冪等行列とは? わかりやすく解説

冪等行列

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/16 18:34 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動

線型代数学において、冪等行列(べきとうぎょうれつ、: idempotent matrix)とは、自分自身との積が自分自身に一致する行列のことである[1][2]。つまり、行列 が冪等行列であるとは が成り立つことである。積 が意味を持つために、正方行列でなければならない。このように冪等行列とは行列環冪等元のことである。

冪等行列の例:

冪等行列の例:

実2次正方行列の場合

行列 が冪等であるならば、

  • より , よって または
  • より , よって または

よって、実2次正方行列が冪等であるならば、行列が対角行列であるか、または行列のが 1 に等しい。対角行列であるとき、a および d はそれぞれ 1 または 0 のいずれかでなければならないことに注意する。

のとき、行列 、よって a二次方程式

を満たすならば冪等である。この方程式は中心 (1/2, 0)、半径 1/2を表す。角度 θ を用いて書けば、行列

は冪等である。

は必要条件ではなく、 である任意の行列

は冪等である。

性質

正則性

唯一の正則な冪等行列は単位行列である。つまり、単位行列でない正方行列が冪等であるならば、その列ベクトル(または行ベクトル)のうち線型独立であるものの本数は行列の列数よりも小さい。

これは次のようにして分かる。 であり、A が正則ならば、 の左からの積を考えて

単位行列から冪等行列を引いた行列もやはり冪等である。なぜなら:

行列 A が冪等であるための必要十分条件は、任意の正整数 n に対して が成り立つことである。

(証明)十分性は、 ととれば良いので明らかである。必要性は数学的帰納法によって示せる。 は明らかだから のときはよい。 と仮定する。このとき となり、 のときも正しいことが分かった。

固有値

冪等行列は常に対角化可能で、その固有値は 0 または 1 である[3]

冪等行列の跡(対角成分の和)は行列の階数に等しい。これより、成分の分かっている冪等行列の階数は容易に計算できるし、また逆に、成分が明示的でないような冪等行列の跡が容易に計算できる場合がある(このことは特に統計学で有用であり、例えば標本分散から母分散(誤差分散)を(線形)推定するときの計算に現れる)。

応用

冪等行列は回帰分析計量経済学でしばしば現れる。例えば最小二乗法では、残差 ei の平方和を最小にするように係数ベクトル β を求めることが問題となる。これを行列で書けば:

Minimize

となる。

ここで 従属変数の観測値を並べたベクトル、 は各列がそれぞれの独立変数の観測値を並べたものとなっている行列である。このとき係数ベクトルの推定量は

となる。ここで上付きの T行列の転置を表し、残差ベクトルは

となる[2](後者は射影行列として知られている)は冪等かつ対称な行列であり、このことを用いると残差平方和の計算が

のように簡単になる。 の冪等性はこの他に、 の分散の推定量を計算するときにも用いられる。

冪等行列 の像空間を R(P)零空間N(P) とすれば、R(P) への射影作用素であり、さらに直交射影でもあるための必要十分条件は対称行列であることである。

関連項目

脚注

  1. ^ Chiang, Alpha C. (1984). Fundamental Methods of Mathematical Economics (3rd ed.). New York: McGraw–Hill. p. 80. ISBN 0070108137 
  2. ^ a b Greene, William H. (2003). Econometric Analysis (5th ed.). Upper Saddle River, NJ: Prentice–Hall. pp. 808–809. ISBN 0130661899 
  3. ^ Horn, Roger A.; Johnson, Charles R. (1990). Matrix analysis. Cambridge University Press. p. p. 148. ISBN 0521386322 

冪等行列

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/09 03:01 UTC 版)

平方完成」の記事における「冪等行列」の解説

正方行列 M が冪等とは M2 = M成り立つことである。 M = ( a b b 1 − a ) {\displaystyle M={\begin{pmatrix}a&b\\b&1-a\end{pmatrix}}} は、 a 2 + b 2 = a {\displaystyle a^{2}+b^{2}=a} ならば冪等行列である。平方完成により ( a − 1 2 ) 2 + b 2 = 1 4 {\displaystyle (a-{\tfrac {1}{2}})^{2}+b^{2}={\tfrac {1}{4}}} M が実行列なら、これは ab-平面において中心 (1/2, 0)、半径 1/2 の円の方程式である。角度 θ を用いて書けばM = 1 2 ( 1 − cos ⁡ θ sin ⁡ θ sin ⁡ θ 1 + cos ⁡ θ ) {\displaystyle M={\frac {1}{2}}{\begin{pmatrix}1-\cos \theta &\sin \theta \\\sin \theta &1+\cos \theta \end{pmatrix}}} と媒介変数表示できる。

※この「冪等行列」の解説は、「平方完成」の解説の一部です。
「冪等行列」を含む「平方完成」の記事については、「平方完成」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「冪等行列」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「冪等行列」の関連用語

冪等行列のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



冪等行列のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの冪等行列 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの平方完成 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS