洪水_(ストラヴィンスキー)とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 洪水_(ストラヴィンスキー)の意味・解説 

洪水 (ストラヴィンスキー)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/20 17:36 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動

洪水』(こうずい、The Flood)は、イーゴリ・ストラヴィンスキーが1961年から1962年にかけて作曲した劇音楽。旧約聖書創世記』の大洪水の話をもとにしている。CBSテレビの番組のために作曲された。グラミー賞 クラシック現代作品部門を受賞している。

作曲の経緯

1959年ごろ、CBSはテレビ番組のためにストラヴィンスキーに作曲を依頼した[1]。ストラヴィンスキーは大洪水を題材とした。ロバート・クラフトによると1960年にヴェネツィアで経験した洪水(アックア・アルタ)が作曲のきっかけになったという[2]。洪水だけではなくより広い観点から、天地創造ルシファー失楽園なども含む内容になった。テクストは英語で、主に創世記およびヨークチェスターの中世の神秘劇をもとにロバート・クラフトが書いた[3]

初演

『洪水』は1962年6月14日、ストラヴィンスキーの80歳の誕生日の直前に放送された。舞踊部分の振付はジョージ・バランシン、美術はルーベン・テル=アルトゥニアンにより、ストラヴィンスキーとロバート・クラフトが指揮した[4]。ストラヴィンスキーの音楽はテレビのプロデューサーが許容最小時間とした時間の半分以下の長さしかなかった[5]。このため番組は洪水伝説に関する人類学的解説や長々としたストラヴィンスキーとバランシンの共同作業についての説明、スポンサーのブレック・シャンプーの宣伝を加えたために台無しになった。また、バランシン振付による舞踊もテレビではうまく効果を発揮しなかった[4]

生の舞台としてはハンブルク州立歌劇場で1963年4月30日に初演された。ロバート・クラフトが指揮した[1]。テレビ放送を前提として作曲されたために、場面転換に充分な時間が取れないなど、生の舞台では演じる上にいろいろな無理が生ずることとなった[4][6]

ジェレミー・ノーブルは、多様な内容を盛り込みすぎたために十分な密度をもった音楽になっていないと批判している[7]

編成

テノールはルシファーを、2人のバスは神の声を表す。

構成

作品は合唱による音楽・音楽つきの語り(メロドラマ)・舞踊などを含む複雑な内容を持ち、契約の虹を象徴する7つの部分から構成される。最初と最後が対応する。

  1. 前奏曲
  2. メロドラマ
  3. 箱舟の建設(管弦楽と舞踊)
  4. 動物のカタログ
  5. 喜劇(ノアとその妻、息子たちによる音楽つき対話)
  6. 洪水(管弦楽と舞踊)
  7. 虹の契約

演奏時間は約24分[1]

内容

冒頭のわずか7小節の器楽部分は極端に広い音域(5オクターブ半)の和音と弦楽器のトレモロによって、短いながらも強い印象を残す。続けてすぐにテ・デウムとサンクトゥスが合唱によって歌われる。

語り手によって神が水を分けて乾いた土地を出現させ、動物たちを創造したことが語られる。人間が創造され、ついでルシファーを創造するが、ルシファーは慢心から罰せられ、サタンとなる。神の声は常に大太鼓にはじまって2人のバスによって歌われる。ルシファー(サタン)はテノールが歌う。

メロドラマ部分にはいり、サタンは蛇の姿でイヴを騙して禁断の木の実を食べさせる。神はそれを知ってアダムとイヴを呪い、楽園から追い出す。短いファゴット三重奏の後、神は人間を滅ぼそうとし、ノアに箱舟を作るように伝える。

箱舟の建造は複雑なリズムを持つ音楽で、『ムーヴメンツ』に似たところがある。動物のカタログおよび喜劇部分は器楽に載せて語られる。クライマックスの洪水は無限に続くように感じられる(最初と最後に稲妻を模した部分がある)。

洪水の後、再び神の声とノアの語り、前奏、サタンの歌、サンクトゥス、テ・デウム(しだいにフェードアウトする)が続き、管弦楽によって静かに終わる。

脚注

  1. ^ a b c White (1979) p.517
  2. ^ クラフト(1998)上 p.303
  3. ^ White (1979) p.141,517
  4. ^ a b c White (1979) p.527
  5. ^ クラフト(1998)下 p.115
  6. ^ クラフト(1998)下 pp.113-115
  7. ^ Jeremy Noble、Eric Walter White「ストラヴィーンスキイ、イーゴリ(・フョドロヴィチ)」『ニューグローヴ世界音楽大事典講談社、1993年。

参考文献

  • Eric Walter White (1979) [1966]. Stravinsky: The Composer and his Works (2nd ed.). University of California Press. ISBN 0520039858 
  • ロバート・クラフト『ストラヴィンスキー 友情の日々』上、小藤隆志訳、青土社、1998年。 ISBN 4791756541
  • ロバート・クラフト『ストラヴィンスキー 友情の日々』下、小藤隆志訳、青土社、1998年。 ISBN 479175655X

「洪水 (ストラヴィンスキー)」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「洪水_(ストラヴィンスキー)」の関連用語

洪水_(ストラヴィンスキー)のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



洪水_(ストラヴィンスキー)のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの洪水 (ストラヴィンスキー) (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS