数学のモデル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/13 13:35 UTC 版)
競争関係に関しては、古典的な数学モデルがある。オーストリア出身のアメリカ人数理生物学者アルフレッド・ジェームズ・ロトカが1925年に、イタリアの数学者ヴィト・ヴォルテラが1926年に互いに独立に導いたロトカ=ヴォルテラの方程式と呼ばれるもので、ロジスティック方程式を元にしている。 2 つも種があって、それぞれの個体数を N1、N2、内的増加率を r1、r2、環境収容力を K1、K2 とするとき、それぞれの個体群成長は、微分方程式 d N 1 d t = r 1 N 1 ( 1 − N 1 + α 1 N 2 K 1 ) {\displaystyle {\frac {dN_{1}}{dt}}=r_{1}N_{1}\left(1-{\frac {N_{1}+\alpha _{1}N_{2}}{K_{1}}}\right)} および d N 2 d t = r 2 N 2 ( 1 − N 2 + α 2 N 1 K 2 ) {\displaystyle {\frac {dN_{2}}{dt}}=r_{2}N_{2}\left(1-{\frac {N_{2}+\alpha _{2}N_{1}}{K_{2}}}\right)} で表される。ここで α1、α2 は、競争係数というもので、たとえば α1 は種 2 の個体が増加することで種 1 の個体数増加がどれだけの悪影響を受けるかを表すものである。また dN1/dt および dN2/dt は、種 1 および種 2 の個体数の次の瞬間にかけての増加率を表し、競争者の悪影響がなく、環境収容力が無限であれば、それぞれ d N 1 d t = r 1 N 1 {\displaystyle {\frac {dN_{1}}{dt}}=r_{1}N_{1}} および d N 2 d t = r 2 N 2 {\displaystyle {\frac {dN_{2}}{dt}}=r_{2}N_{2}} となる。つまり、次の瞬間にかけての個体数の増加率は、内的増加率が高ければそれに比例して高くなるし、現在の個体数が多ければやはりそれに比例して高くなる。 これに種内競争によるブレーキを組み込んだのがロジスティック方程式の微分方程式で、 d N 1 d t = r 1 N 1 ( K 1 − N 1 K 1 ) {\displaystyle {\frac {dN_{1}}{dt}}=r_{1}N_{1}\left({\frac {K_{1}-N_{1}}{K_{1}}}\right)} および d N 2 d t = r 2 N 2 ( K 2 − N 2 K 2 ) {\displaystyle {\frac {dN_{2}}{dt}}=r_{2}N_{2}\left({\frac {K_{2}-N_{2}}{K_{2}}}\right)} となる。 ロトカ-ヴォルテラ式は、これにさらに種間競争によるブレーキ、α1N2 および α2N1 を組み込んだものである。 それぞれの種の増加にブレーキをかけるのは、1 を上限とする 1 − N 1 + α 1 N 2 K 1 {\displaystyle 1-{\frac {N_{1}+\alpha _{1}N_{2}}{K_{1}}}} と 1 − N 2 + α 2 N 1 K 2 {\displaystyle 1-{\frac {N_{2}+\alpha _{2}N_{1}}{K_{2}}}} である。これらの値が小さければ小さいほど、つまり N 1 + α 1 N 2 K 1 {\displaystyle {\frac {N_{1}+\alpha _{1}N_{2}}{K_{1}}}} と N 2 + α 2 N 1 K 2 {\displaystyle {\frac {N_{2}+\alpha _{2}N_{1}}{K_{2}}}} の値が大きくなって 1 に近づけば近づくほど、それぞれの種の増加率は鈍り、0 に近づくし、1 を超えて大きくなると増加率は負となり、個体数は減少に転じる。 N 1 + α 1 N 2 K 1 {\displaystyle {\frac {N_{1}+\alpha _{1}N_{2}}{K_{1}}}} や N 2 + α 2 N 1 K 2 {\displaystyle {\frac {N_{2}+\alpha _{2}N_{1}}{K_{2}}}} の値を左右するのは、まずそれぞれの種の現在の個体数、相手の個体数、相手の自分に対する競争係数、そして環境収容力である。 現在の自分のほうの個体数が大きくなれば、この式の分子 N1 + α1N2 および N2 + α2N1 の左の項が大きくなるので、この式の値は大きくなる。また、相手のほうの個体数が大きくなれば、右の項が大きくなるので同様に式の値は大きくなり、競争係数の大きさはその程度を高くしたり低くしたりする。また、自分のほうの種の環境収容力が大きければ、これは分母にあるため式の値が小さくなるし、環境収容力が小さければ、逆に式の値は大きくなる。 すなわち、ロジスティック方程式は、もともと種内の個体を互いに競争関係にあるものと見なしており、個体数が増えれば増えるだけ、暮らしが苦しくなって繁殖率が下がるというものである。そこで、競争相手の個体が増えた場合も、ある率で暮らしが苦しくなる、というふうにしたのがこの式である。つまり、一般社会でイメージするように、個体どうし、種どうしが互いにじかに闘争しあうというのではなく、直接的間接的にかかわらず、相手の暮らし向きにどれだけ圧力をかけてしまっているかで互いの個体数に影響を与えるという実態をモデル化することができるわけである。 この式を元に考えれば、2 種の生物が競争した場合、当初は r が大きいものが優位に立つが、時間が経つと K が大きい方が有利になる。また、初期条件で互いの個体数がどうであるのか、互いがどれだけ相手の存在に対して敏感に悪影響を受けてしまうのか、さらにそもそものそれぞれの種の環境収容力のレベルも重要な要素となる。 ガウゼが 2 種のゾウリムシを混合培養した実験では、ほぼこの結論を認める結果となっている。すなわち、2 種のうちのどちらかだけが生き残り、2 種混合で生存させることはできなかった。それが可能だったのは、片方が水槽の底におり、もう一種が上の方に生息するという、いわば棲み分けが成立した時だけであった。
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