民主的懸念
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/21 02:27 UTC 版)
欧州委員会の任命方法に民主的関与が欠如しているという批判が一部でなされている。欧州委員会が執行機関であるにもかかわらず、その候補は主として加盟国政府が選出しており、これはつまり市民が直接欧州委員会の人事を拒否することができないということである。もっとも、前述のように欧州委員会の人事案は欧州議会の承認を要件としており、また欧州議会は欧州委員会に対して不信任を決議することができる。ところが欧州議会議員選挙は1999年以降、その投票率が50%を下回っている。この数値はアメリカ合衆国議会など一部の国における国政選挙よりも高い数値ではあるが、アメリカ合衆国大統領とは違い、欧州委員会委員長に対する直接選挙は行われず、このことは世論からすれば欧州委員会委員長職が民主的に正当性を持つものか懐疑的に捉えられる要因となっている 。さらには選挙民が明確ではないということも問題であり、ヨーロッパ規模での市民社会の創造にあたってその民意を反映するものがないのである。リスボン条約では欧州委員会委員長の選出にあたって直前の欧州議会議員選挙と関連付けるという手続きが正式に盛り込まれた。副委員長ヴァルシュトレムの構想では、欧州規模の政党はより存在感が増し、欧州委員会委員長が欧州議会議員選挙を通じて選出されることになるとしている。 欧州委員会に対する別の見方では、欧州委員会が法案作成を主導する政策分野は有権者の圧力に対して説明義務がある機関には適していないというものがある。この点において欧州委員会は、選挙において際立って争点となることが少ない政策分野に特化し、独立した立場に置かれる欧州中央銀行と対比される。ただこのような議論は、多くの欧州連合の政策分野が加盟国に住む一般人の生活に影響を及ぼすものであり、投票権を持つ市民が選挙を通じて政府の政策に意見を表明する権利を持つということは民主主義の原則であることから、決して広く受け入れられているものではない。さらに欧州委員会を擁護する立場の一部からは、欧州委員会が提出する全ての分野についての法案は加盟国の閣僚で構成される欧州連合理事会が、一部の分野についての法案は欧州議会がそれぞれ承認しなければならないため、どの加盟国においてもその政府の承認を受けずに採択される法令は限定されているということが指摘されている。
※この「民主的懸念」の解説は、「欧州委員会」の解説の一部です。
「民主的懸念」を含む「欧州委員会」の記事については、「欧州委員会」の概要を参照ください。
- 民主的懸念のページへのリンク