松木鑑定への疑惑
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 16:20 UTC 版)
「弘前大教授夫人殺し事件」の記事における「松木鑑定への疑惑」の解説
那須の逮捕と起訴の決め手となったのが、松木らの行ったズック靴と白シャツについての鑑定結果であった。しかし、それらの鑑定については多くの疑義が呈されている。 まず、松木が最初にズック靴を鑑定したのは引田の鑑定よりも以前のことであるが、引田はズック靴に鑑定試料の切り取り跡を見ていない。8月の松木鑑定時には血液型の判別は不可能であったとされているのに、那須への逮捕状の請求書では血液型がB型と判定されたことになっている。その一方で、10月4日の再鑑定でも試料不足で判別できなかった血液型が、17日頃の共同鑑定では判別されており、ベンチヂン反応が陰性であったはずの左靴の「斑痕ア」も血液と鑑定されている(下表参照)。さらに、反応には1日程度要するとされていた人血鑑定の結果も、2時間という短時間で得られている。加えて、ズック靴を領置した警官は「なんだかシミがついているからというんで、つばをつけてこすった」と公判で証言しており、このことから那須は、警官の唾液が血液と誤判定されたのではないか、と疑念を呈している。検察側は松木によるこの第一のズック靴鑑定結果を公判に提出するのを拒み続け、結局それが明らかにされたのは再審が開始された1977年(昭和52年)になってからであった。 片や松木の共同鑑定人となった市警鑑識官は、鑑定直後に「那須はシロだ」と知人に漏らしている。鑑識官によれば、白シャツに付着していた斑痕は飛沫痕の特徴である星型痕ではなく、駒込ピペットで垂らしたような洋梨型であったという。さらに、人血鑑定には抗人血清沈降素や遠心分離機が必要であるにもかかわらず、当時の松木医院にあった設備は「試験管が5、6本」であったという。 ズック靴と白シャツに対する松木・鑑識鑑定書の添付図 該靴に附着しある斑痕(単なる斑痕、血液、人血液等を含めて)は噴出したものの細かなものが飛び着いたものと思われ、前に附着しある物件に接触して着いたもの若しくは上から滴り落ちて着いたものとは思われない。 — ズック靴に対する松木・鑑識鑑定書(10月19日付)より 特にホ点及イ点は上方に突起部がある〔原文では描図されている〕型で下方から附着点に立てた垂直面に斜めに飛び来たつて附着した如く認められ、ヘ点及びト点は上方斑痕部に平行して近くから滴下した如く認められそれも内側からのものとは認められず、又接触して附着したものとは思われない。 — 白シャツに対する松木・鑑識鑑定書(10月19日付)より 白シャツ鑑定書添付図に記載された斑痕の形状・サイズの詳細。斑痕Bは「斑痕イ」、Cは「ロ」、Eは「ニ」、Fは「ホ」、Iは「ヘ」に相当し、計測は後の再審時に仙台高裁刑事第二部が行ったもの。
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