猫の生死に関する思考実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 16:55 UTC 版)
「シュレーディンガーの猫」の記事における「猫の生死に関する思考実験」の解説
ジョン・フォン・ノイマンは自著『量子力学の数学的基礎』において、隠れた変数理論の否定的証明を行い(ノイマンのNO-GO定理)、計算上で観測時に観測結果を選びとる射影公準を提唱し、観測する側とされる側の境界をどこにでも設定できるとした。1935年、シュレディンガーはドイツ科学誌上で論文『量子力学の現状について』を発表し、射影公準における収縮がどの段階で起きるのかが明確でないことによって引き起こされる矛盾を示した。一方で、佐藤勝彦は、その中で猫を使った思考実験を用いて、ミクロの世界に特有な確率解釈の矛盾を突くことで、量子力学が未だ不完全な学問であることを証明しようとしたとしている。実験の内容は以下のとおりである。 猫と放射性元素のある密閉した鋼鉄の箱の中で、放射性元素の1時間あたりの原子の放射性崩壊確率を50%とし、ガイガー計数管が原子崩壊を検知すると電気的に猫が殺される仕掛けにすると、1時間経過時点における原子の状態を表す関数は |原子の状態|=|放射線を放出した|+|放射線を放出していない| という二つの状態の50%ずつの重ね合わせによって表される。その結果、猫の生死は、 |箱の中の状態|=|(放射線が放出されたので)猫が死んでいる|+|(放射線が放出されていないので)猫は生きている| という50%ずつの重ね合わせの状態になり、箱の中では箱を開けてそれを確認するまで猫が死んでいる状態と生きている状態の重ね合わせになる。もしもこれが現実を記述しているとすれば、「巨視的な観測をする場合には、明確に区別して認識される巨視的な系の諸状態は、観測がされていてもいなくても区別される」という“状態見分けの原理”と矛盾する。シュレーディンガーはこのことをもって、量子力学的記述は未完成であると主張した。蓋のある密閉状態の箱を用意し、この中に猫を1匹入れる。箱の中には他に少量の放射性物質とガイガーカウンター、それで作動される青酸ガスの発生装置がある。放射性物質は1時間の内に原子崩壊する可能性が50%であり、もしも崩壊した場合は青酸ガスが発生して猫は死ぬ。逆に原子崩壊しなければ毒ガスは発生せず猫が死ぬことはない。「観測者が箱を開けるまでは、猫の生死は決定していない」とされている。原子がいつ崩壊するのかは量子力学的には確率的にしか説明することができない。観測者が見るまでは、箱の中の原子が崩壊している事象と崩壊していない事象は重なり合って存在している。観測者が確認をした瞬間に事象が収縮して結果が定まる。シュレディンガーはこれを「猫の生死」という事象に結び付け、「観測者が箱の中身を確認するまでは、猫の生死は確定しておらず(非決定)、観測者が蓋を開けて中を確認した時に初めて事象が収縮して、それにより猫の生死が決まるとして、箱を開けるまでは、生きている猫の状態と死んだ猫の状態が重なり合って存在している」という意味に解釈し、「ミクロの世界の特殊性」を前提にした量子力学者たちの説明に対して、「マクロの事象」を展開することによって「量子力学の確率解釈」が誤っていることを証明しようとした。
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