潮汐加熱とミマスパラドックス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 06:28 UTC 版)
「エンケラドゥス (衛星)」の記事における「潮汐加熱とミマスパラドックス」の解説
ミマスは球形をした土星の衛星の中では最も内側を公転しており、エンケラドゥスのすぐ内側に存在する。しかしミマスはエンケラドゥスよりも強い潮汐力を受けており潮汐加熱が大きいはずであるにも関わらず、活発であるエンケラドゥスとは対照的に地質学的には死んだ天体である。この矛盾はミマスパラドックス (あるいはミマス・エンケラドゥスパラドックス) と呼ばれている。 このパラドックスは、両天体の主要な組成である氷の温度依存性のある特性によって部分的に説明できる可能性がある。単位質量あたりの潮汐加熱は q t i d = 63 ρ n 5 r 4 e 2 38 μ Q {\displaystyle q_{tid}={\frac {63\rho n^{5}r^{4}e^{2}}{38\mu Q}}} と書くことができる。ここで ρ {\displaystyle \rho } は衛星の密度、 n {\displaystyle n} は衛星の平均運動、 r {\displaystyle r} は衛星の半径、 e {\displaystyle e} は衛星の軌道離心率、 μ {\displaystyle \mu } は剛性率、 Q {\displaystyle Q} は無次元の潮汐散逸係数である。この式から、物性値が同じ場合はミマスの q t i d {\displaystyle q_{tid}} の値はエンケラドゥスよりも40倍大きくなることが期待される。しかし実際には μ {\displaystyle \mu } と Q {\displaystyle Q} は温度依存性のある物理量である。温度が高くなり融点に近づくと、 μ {\displaystyle \mu } と Q {\displaystyle Q} は小さくなるため、潮汐加熱は大きくなる。エンケラドゥスの内部構造のモデルでは、内部の温度勾配が小さい低エネルギーの熱状態の場合も、大きな温度勾配を持った「励起された」高エネルギー状態で対流が発生するような場合も、どちらもが安定であると考えられている。しかしミマスの内部構造のモデルでは、土星に近いにも関わらず低エネルギーの状態のみが安定であると考えられている。そのため、ミマスは低い内部温度を持つ (従って μ {\displaystyle \mu } と Q {\displaystyle Q} が大きい) 状態である一方で、エンケラドゥスは高い内部温度を持つ ( μ {\displaystyle \mu } と Q {\displaystyle Q} が小さい) ことが許される。この場合、土星に近いミマスの潮汐加熱が小さく、遠いエンケラドゥスの潮汐加熱が大きい理由が説明できる。この状態が実現されるためには、エンケラドゥスがどのようにして初期に高エネルギー状態に至ったのかを説明するさらなる過去の情報が必要である。例えば、放射性物質の崩壊による加熱がさらに多かった、過去の軌道離心率が大きかった、などである。 エンケラドゥスの密度はミマスよりも大きい (1.61 と 1.15 g/cm3) ことから、エンケラドゥスはミマスよりも岩石を多く含んでおり、従って放射性物質の崩壊による加熱がミマスよりも大きかった可能性があり、この要素もミマスパラドックスを解決する上で重要であると考えられている。 ミマスやエンケラドゥス程度のサイズの氷衛星が潮汐加熱と対流の「励起状態」に至るためには、初期の内部熱を失いすぎる前に軌道共鳴を起こす必要があることが示唆されている。ミマスは小さいためエンケラドゥスよりも速く冷える。そのため、軌道共鳴によって駆動される対流を引き起こすための機会はエンケラドゥスと比べて短かった可能性があり、これが両者の内部構造の違いを生み出した可能性がある。
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