様相論理の意味論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/24 05:07 UTC 版)
様相論理の意味論としてはソール・クリプキによって与えられたクリプキ意味論と呼ばれる体系があり、それと関係するよく知られたアイディアとして可能世界論がある。上で見た公理系のバリエーションは、可能世界のあいだの二項関係として定義される到達可能性の概念によって捉えることができる。なお、可能世界という概念をどう解釈すべきかを巡っては、哲学上の議論も盛んである。 命題様相論理の意味論の概要は以下の通りである。 Wを空でない集合とする。これは個々の可能世界全体の集合を表していると考えられる。次にW上の二項関係Rを考える。つまり R ⊆ W 2 {\displaystyle R\subseteq W^{2}} である。また ⟨ w , w ′ ⟩ ∈ R {\displaystyle \langle w,w'\rangle \in R} を w R w ′ {\displaystyle _{w}R_{w'}} と表す。RはW上の到達関係と呼ばれ、様相演算子の付いた論理式の真偽に影響する。またPVを命題変数全体の集合とし、このPVと先に定義したWに対し、関数Vを V : P V → 2 W {\displaystyle V:PV\rightarrow 2^{W}} として定義する( 2 W {\displaystyle 2^{W}} はWの冪集合、すなわち部分集合全体の集合である)。これは、ある原子命題について、それが真である可能世界の集合を与える解釈である。すなわち、可能世界wにおいて原子命題pが真であることを w ∈ V ( p ) {\displaystyle w\in V(p)} として表す。このように定義された順序三組〈W, R, V〉を解釈(もしくはクリプキモデル)と呼ぶ。 さて、解釈Vを以下のように論理式全体に再帰的に拡張する。A、Bを任意の論理式、wをWの任意の要素とする。 w ∈ V ( ¬ A ) ⇔ w ∉ V ( A ) {\displaystyle w\in V(\neg A)\Leftrightarrow w\notin V(A)} w ∈ V ( A ∧ B ) ⇔ w ∈ V ( A ) {\displaystyle w\in V(A\land B)\Leftrightarrow w\in V(A)} かつ w ∈ V ( B ) {\displaystyle w\in V(B)} w ∈ V ( A ∨ B ) ⇔ w ∈ V ( A ) {\displaystyle w\in V(A\lor B)\Leftrightarrow w\in V(A)} または w ∈ V ( B ) {\displaystyle w\in V(B)} w ∈ V ( A → B ) ⇔ w ∉ V ( A ) {\displaystyle w\in V(A\rightarrow B)\Leftrightarrow w\notin V(A)} または w ∈ V ( B ) {\displaystyle w\in V(B)} w ∈ V ( ◻ A ) ⇔ {\displaystyle w\in V(\Box A)\Leftrightarrow } 全ての w R w ′ {\displaystyle _{w}R_{w'}} である w ′ ∈ W {\displaystyle w'\in W} について w ′ ∈ V ( A ) {\displaystyle w'\in V(A)} w ∈ V ( ◊ A ) ⇔ {\displaystyle w\in V(\Diamond A)\Leftrightarrow } ある w R w ′ {\displaystyle _{w}R_{w'}} である w ′ ∈ W {\displaystyle w'\in W} において w ′ ∈ V ( A ) {\displaystyle w'\in V(A)} 命題論理の結合子については古典命題論理と全く同じであるが、様相演算子については、可能世界と到達関係を持つ別の可能世界を考える必要がある。任意のクリプキモデル〈W, R, V〉の全ての w ∈ W {\displaystyle w\in W} で w ∈ V ( A ) {\displaystyle w\in V(A)} の時、AはK(クリプキに因む)で恒真であると言う。ルイスの公理系の一部の意味論は到達関係Rに制限(二項関係の制限について詳しくは集合上の関係を参照)を加えることにより作ることが出来る。例えばS5でAが証明可能なのは、反射的かつ対称的かつ推移的であるという制限をRに加えた全てのクリプキモデルの全ての世界でAが真である時であり、その時のみである。同様にS4は反射的かつ推移的という制限を加える。 次に「非正規世界」(non-normal worlds)を導入する。Wを空でない集合、NをWの部分集合、他R及びvは上と同様に定義する。この時、順序四組〈W, N, R, V〉が非正規様相論理における解釈である。vは、命題論理の結合子については、全ての w ∈ W {\displaystyle w\in W} で上記と同様に拡張される。様相演算子については、正規世界Nにおいては上記と全く同じだが、非正規世界W - N(WのうちでNに含まれない世界全ての集合)においては異なる。 全ての w ∈ W − N {\displaystyle w\in W-N} で w ∈ V ( ◊ A ) {\displaystyle w\in V(\Diamond A)} 且つ w ∉ V ( ◻ A ) {\displaystyle w\notin V(\Box A)} である。 いわば、非正規世界では定義的に(到達関係と関係なく)全ての可能命題が真であり、全ての必然命題が偽である。Aが恒真であるとは全ての解釈〈W, N, R, V〉の下で全ての w ∈ N {\displaystyle w\in N} に対し w ∈ V ( A ) {\displaystyle w\in V(A)} であることを言う。非正規様相論理の解釈の到達関係Rに反射的であるという制限を加えるとS2、反射的かつ推移的という制限を加えるとS3の意味論となる。 公理系S4の位相的意味論では、原子命題達を位相空間の中の図形と解釈する。ここでは様相演算子 □ と ◇ は、それぞれ開核作用素と閉包作用素に解釈される。代数的意味論では、原子命題達を位相ブール代数の元と解釈する。
※この「様相論理の意味論」の解説は、「様相論理」の解説の一部です。
「様相論理の意味論」を含む「様相論理」の記事については、「様相論理」の概要を参照ください。
- 様相論理の意味論のページへのリンク