教皇選挙 (映画)
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教皇選挙 | |
---|---|
Conclave | |
監督 | エドワード・ベルガー |
脚本 | ピーター・ストローハン |
原作 | ロバート・ハリス |
製作 |
テッサ・ロス ジュリエット・ハウエル マイケル・A・ジャックマン アリス・ドーソン ロバート・ハリス |
製作総指揮 |
トーマス・アルフレッドソン エドワード・ベルガー レイフ・ファインズ スティーヴン・レイルズ グレン・バスナー アリソン・コーエン ミラン・ポペルカ ベン・ブラウニング レン・ブラバトニック ダニー・コーエン |
出演者 |
レイフ・ファインズ スタンリー・トゥッチ ジョン・リスゴー イザベラ・ロッセリーニ |
音楽 | フォルカー・ベルテルマン |
撮影 | ステファーヌ・フォンテーヌ |
編集 | ニック・エマーソン |
製作会社 |
フィルムネイション・エンターテインメント インディアン・ペイントブラッシュ |
配給 |
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公開 |
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上映時間 | 120分 |
製作国 |
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言語 |
英語 イタリア語 ラテン語 スペイン語 |
製作費 | $20,000,000[2] |
興行収入 |
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『教皇選挙』(きょうこうせんきょ、原題: Conclave)は、2024年制作のアメリカ合衆国・イギリスのミステリー映画。
ローマ教皇死去に伴って行われることとなった教皇選出選挙(コンクラーヴェ)の舞台裏と内幕に迫ったミステリ[4]。原作はロバート・ハリスの小説『教皇選挙』(Conclave、未邦訳)で、原作から登場人物の設定に変更が加えられている。
あらすじ
![]() | この節にあるあらすじは作品内容に比して不十分です。 |
ある日、カトリック教会のトップにしてバチカン市国の国家元首であるローマ教皇が、心臓発作のため突如として急死してしまう。教皇死去の悲しみに暮れる暇もなく、イギリス出身でローマ教皇庁首席枢機卿を務めるトマス・ローレンス枢機卿は枢機卿団を招集し、次のローマ教皇を選出する教皇選挙(コンクラーヴェ)を執行することとなった。
100人以上の枢機卿がコンクラーヴェが行われるシスティーナ礼拝堂に集まる中、有力候補者として
- アメリカ出身でバチカン教区所属、リベラル派最先鋒のベリーニ枢機卿
- カナダ・モントリオール教区所属、穏健保守派のトランブレ枢機卿
- ナイジェリア教区所属、初のアフリカ系教皇の座を狙うアデイエミ枢機卿
- イタリア・ベネチア教区所属、保守派にして伝統主義者のテデスコ枢機卿
の4人の名が取り沙汰される中、メキシコ出身で昨年に前教皇によって新たに任命されたばかりのアフガニスタン・カブール教区のベニテス枢機卿が開始直前に到着する。
かくしてコンクラーヴェが始まるが、枢機卿団の票が割れていく水面下では陰謀や差別、スキャンダルの数々が犇めいていた。裏で信仰に関する悩みを抱えるローレンスはそれらに苦悩を深めつつもコンクラーヴェを執行していくが、新教皇選出を目前とする中、厳戒態勢が敷かれたバチカンを揺るがす大事件が勃発する。
長い本番
コンクラーヴェの開催まで
教皇が心臓発作で帰天した後、枢機卿会議は英国出身のトマス・ローレンス首席枢機卿の指揮の下、後任を選出するために招集された。有力候補として浮上したのは、進歩主義改革派のアメリカ合衆国出身のアルド・ベリーニ枢機卿、社会保守派のナイジェリア出身のジョシュア・アデイエミ枢機卿、穏健派のカナダ出身のジョー・トランブレ枢機卿、そして伝統主義者のイタリア出身のゴッフレード・テデスコ枢機卿の4人である。
教皇庁長官のヤヌシュ・ウォズニアック大司教はローレンスに対し、教皇が死去前にトランブレ枢機卿に辞任を要求したと告げるが、トランブレ枢機卿はこれを否定する。一方、ベリーニ枢機卿は支持者たちに対し、テデスコ枢機卿の教皇位継承を阻止するのが自分の狙いであって、何が何でも教皇になりたいわけではなく、保守派に対して自らの主張を妥協させるつもりはないし、多数派工作や票のとりまとめもしないでほしいと語る。
滞りなく準備を進めていたつもりのローレンスであったが、前年に前教皇から秘密裏に(イン・ペクトーレ)、枢機卿に任命されていたメキシコ生まれのカブール大司教ヴィンセント・ベニテス枢機卿が土壇場で到着したことに驚く。
ローレンスは審議の冒頭、即興の説教で不確実性を受け入れるよう枢機卿らに促したが、これは教皇就任への野望を公然と宣言したものと解釈する者もいた。
初日
いよいよコンクラーヴェが開幕する。当選に必要な三分の二の多数を獲得した者はいなかったが、アデイエミへの票数がテデスコとトランブレのそれを越え、進歩派の票はベリーニに集まったもののその数は上位3名に及ばず、かつ一部の票はローレンスに流れていた。
ローレンスの助手であるレイモンド・オマリー神父は、ベニテスがジュネーヴでとある診察を受けるための費用を前教皇が支払っていたことを知る。ベニテスは後にこの診察をキャンセルしていた。ベニテスはローレンスに対し、その説教に感動してローレンスに投票したことを明らかにし、今後もその考えを変えないと告げる。
2日目
食事の際、アデイエミと、ナイジェリアからローマに派遣されたばかりの修道女シャヌーミとの口論が発生した。ローレンスはシャヌーミと話をし、そこでシャヌーミはアデイエミとの不倫関係から息子を出産したことを告白する。アデイエミは問い詰められ、その事実を認める。ローレンスは告解の秘密を守ったが、噂の拡大によってアデイエミの当選は頓挫する。ベリーニは渋々ながらトランブレを支持することにする。
ローレンスは、選挙期間中の宿泊施設(サン・マルタ館)の管理最高責任者シスター・アグネスと協力し、シャヌーミの転勤をトランブレが手配していたということを知る。問い詰められたトランブレは、教皇の要請でそうしたと主張する。ローレンスは教皇の帰天以来封印されている部屋に侵入し、トランブレが枢機卿たちに投票の報酬として金銭や地位の保証をするなどの買収行為を行ったことを示す文書を発見する。彼はその文書をベリーニに見せるが、ベリーニはその存在を明かさないよう頼み、口論となる。
3日目
ローレンスとアグネスはトランブレの行動を公表し、トランブレは事実上、教皇候補から外れる。ベリーニと和解したローレンスは、テデスコに対抗することに同意する。ベリーニとの談話で心を動かされたことにより、ローレンスは次の投票で自らに投票する(本来自らへの投票はタブーとされている)が、投票用紙を壺に入れた直後に爆弾がシスティーナ礼拝堂に投げ込まれる。枢機卿らはこの爆発がヨーロッパ各地で発生した一連の自爆テロ事件の一つであったことを知る。テデスコがイスラム教に対する宗教戦争を主張したのに対し、ベニテスは暴力に暴力で対抗することに反対し、共通の宗教的使命よりも政治的思惑を優先する人々を非難する。投票が再開され、割れた窓から光が差し込む中、投票結果は圧倒的多数でベニテスを選出。ベニテスは教皇名「インノケンティウス」を選んだ。
ローレンスは当初は熱意に溢れていたが、オマリーに呼び出され、ベニテスの診察予約がキャンセルされていたことについての新たな情報を知る。ローレンスに詰め寄られたベニテスは、生まれつき子宮と卵巣を持っていて、虫垂切除手術でそれが明らかになるまでその存在を知らなかったことと、予約していた診察の内容は腹腔鏡による子宮摘出手術だったが、神に創造されたままの自分であり続けるべきだと考えて手術を断念したことを明かす。ローレンスはバチカンの敷地内を歩き回り、新教皇インノケンティウスの選出を祝い歓声を上げる群衆の声に耳を傾ける。部屋に入り窓を開けると、下の中庭で3人の若い修道女がおしゃべりしているのが目に入った。
登場人物・キャスト
- トマス・ローレンス枢機卿
- 演:レイフ・ファインズ
- 本作の主人公。ローマ教皇庁首席枢機卿。
- 突然の教皇逝去の悲しみに暮れる暇もなく、首席枢機卿としてコンクラーヴェを主宰する。実は信仰に関する悩みを抱えており、前教皇に辞職を申し出ていたが慰留されていた。ややリベラルな傾向を持つ一方、自身は教皇には相応しくないとは考えているが、コンクラーヴェで一定程度の票を集めることになる。
- 原作におけるヤコポ・ロメリー枢機卿に相当するキャラクター。
- アルド・ベリーニ枢機卿
- 演:スタンリー・トゥッチ
- バチカン教区所属。ローレンスの友人。
- 知識人でリベラル派の最先鋒。教会内の自由主義者に支持基盤を有している他、改革派であった前教皇とも良好な関係を持ち、コンクラーヴェ前の新聞では次期教皇の最有力候補とも報じられていた。しかし、そのリベラルな考え故に、始まったコンクラーヴェでは支持をあまり集められずに苦戦する。
- ジョー・トランブレ枢機卿(原作ではジョセフ、映画版では短縮形のジョー)
- 演:ジョン・リスゴー
- カナダ・モントリオール教区所属。
- 穏健派で、考え方としては保守派ながらリベラルな性向も併せ持つ人物。北アメリカの枢機卿を中心に支持を集めている。一方でウォズニアック大司教によると前教皇が亡くなる直前に辞任を要求したとされており、またオマリーの調査によると前教皇が彼に関する何らかの調査書を受け取ったという。
- ゴッフレード・テデスコ枢機卿
- 演:セルジオ・カステリット
- イタリア・ベネチア教区所属。
- 保守派にして伝統主義者。その考え方故に改革派の前教皇との関係が悪く、前教皇の施策に対する主要な反対者の一人として知られていた。一方でスキャンダルとは無縁の存在である他、教会内の保守派から支持を集めている。イタリア人であり、数十年も誕生していないイタリア出身のローマ教皇になることに意欲を示している。
- ジョシュア・アデイエミ枢機卿
- 演:ルシアン・ムサマティ
- ナイジェリア教区所属。
- 史上初となるアフリカ系教皇の座を狙う人物。保守的な考えの持ち主であるとされるが、それ故に支持基盤であるアフリカなどの枢機卿に加えて保守派の票も集め、コンクラーヴェで優位に選挙戦を進める。
- ヴィンセント・ベニテス枢機卿
- 演:カルロス・ディエス
- アフガニスタン・カヴール教区所属。
- 多くの紛争地域や教会の勢力が弱い地域での奉仕を行ってきた人物。その功績を評価されて昨年に教皇によって枢機卿に任命されるが、その活動経緯から秘密の任命であり、ローレンス達もその事実を知らなかった。コンクラーヴェ開始直前に任命状を携えて到着し、コンクラーヴェに参加する。
- サバディン枢機卿
- 演:メラーブ・ニニッゼ
- 修道会[注釈 1]所属の枢機卿。リベラル派陣営の1人で、ベリーニへの票集めに奔走するが難航し、焦りを見せる。
- モンシニョール・レイモンド・"レイ"・オマリー
- 演:ブライアン・F・オバーン
- ローレンスの秘書。
- 枢機卿団の補佐役を務めるが、ローレンスから依頼を受けてトランブレに関する調査を始める。
- シスター・アグネス
- 演:イザベラ・ロッセリーニ
- 選挙中の枢機卿達が滞在する「聖マルタの家」の管理を務める修道女。
- ヤヌシュ・ウォズニアック大司教
- 演:ジャセック・コーマン
- 教皇公邸管理部の責任者で、前教皇の身の回りの世話を行なっていた。
- 前教皇の遺体の第一発見者であり、死の直前に前教皇とトランブレの間で行われたあるやりとりを目撃しており、ローレンスにその内容を伝える。過大なストレスから飲酒の量が激増しており、それ故にその発言には疑念がつきまとう。
評価
2025年1月19日時点で、映画批評集積サイトのRotten Tomatoesには294件のレビューがあり、批評家支持率は91%、平均点は10点満点で8.0点となっている。観客支持率は86%、平均点は5点満点で4.3点となっている。サイト側による批評家の見解の要約は「教皇に関する物語を完璧な演出で描き、レイフ・ファインズはキャリアハイライトとも言える演技を披露する。知的なエンターテインメントを求める観客にとってはまさに神からの贈り物だ。」となっている[5]。また、Metacriticには54件のレビューがあり、加重平均値は79/100となっている[6]。
第97回アカデミー賞において作品賞含む8部門にノミネートされ、ピーター・ストローハンが脚色賞を受賞している[7]。第82回ゴールデングローブ賞においても脚本賞を受賞している[8]。また、英国アカデミー賞では作品賞と英国作品賞を、全米映画俳優組合賞では最高賞となるキャスト賞を受賞した。
教皇フランシスコ死去による影響
くしくも上映期間中の2025年4月21日にフランシスコ教皇が亡くなったことを受けて、本作の題材となったコンクラーヴェが行われることとなった。また、アメリカにおける視聴者数が前週比3,200%増となった。アメリカではAmazon Prime Videoで配信されており、21日まではレンタル料を支払う必要があったものの、合計視聴時間が1週間で96万6,000時間から690万時間へと急増。さらに22日から見放題配信が始まると、1,830万時間へと激増した[9]。
日本でも本作品の上映期間と重なったことから、観客数が急増[10]。フランシスコ死去から3日後となる2025年4月24日には前週対比倍増となる216%を記録したほか、同月28日には興行収入が5億円を突破したことを同国での配給を担当しているキノフィルムズが発表した[11][12]。
コンクラーヴェに参加した枢機卿の一部も参考とするために本作を鑑賞したという[注釈 2]。後に教皇に選出されレオ14世を名乗ることになるロバート・プレヴォスト枢機卿も振る舞い方のために選挙前に鑑賞した旨を兄に語っている[13]。また選挙に参加した前田万葉は枢機卿に任命されてから初めてのコンクラーヴェであったこともあり、選挙の詳細な手順について知らなかったことも相まって周囲に勧められて鑑賞し、選挙の大まかな流れを知るのに参考になったとしている[14]。同じく選挙に参加した菊地功もバチカンへ向かう飛行機の中で鑑賞したが、実際と異なる部分も多いとしている[15]。
脚注
注釈
- ^ 枢機卿としての正装以外の場面では常時フランシスコ会のものに近い修道服を着用している。
- ^ 2025年ローマ教皇選挙に参加した枢機卿の大部分はフランシスコによって任命されており、今回はじめてコンクラーヴェに参加するケースが多かったことによる。
出典
- ^ “「西部戦線異状なし」エドワード・ベルガー監督×レイフ・ファインズ! 「教皇選挙」25年3月20日公開決定”. 映画.com. (2024年11月20日) 2024年12月19日閲覧。
- ^ “Venom: The Last Dance Hopes To Boogie To $150 Million Global Opening – Box Office Preview”. Deadline Hollywood (2024年10月22日). 2024年10月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年10月23日閲覧。
- ^ a b “Conclave”. Box Office Mojo. 2024年12月18日閲覧。
- ^ “ローマ教皇を決める選挙の裏側で…レイフ・ファインズ主演「教皇選挙」3月公開”. 映画ナタリー. (2024年11月20日) 2024年12月19日閲覧。
- ^ “Conclave - Rotten Tomatoes” (英語). www.rottentomatoes.com (2024年10月25日). 2025年1月19日閲覧。
- ^ Conclave
- ^ “【アカデミー賞速報】脚色賞を「教皇選挙」が受賞、レイフ・ファインズ主演のミステリー”. 映画ナタリー. 2025年3月10日閲覧。
- ^ “『教皇選挙』が第82回ゴールデングローブ賞 脚本賞を受賞”. kino films. 2025年3月10日閲覧。
- ^ “映画『教皇選挙』視聴者数、教皇死去で3,200%増”. シネマトゥデイ. 2025年4月28日閲覧。
- ^ “ローマ教皇死去で関心高まる…映画「教皇選挙」の観客が倍増 上映回数増やし期間も延長”. 南日本新聞 (2025年4月28日). 2025年4月29日閲覧。
- ^ “映画「教皇選挙」興収5億円突破 ローマ教皇死去で前週対比200%超を記録”. スポーツ報知 (2025年4月28日). 2025年4月29日閲覧。
- ^ “映画『教皇選挙』興行収入5億円突破! 公開5週目にして前週比200%を記録”. クランクイン! (2025年4月28日). 2025年4月29日閲覧。
- ^ “新ローマ教皇レオ14世、コンクラーベ直前に映画『教皇選挙』鑑賞していた”. シネマトゥディ (2025年5月9日). 2025年5月9日閲覧。
- ^ 47NEWS (2025年5月7日). “ローマ教皇を選ぶコンクラーベ、投票資格がある日本人枢機卿ってどんな人? 「田舎の司祭になりたかった」被爆2世、大阪の前田万葉さん”. 47NEWS. 2025年5月9日閲覧。
- ^ “教皇選挙を終えて”. 司教の日記. 2025年5月12日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 教皇選挙_(映画)のページへのリンク