引き戻し (圏論)とは? わかりやすく解説

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引き戻し (圏論)

(引戻し_(圏論) から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/30 21:03 UTC 版)

圏論という数学の分野において,引き戻し(ひきもどし,: pullback),あるいはファイバー積 (fiber/fibre/fibered product),デカルトの四角形 (Cartesian square) とは,共通の終域を持つ2つの f: XZ, g: YZ からなる図式極限である.引き戻しはしばしば

P = X ×Z Y

と書かれ,2つの自然な射 PX, PY を備えている.2つの射の引き戻しが存在するとは限らないが,存在すれば2つの射から本質的に一意に定義される.多くの状況において,X ×Z Y は,元 xXyY の対 (x, y) であって f(x) = g(y) なるものからなるものと直観的に考えることができる.一般の定義には普遍性が用いられ,このことを本質的な理由として,引き戻しは2つの与えられた射を可換四角形に適合させる「最も一般の」方法である.

引き戻しの双対概念押し出し英語版 (pushout) である.

普遍性

明示的には,2つの射 f, g の引き戻しは,対象 P と2つの射 p1: PXp2: PY であって次の図式が可換となるものからなる:

さらに,引き戻し (P, p1, p2) はこの図式について普遍的でなければならない,つまり,別のそのような3つ組 (Q, q1, q2) であって次の図式が可換であるような任意のものに対して,一意的な uQ → P(仲介射 (mediating morphism) と呼ばれる)が存在して

すべての普遍的な構成がそうであるように,引き戻しは,存在すれば,同型を除いて一意である.実際,同じ cospan英語版 X → Z ← Y の2つの引き戻し (A, a1, a2)(B, b1, b2) が与えられると,AB の間の引き戻し構造を尊重した一意的な同型が存在する.

弱い引き戻し

余スパンXZY弱引き戻し (weak pullback) は「弱い普遍性」しか持たない(つまり、上記の仲介射 u: QP が一意であることを要求しない)ような余スパン上の錐を言う。[1]

引き戻しと積

引き戻しはと似ているが,同じではない.射 f, g と対象 Z の存在を「忘れる」ことによって積が得られる.このとき2つの対象 X, Y のみを持ちそれらの間に何の射もない離散圏が残るが,この離散圏は通常の二項積を構成するための添字集合として用いることができる.したがって,引き戻しは付加構造を持った通常の(デカルト)積と考えることができる.Z, f, g を「忘れる」代わりに,それらを「自明化」することも Z終対象(存在は仮定する)に特殊化すれば可能で(この場合 fg は一意に決まって,しかも何の情報も与えない),この cospan の引き戻しは XY の積と見ることができる.

可換環

可換環の圏は引き戻しを持つ.

(単位元を持つ)可換環の圏 CRing において,引き戻しはファイバー積と呼ばれる.

A, B, C ∈ Ob(CRing),
α : AC ∈ Hom(CRing),
β : BC ∈ Hom(CRing)

とする.したがって A, B, C は単位元を持つ可換環であり,α, β は単位元を保つ環準同型である.するとこの図式の引き戻しはデカルト積 A × B の部分環

を引き戻し図式とすると,誘導される射 ker(p2) → ker(f)ker(p1) → ker(g) は同型である.したがってすべての引き戻し図式は次の形の可換図式を生じる,ただしすべての行と列は完全である:
出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。2017年9月
  • Adámek, Jiří, Herrlich, Horst, & Strecker, George E.; (1990). Abstract and Concrete Categories (4.2MB PDF). Originally publ. John Wiley & Sons. ISBN 0-471-60922-6. (now free on-line edition).
  • Cohn, Paul M.; Universal Algebra (1981), D.Reidel Publishing, Holland, ISBN 90-277-1213-1 (Originally published in 1965, by Harper & Row).
  • Takeshi, SAITO.; Éléments de Mathématique (2020), University of Tokyo Press, ISBN 978-4-13-063904-0.

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