冪等であるとき、f = 1 − e と置けば f と e は直交する(e が冪等なので ee = e であるから、ef = fe = 0 となる)。 R の冪等元 e が R の中心に属すとき、つまり R 内の全ての x について ex = xe が成り立つとき、e は中心的 (central) あるいは中心冪等元であるという。この場合、Re は e を乗法単位元とする環である。R の中心冪等元は、複数の環の直和としての R の分解と密接に関係する。単位的環 R が環 R1,...,Rn の直和であるとき、各環 Ri の単位元は R において互いに直交する中心冪等元であり、これらの総和が単位元 1 に一致する。逆に、R において中心的な冪等元 e1,...,en がどの二つも互いに直交し、これらの総和が単位的環 R の単位元 1 に一致するならば、R は環 Re1,...,Ren の直和である。つまり、R の中心冪等元 e に対し、R は Re と R(1 − e) の直和に分解できる。 0 でも 1 でもない冪等元 e は零因子である(e(1 − e) = 0 である)ため、整域や可除環にはそのような冪等元は存在しない。局所環にもそのような冪等元は存在しないが、理由は異なり、環のジャコブソン根基に含まれる冪等元は(根基が冪零元イデアルゆえ) 0 だけであることによる。また、(可除ゆえに冪等元を持たない四元数体に対して)分解型四元数環 (split-quaternion, coquaternion) には冪等元が存在して、それらはちょうど回転カテナリー曲面 (catenoid) を形作る。 全ての元が冪等である環をブール環と呼ぶ。この場合、乗算は可換で、各元には加法に対する逆元が存在する。
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